多様なサブスクリプションサービスがリリースされる中で、顧客が本当に求めるサービスを導入するには、どう提案を進めればよいのだろうか。ソリューションのメリットをアピールしても、顧客が抱える悩みにフィットしなければ、導入につながらない可能性がある。本記事ではノークリサーチ シニアアナリスト 岩上由高氏に、サブスクリプションサービス提案で重要となる考え方を聞いた。
技術が顧客の業務でどう役立つか

シニアアナリスト
岩上由高 氏
ユーザー企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)を促す際、サブスクリプションサービスは非常に有効な手段の一つとなる。しかしサブスクリプション型のDXソリューションを提案するに当たって、そのソリューションをどうアピールすればよいか迷うことはないだろうか。そうした悩みに対して岩上氏は「DXソリューションを提案する際は、“技術視点”と“業務視点”の両方を抑えることが大切です」と話す。
「ITを取り扱う販売店とユーザー企業では、ソリューションの見方が異なります。例えばペーパーレス化の実現を考える際、販売店はソリューションを売りたいので、AI-OCRやスキャナー、ペーパーレス化後の経費申請を円滑にするワークフローシステムといった商材がまず頭に浮かぶのではないでしょうか。そして、これらのソリューションをどう提案していこうかと考えていきます。これが技術視点です。一方ユーザー企業は、ソリューションを使ってどの業務を改善するかにまず着目します。請求書のやりとりを電子化するのか、経費精算の領収書を紙からデジタルに移行するのか、もしくはその両方なのかなど、どの業務をペーパーレス化するかの方が大事なのです。これが業務視点です」(岩上氏)
続けて岩上氏は、技術視点と業務視点を踏まえて、ソリューション提案における注意点をこう語る。「例えば『あのユーザー企業はペーパーレス化を推進したいから、AI-OCRのソリューションを提案しよう』といったように技術視点だけで提案を進めてしまうと、ユーザー企業にはそのソリューションがどの業務に役立つのかが伝わりません。加えてユーザー企業の状況によっては、社員の大半が内勤で立て替え払いもほとんどないなど、AI-OCRによる領収書のペーパーレス化が不要な場合もあります。そのためAI-OCRの性能がどんなに素晴らしいかも大切ですが、AI-OCRがどの業務で役立つかも重要になります。DXソリューションは新しい技術を備えるものが多いので、販売店は提案の際にどうしても技術視点に寄ってしまいがちです。しかし、その技術がユーザー企業の業務でどう活用できるかという、業務視点を併せ持つことが非常に重要なのです」
顧客がサブスクに求めるメリットとは
ノークリサーチでは、技術視点を9分野、業務視点を8分野に整理している。「技術視点は、導入だけでなくコンサルティングも必要になる上位レイヤー、アプリケーションやソフトウェアなどの中位レイヤー、新たなハードウェアの導入が必要な下位レイヤーの三つのシステム階層を設定して、9分野に分類しています。例えばAIソリューションは、ただ導入しただけではユーザー企業側でうまく活用できない場合があります。導入と併せて、『この業務でまず使っていきましょう』という方針を一緒に決める必要があるのです。中にはコンサルティングをサブスクリプションで提供するものもありますが、現在はSaaSをサブスクリプションで提供するものが一般的です。一方業務視点は、ユーザー企業の部門をそのまま反映しています。こちらは業種特化レベルに沿って分類しており、業種に業務内容が依存しない会計/経理や法務は低い方に、業種に業務内容が依存する製造/生産や物流/調達は高い方に配置しています。また、技術視点/業務視点の分野に加えて、年商/業種といった企業属性、DXの全体状況も踏まえてユーザー企業を類型化する『DX導入パターン類型』を用いる分析方法もあります。DX導入パターン類型を基に、対象となるユーザー企業に有効なDXソリューションを導き出すやり方です」(岩上氏)
さらに岩上氏は、ユーザー企業はサブスクリプションサービスに三つのメリットを求めていると話す。「三つのメリットとは、『初期費用が安いこと』『いつでもやめられること』『メニューをいつでも変更できること』です。販売店側は一度サブスクリプションを契約したら、そのまま契約を続けてもらいたいと考えてしまいがちです。しかしユーザー企業は、いつでもやめられるメリットを求めて契約している場合があります。販売店が業務視点を持たずに提案してしまうと、ユーザー企業との間にギャップが発生し、お互いにミスマッチが起きます」

できる/できないことの説明が重要
ではギャップの発生を防ぐためには、販売店は何に気を付ければよいのだろうか。「販売店は売りたいサブスクリプションの分野を決めたら、次にそれをどういう人たちに使ってもらいたいかを考えると良いでしょう。自分たちが売りたいサブスクリプションサービスの強みが、初期費用が安くなることなのか、いつでもやめられることなのか、容量や利用者数といったメニューを柔軟に変えられることなのかによって、お薦めできるユーザー企業が変わってきます。ユーザー企業がサブスクリプションのどの側面に期待していて、その期待が自分が薦めたいサービスの強みと一致しているのかを考えなければいけません。これを考えていくことが、業務視点を持つということです」(岩上氏)
最後に岩上氏は、サブスクリプションサービスの提案に対して、以下のように提言した。「ユーザー企業がサブスクリプションに求める三つのメリットを挙げましたが、販売店はユーザー企業がどのメリットを享受したくてサブスクリプションを選ぶのか考えなければなりません。とりあえずサブスクリプションを使ってもらうのではなく、このメリットがあるからサブスクリプションを使ってもらうのだという点を、ユーザー企業に意識させることが大事です。これを意識してもらうことで、ユーザー企業は『うちの会社は初期費用を安くしたかったのか』や、『データ量の変動が多いから、メニューをいつでも変更できるものが良かったんだ』といったように、自社の業務と業務システムの相性をより深く考えるようになります。また、販売店が提案したいサブスクリプションサービスが三つのメリットを全て満たさない場合には、このサービスは何ができて何ができないのかを正直に話すことが大切です。きちんと説明することで、ユーザー企業の期待と販売店の提供する価値がミスマッチになることが減るでしょう。さらに販売店は、SaaSとサブスクリプションをイコールの意味で使うことが多いですが、ユーザー企業が持つサブスクリプションのイメージとSaaSにはズレがあります。このズレを理解しないと、ユーザー企業がサブスクリプションに求める期待と提案内容にギャップが生まれ、ユーザー企業がサブスクリプションに良くない印象を抱く可能性があります」

