スタンダードAI PC向けプロセッサーが登場
法人市場へのAI PC普及の起爆剤となるか
インテル Core シリーズ3(開発コード名:Wildcat Lake)
インテルは2026年6月18日、4月16日に発表したAI PC向けプロセッサーの新製品「インテル Core シリーズ3 プロセッサー」(開発コード名:Wildcat Lake/以下、Core シリーズ3)について、詳しい説明を行った。Core シリーズ3は、すでにハイエンドAI PCおよびCopilot+ PCに採用されている「インテル Core Ultra シリーズ3」(開発コード名:Panther Lake/以下、Core Ultra シリーズ3)の下位に位置付けられるが、Core Ultra シリーズ3と同じアーキテクチャーが採用され、Core Ultra シリーズ3と同様に最新の製造技術である「Intel 18A」で製造される。
Core Ultra シリーズ3と同じ
Intel 18Aで製造されるメリット
従来のプロセッサー製造技術「FinFET」(インテルでは「Intel 3」などに採用)では、トランジスタを流れる電流(のオン/オフ)を3方向で制御するのに対して、Intel 18AではRibbonFET(GAA:Gate-All-Around)によって全方向(4方向)で制御でき、不要な電流の漏れを防ぎ電力効率を向上させられるメリットがある。
その結果、Intel 18Aで製造されたCore Ultra シリーズ3およびCore シリーズ3では、従来のIntel 3で製造されたプロセッサーに対して消費電力当たりの処理性能が15%向上している。
また半導体のトランジスタに電力を供給する経路を、チップの裏面へ移動させた業界初の裏面電源供給技術である「PowerVia テクノロジー」も実装されている。従来のプロセッサーの表面配線では電源や信号線などが入り混じるため、経路の混雑によって処理速度と電力効率がロスしていた。この設計は何十年にもわたって採用されてきたが、インテルのPowerVia テクノロジーによって電源を裏面に、グラウンドラインを表面に信号線をまとめることで混雑や電力ロスを解消し、プロセッサーの処理速度と電力効率を飛躍的に向上さることができたという。その結果、Intel 18Aで製造されたCore Ultra シリーズ3およびCore シリーズ3では、従来のIntel 3で製造されたプロセッサーに対して単位面積当たりの密度を30%向上させているという。

あえてスペックを抑えた最新製品を
コスパ重視で市場に投入する狙い
Core シリーズ3はCore Ultra シリーズ3の下位に位置する製品だ。Core Ultra シリーズ3を搭載するAI PCはハイエンドクラスの製品となり、一方のCore シリーズ3を搭載するAI PCはボリュームゾーンを担うスタンダードな製品となる。

ちなみにCore シリーズ3に搭載されるNPUの処理性能は15~17 TOPSとなるため、同プロセッサーを搭載するAI PCはCopilot+ PCの要求を満たすことはできない。
NPUを搭載するAI PC向けプロセッサーはここ数年、基本性能の向上とともにNPUのTOPS値を向上させながら進化してきた。ところがCore シリーズ3はTOPSだけではなく、Core Ultra シリーズ3に対してスペックを抑えている。その狙いは何か。

インテル 技術・営業統括本部 IA技術本部 部長 太田仁彦氏は「現在はAIが普及している転換期にあり、PCに求められる性能が変化しています。これからのPCに求められる性能を満たすために、Core シリーズ3を開発し、発表しました」と説明する。

これまで各PCメーカーはPC製品のラインアップをハイエンド、スタンダード、エントリーという大きく分けて三つの構成で組み立ててきた。そしてハイエンド製品には最新のテクノロジーが採用されたプロセッサーを搭載し、ボリュームゾーンには一つ前の世代のテクノロジーを採用したプロセッサーを搭載することで性能と価格の両立を図ってきた。さらにエントリー製品では価格競争力を優先したプロセッサーやテクノロジーの選択が行われてきた。
しかしAI活用が進展していく今後は、AIを利用するのに必要なPCに求められる要件が大きく変わっていく。企業ではボリュームゾーンのスタンダードなPCが最も多く導入されるが、そのスタンダードなPCにもハイエンドと同様にAIが快適に利用できるテクノロジーと性能を実現する必要がある。そのため従来の一世代前のテクノロジーを採用した「N-1」のPCでは、AIの業務活用に対応することが難しくなる。
そこでインテルはボリュームゾーンのPCに、最新テクノロジーを採用しつつコストパフォーマンスの高いプロセッサーを提供するためにCore シリーズ3を開発したというわけだ。
プロセッサーと搭載PCの両方で
高いコスパを実現する工夫の数々
前述の通りCore シリーズ3にはCore Ultra シリーズ3と同様の最新のテクノロジーが採用されている。例えばE-coreには「Darkmont」を、P-coreには「Cougar Cove」を搭載している。またNPUにはインテルで最新となる「NPU 5」を、GPUにも「Xe3 GPU」を搭載する。

ただしコア数や対応メモリーなどのスペックに差がある。Core Ultra シリーズ3ではCPUは最大8コアまたは最大16コアを搭載し、CPUは最大4コアまたは最大12コアを搭載する。これに対してCore シリーズ3ではCPUはP-coreが2個とE-coreが4の最大6コアとなる。GPUは最大2コアとなる。NPUはCore Ultra シリーズ3では最大50TOPS、Core Ultra シリーズ2(開発コード名:Lunar Lake)では最大48TOPSであるのに対して、Core シリーズ3のNPUは最大15~17TOPSとなる。ちなみに初代Core Ultra(開発コード名:Meteor Lake)のNPUは最大11TOPSだった。

これらCore Ultra シリーズ3のスペックと比較すると、Core シリーズ3のスペックは数字としては物足りないように感じるかもしれないが、全てのユーザーが実際の業務でCore Ultra シリーズ3が誇るスペックが頻繁に必要になるのかと問われれば、Core シリーズ3のスペックに納得できよう。
例えばCore Ultra シリーズ3はPCIeが合計12レーンあるいは合計20レーンを提供するが、業務で全てのPCIeレーンを使い切る状況が生じるケースは組織において限定的だろう。そのためCore シリーズ3では使い切れる必要十分なスペック(PCIe 6レーン)としているのだという。こうしたスペックもコストパフォーマンスに効いてくるだろう。

さらに太田氏はメモリーやストレージについても、性能とコストを高い次元で両立するスペックを採用している点をアピールした。Core シリーズ3ではメモリーにシングルチャネルを、ストレージはUFS 3.0およびGen 4 SSDを採用する。
太田氏は「シングルチャネルメモリーで日常的なタスクを快適にこなせますし、UFS 3.0はSSDと比較して低消費電力で低コスト、Gen 4 SSDはGen 5 SSDよりもコストを抑えながら性能とのバランスのとれた選択です。さらにこうしたスペックの結果、低コストのType-3 6層マザーボードでPCを設計することができます。これらの結果、コストパフォーマンスが非常に高いAI PCが実現できます」と強調する。
今後、Core シリーズ3を搭載したAI PCが各PCメーカーから発売されることだろう。現時点では製品の価格は予想できないが、Core Ultra シリーズ3を搭載するAI PCよりもリーズナブルなAI PCが市場に流通することは間違いないだろう。Core シリーズ3を搭載したAI PCによって、AI PCがビジネスPCのスタンダードになりそうだ。

なおCore シリーズ3はAI PCだけではなくエッジAIやロボティクスなどフィジカルAI領域でも採用を検討している企業が多数あり、実際に採用された事例も紹介された。Core シリーズ3がAI PCの普及促進だけではなく、フィジカルAIの普及促進もけん引していく存在になりそうだ。


