物理世界を動かすインフラへ
AWSが導く産業AIの全貌

2026年5月21日、アマゾン ウェブ サービス(AWS)ジャパン(以下、AWSジャパン)は「第3回 製造業界におけるAWSの取り組みに関する記者勉強会」を開催した。勉強会では、ハードウェアとソフトウェアを統合し物理世界と相互作用するシステム「フィジカルAI」をテーマに、AWSの取り組みや世界最大級の産業技術見本市「Hannover Messe 2026」での活動などが紹介された。自律的に判断し行動する次世代ロボティクスの基盤として注目が高まるフィジカルAIは、製造現場の柔軟性や生産性を大きく変える可能性を秘めている。

フィジカルAIの到来と
AWSが果たすインフラの役割

AWSジャパン
技術統括本部
ストラテジックエンタープライズ本部 本部長
岡本 京

 製造業の産業構造が今、大きな転換期を迎えている。冒頭、AWSジャパン 技術統括本部 ストラテジックエンタープライズ本部 本部長 岡本 京氏は、その背景として従来のロボティクスにおける限界を挙げ、「『フィジカルAI』という言葉が、世界的なトレンドとして台頭しつつあります」と、新たな技術革新の波が押し寄せている現状を強調した。

 従来のロボティクスは高精度で高速な動作、安定性に優れる一方で、全ての動作を事前にプログラミング(ティーチング)する必要があることや、予期しない状況や柔軟に形状が変化する物体のハンドリングが困難という限界があった。この課題を打破するのが「フィジカルAI」だ。

 フィジカルAIとは、ハードウェアとソフトウェアを統合し、視覚・理解・推論・学習を通じて物理世界と相互作用するAIシステムを指す。従来のデジタルAIが「コーヒーの淹れ方を説明する」存在だとすれば、フィジカルAIは「実際にコーヒーを淹れる」ことができる点が本質的な違いだ。フィジカルAIの適用領域は産業用ロボット、ヒューマノイド、自律走行車両、ドローンなど多岐にわたる。

フィジカルAIの概要。

 こうした技術の進化と共に、インフラ側から強力な後押しを続けているのがAWSだ。すでに米国では、病院内で医薬品や検体を自律搬送し、スタッフの業務時間を大幅に削減した医療ロボット『Moxi』や、既存の重機に自律システムを後付けして24時間稼働を可能にする建設分野の『Bedrock Robotics』といった、AWSを活用した画期的な事例が数多く生まれているという。さらに、Amazon自身も世界中の倉庫で100万台以上のロボットを自ら稼働させており、そこで培われた実践的なナレッジがAWSのサービスにフィードバックされている。

 このグローバルでの確かな実績とナレッジを背景に、日本においても「LLM開発支援プログラム」を皮切りに、「生成AI実用化推進「プログラム」を実施。さらに2026年は「フィジカルAI開発支援プログラム」を立ち上げるなど、フィジカルAIを活用していくための支援を拡大させている。「これまで培ってきたスマートマニュファクチャリングでの豊富な実績を強みに、仮想と物理をつなぐリファレンスアーキテクチャを提供しています。技術的なギャップを埋めるためのハンズオン支援を通じて、インフラ面からお客さまの挑戦に伴走していきます」(岡本氏)

Hannover Messe 2026で提示された
産業AIの大規模展開

AWSジャパン
自動車・製造事業統括本部
インダストリースペシャリスト & ソリューションズ
APJ 本部長
川又俊一

 AWSは、ドイツで開催された世界有数の産業技術見本市「Hannover Messe 2026」において、これら最先端のフィジカルAI技術を世界に向けて大々的に披露した。今年のHannover Messe 2026は、12万人を超える来場者で賑わい、同社のブースは大きな注目を集めた。

 AWSジャパン 自動車・製造事業統括本部 インダストリースペシャリスト&ソリューションズ APJ 本部長 川又俊一氏は、現地のAWSブースにおける出展コンセプトについて次のように説明する。「AWSのブースでは『Built for Industrial AI』をコンセプトに、自社の展示キオスクだけでなく、多くのパートナー企業と共に非常に広大なエリアを展開しました。単なる技術の切り売りではなく、製品設計から生産、サプライチェーン、そして保守サービスに至るまで、プロセスの壁を越えてデータをつなぎ合わせる『デジタルスレッド』の重要性をアピールしたのです」

Hannover Messe 2026におけるAWSブースのデモ展示のトピック。

 技術的なトピックとして会場を沸かせたのは、複数のロボットをAIエージェントが連携させて自律的に工程を実行する仕組みや、クラウド上の強度シミュレーション結果を生成AIが診断して設計者にアドバイスを返すといった、実用フェーズに入った高度なソリューションだった。

 さらに、欧州市場で極めて重要視される「データ主権」への要求に対しても、同社は明確な解を示した。全てのコンポーネントをEU域内に配置し、万一世界との接続が遮断されても独立して稼働を継続できる設計を採用した『AWS European Sovereign Cloud』である。同社はこの取り組みを強くアピールし、強固なセキュリティと運用上の回復力を確保しながら、製造業が安心して最先端のAI機能を導入できる環境が整っていることを印象づけた。

メタルコースターの製造デモが示す
「AI主導のものづくり」

AWSジャパン
自動車・製造事業開発本部
インダストリースペシャリストソリューションアーキテクト
山本直志

 最後に、Hannover Messe 2026のAWSブースで披露されたデモンストレーションの詳細についてAWSジャパン 自動車・製造事業開発本部 インダストリースペシャリストソリューションアーキテクト 山本直志氏が解説した。

 デモでは、来場者が「メタルコースター」をデザインして発注すると、目の前の生産ラインが完全自律駆動して製品を作り上げる仕組みが実演された。来場者が端末に文字を入力すると、「Amazon Nova」が即座にデザインを生成。画像だけでなく、レーザー彫刻機が読み込める加工用データへの変換までを自動で行う。発注後は、統括エージェントAIが生産ライン全体の制御を開始する。「従来の工場のようにPLCなどでルールを固めるのではなく、搬送ロボット(AMR)やロボットアーム、加工機などの全装置を、エージェントAIの『ツール』として定義しています。そのため、急な工程変更にもAIがその場で判断して動的にラインをコントロールできるのです」(山本氏)

会場で披露されたデモンストレーションの例。

 ほかにも、ロボットビジョンにより物体検知を行うことでコースターを正確に積み上げ・積み下ろしを行う様子や、AWS上で学習されたVLA(Vision Action Model)を用いたヒューマノイド「Unitree G1」が完成品を机まで運ぶデモンストレーションなども紹介された。

Unitree G1が完成したコースターを机まで運搬する様子。

「データ収集、クラウドでの大規模学習、デジタルツイン上のシミュレーション、そして実機エッジへのデプロイ。フィジカルAIに必要なスタックの全てが、AWS上で完全に循環していることを示せました」(山本氏)

 このデモは、単なる技術的な未来像ではない。クラウドと物理世界の連携が、ものづくりの現場で実際に大規模展開できる段階に達していることを示していた。フィジカルAIの社会実装は、製造業が次の競争力を獲得する上で、今後ますます重要性を増していくと考えられる。AWSでは、こうした次世代の産業インフラと開発プログラムを通じて、製造業が新たなイノベーションを創出できるよう、今後も強力な支援を続けていく方針だ。

Hannover Messe 2026におけるAWSのメッセージ。