三宮雅仁さん
https://lisse-law.com/

マンパワーに頼らない法務支援を
──最初に、株式会社リセがどのような会社か、ご紹介いただけますか。
三宮 リセは、代表で弁護士の藤田美樹が2018年に立ち上げたリーガルテック企業です。
それまでの法務支援は、弁護士という人的リソースに大きく依存していて、また費用も高額になりがちでした。そこで代表の藤田は、テクノロジーと法律専門家の知見を組み合わせたサービスとして提供することで、合理的な価格で、業務を効率化し、これまで十分な法務支援を受けにくかった企業にもサービスを届けられるのではないかと考えました。それが創業のきっかけです。
現在は主力製品であるAI契約書レビューサービス「LeCHECK」のほか、契約書のAI自動管理サービス「LeFILING(リファイリング)」、翻訳機能サービス「LeTRANSLATE(リトランスレイト)」を展開しています。なかでも「LeCHECK」は、契約書の内容をAIが分析し、リスクや修正ポイントを指摘するサービスとして5,000社以上に導入されています(2026年1月時点)。


AIが契約書レビューを支援する「LeCHECK」
──主力製品の「LeCHECK」の機能についてご説明いただけますか。
三宮 メインとなるのは、法的リスクのチェックです。アップロードした契約書をAIが瞬時に解析し、立場に応じたリスク箇所、条項の抜けを指摘し、弁護士が作成した追加条文例や解説を表示します。
また、過去の契約書条文を検索してくれる機能も非常に便利です。私は弁護士になりたてのころ、夜中まで契約書を作成・修正していましたが、その場合過去に似たような取り引きで作成した契約書を探して参考にしていました。ただ、なかなか思っている契約が見つからなかったり、時間がかかったりすることがよくありました。「LeCHECK」には、過去の契約書を検索する機能も搭載されているので、法務担当者の「探し物」の時間が劇的に短縮されます。

――「LeCHECK」の開発で、一番難しかったところは、どんなところでしょうか。汎用的な生成AIでは、いわゆる「生成AIは平気で嘘をつく」といわれるようなハルシネーション(もっともらしい誤情報を生成する現象)が問題になっていますが、その点はクリアされているのでしょうか。
三宮 「LeCHECK」は、法務業務に特化した独自AIを開発しています。開発で特に難しかったのは、そのAIの精度を実務で使えるレベルまで高めることでした。法務は高い正確性が求められる分野です。そのため法務担当者が実務で安心して利用できる品質を実現することが、開発初期の最も大きな課題でした。
ChatGPTなどの汎用生成AIは、主にインターネット上の公開データを学習して構築されています。一方で、契約書レビューに必要なノウハウの多くは公開情報ではありません。実際の契約交渉やレビュー業務を通じて、弁護士や法務担当者の中に蓄積されているものです。
そこで「LeCHECK」では、各分野の専門弁護士のノウハウをAIに学習させた特化型AIを独自開発しています。
また、出力される指摘内容や条文案は、専門弁護士による検証やチューニングを重ねて提供しています。そのため、法務担当者が実務で安心して使える精度と信頼性を追求しています。

三宮 すべての契約書に対応する万能なAIをいきなり作るのではなく、1つの契約書の類型を完成させるために、専門チームが時間をかけて徹底的にケーススタディを繰り返し、それを積み重ねてきました。現在では対応する契約書の類型は100類型を超えており、一般的な企業活動で利用される主要な契約書には幅広く対応しています。
また、契約書を作成する際には、自社の立場に応じた内容にすることが重要です。売買契約でも買主と売主では利益が相反するので、どちらに有利なように作るのかで、文言が変わってきます。しかし、ネット上や市販の契約書サンプルでは、立場に応じた適切な内容のものはほとんどありません。
「LeCHECK」では、その分野の第一線の弁護士が、あらかじめ立場ごとに有利になるよう緻密にドラフトした高品質なひな形を準備しています。現在では1,000近くの契約書のひな形を用意しています。
また化学業界や不動産業界といった「業界特化型」のパッケージプランも提供しています。さらに、契約書だけでなく、役員変更などに必要な「議事録関係の登記書類一式」や「社内規定のサンプル」なども日英両対応で揃えており、スタート地点から自分たちにとって有利で安全な状態から書類作成を始められる周辺機能も充実させています。
下請け企業の権利が保護される時代に
――「LeCHECK」を導入している企業は、法務部門を持たない、中小企業も多いと思いますが、大企業から提示された契約書をチェックして、この条項が自社に不利とわかっていても、なかなか言えないのが実情ではないでしょうか。
三宮 私が弁護士になった20年以上前は、大企業と中小企業の取引関係において、大企業側から提示された契約書に対して、中小企業から修正を求めることははばかられる文化が一定存在していました。
しかし、現在はいわゆるフリーランス新法や取適法(下請法の改正法)の制定に象徴されるように、取引の公正化や受託側の企業の利益保護が重視されるようになっています。
もちろん、今でも取引の立場上なかなか意見を伝えづらい企業は少なくありませんが、一方で大企業側も合理的な内容であれば修正の相談に応じるケースが増えています。
そのため、私たちはお客さまに対して「まずは内容を確認し、必要であれば相談してみること」をお勧めしています。自社に不利な条件をそのまま受け入れてしまうケースも少なくないからです。
実際にトラブルが発生した際、契約書の内容が最終的な判断基準になりますから、契約書を結ぶ段階でリスクを把握し、必要な検討を行っていくことが重要です。

民事裁判のデジタル化がもたらす変化
――直近のニュースで、2026年5月21日から「民事裁判手続きのデジタル化」が動き出しました。これによって法律・法務の世界にはどのような影響があるとお考えですか。
三宮 民事裁判のIT化と、企業間の事前契約書チェックが、すぐに直接的なデータとして結びつくわけではありません。しかし、法律業界全体のDX(デジタルトランスフォーメーション)という大きな視点で見れば、非常に意義のある動きだと考えています。
正直なところ、日本の司法のデジタル化はアメリカなどに比べると20年ほど遅れています。アメリカは国土が広く、西海岸と東海岸の弁護士がわざわざ裁判所に出向くのが物理的に困難だったという背景もあり、早期からオンライン化が進んでいました。日本もようやくその後追いが始まったという段階ですが、非常にポジティブな変化です。
ニュースなどでは「裁判にかかる時間が劇的に短縮される」とか「事前に和解金の目安が分かるようになる」といった側面が強調されていましたが、期間の短縮に関しては間違いなく実現するでしょう。これまでは、両方の企業の代理人弁護士がスケジュールを合わせて実際に裁判所へ出向く必要があったため、日程調整だけで裁判が数ヶ月先へ先へと延び延びになっていました。そこがウェブ会議などのオンラインで済むようになれば、審理のスピードは圧倒的に速くなります。
また、過去の裁判例に関するデータの整備や利活用が進めば「万が一、この契約の条項を巡って揉めて裁判になった時、過去の判例ではどのような判断をしてきたのか」を把握しやすくなることも期待されます。
私たちは、そうした「揉めた時の最終的な結論」を逆算して頭に入れながら、日々の契約書を作っています。司法データの可視化が進めば、私たちのAIの精度向上にも、間違いなく好影響をもたらす循環が生まれるはずです。
AIを活用して法務支援の未来を創る
――最後に、今後の展望について教えてください。
三宮 生成AIの技術自体も、凄まじいスピードで進化しています。私たちは法務に特化した独自のAIエンジンに誇りを持っていますが、生成AIを敵対視するのではなく、今後は「独自の高精度エンジン」と「進化した汎用生成AI」を最も使いやすい形で組み合わせて、これまで以上に便利な製品へ昇華させていく方向性で動いています。
これまでは、法務担当者向けの「優れた補助ツール」という位置づけでした。私たちが目指す次の世界は、ユーザーの「作業そのものを徹底的に省いていくこと」です。「LeCHECK」を起動すれば、契約書のリスクの指摘だけでなく、自社の立場に最適な修正案を盛り込んだ「完成版の修正原稿」の作成までをAIが一気に行い、人は最終的な判断をするだけになるようなプロダクトへ進化して行きます。
――外部の法律事務所とのネットワーク連携といったリアルな展開もお考えになっているのでしょうか。
三宮 実はまさに今、そうした動線作りを具体的に進めています。プロダクトがどれだけ進化しても、AIだけでは完全に解決しきれない、最終的な人間の判断や、より複雑な個別紛争の解決といったニーズは一定数必ず存在します。
そこで、全国の信頼できる外部の法律事務所の先生方と強固なネットワークを組み、「入り口は『LeCHECK』を使って社内で契約書をチェックしているけれども、専門家のアドバイスが欲しい時にはシームレスに地域の提携弁護士へ直接相談・依頼ができる」という、テクノロジーとリアルなプロフェッショナルが融合した安心のプラットフォームを作れないかと模索しているところです。


