Case.1
東京学芸大学附属小金井小学校

東京学芸大学附属小金井小学校は、教員養成を主たる目的とする東京学芸大学の附属学校だ。同校では長年、教科教育を重視した実践研究に取り組んでおり、教科書の編集員を務めている教員も複数在籍しているという。そうした教科研究を行う研究部会の一つに、ICT部会がある。そのICT部会が現在取り組んでいるのが、生成AIを活用した教育だ。

生成AIの活用にいち早く取り組む

 東京学芸大学附属小金井小学校(以下、小金井小学校)では、2017年ごろから企業の支援の下、一部のクラスで1人1台の学習端末を活用した学びをスタートしている。それを推進していたのが同校のICT部会 教諭の鈴木秀樹氏だ。鈴木氏はもともと国語部会に所属していたが、ICTの教育活用をさらに広げていく中で2019年ごろにICT部会が立ち上がった。

 そのICT部会で現在取り組んでいるのが、生成AIを活用した教育だ。小金井小学校では2023年ごろから対話型生成AI「ChatGPT」を授業で活用し始めており、2023年5月ごろからは「Microsoft Copilot」(以下、Copilot)についての教員研修も実施していた。

 鈴木氏と同様に小金井小学校のICT部会に所属し、ICTを活用した教育に積極的に取り組んでいる教諭 小池翔太氏は「2023年当時は、ChatGPTの学習モードをオフにした状態で、プライバシーに配慮しながらICT部会の教員が授業などで活用していました。そうした中、当時『Bing Chat』と呼ばれていた現在のCopilotが登場しました。本校では『Microsoft 365 Education』を契約していますので、学校が発行しているMicrosoftアカウントで安全にAIを利用できるのではないかと考え、環境の整備を進めました。特に本校は国立大学の附属学校であり、公立学校では難しい実験的なICT教育研究を進める使命があります。これも、本取り組みを進めた大きな理由の一つです」と振り返る。

議事録作成や保護者対応に活用

東京学芸大学附属小金井小学校
小池翔太
手にしているのは小池翔太氏、鈴木秀樹氏編著の「教師のためのCopilot仕事術!」と、鈴木氏編著の「AIが前提の教室で変わること 変わらない大切なこと」。いずれの書籍も小金井小学校の有志教員が活用事例を執筆している。鈴木氏は「初等中等教育段階における 生成AIの利活用に関するガイドライン(Ver.2.0)」策定にも携わっており、ガイドラインの考え方やAI前提の授業デザインについて学べる。

 小金井小学校では、校務の効率化とともに、子供たちの教育活動をより良くするという二つの軸で生成AIの活用を進めている。例えば校務では、職員会議の議事録作りや、学校文書や研究報告書、掲示物などで使う画像生成だ。

「校務にCopilotを使う上で教員に気を付けてもらっているポイントとして、セキュリティがあります。本校は教員向けに有償の『Microsoft 365 Copilot』ライセンスを導入していますので、そのアカウントを使用していれば入力したプロンプトや生成結果が基盤モデルのトレーニングに使用されることはありません。情報が保護されているかどうかはCopilotの右上にある保護マークで確認できますので、その有無を確認するように伝達しています。また生成AIにまつわるインシデントニュースをTeams上で情報共有し、セキュリティに対する意識を高めてもらっています」と小池氏。

 Microsoft 365 Copilotは、TeamsやWord、Outlook、Excel、PowerPointといったアプリケーションに統合されている。例えば小金井小学校では、コロナ禍をきっかけに職員会議をTeamsによるオンライン会議に移行している。その会議の記録(録画データなど)をCopilotに読み込ませ、議事録を作成しているのだという。「教員間でのCopilot活用事例として、運動会のプログラム名決めがありました。本校の運動会では2〜3人の子供が一組になって長い棒を持ち、台風の目のようにコーンの周りをまわる『台風の目』というプログラムを実施するのですが、これをもっとかっこいい名前にしたいな、という雑談をしていた教員たちが『じゃあCopilotでアイデアを出してみよう』とCopilotとブレインストーミングしながらプログラム名を考えました。そこで出てきた『旋風の覇者』というプログラム名は実際に採用され、運動会で使われました。ICT部会側から生成AIを使うことを指示するのではなく、ちょっとした遊び心から生成AIを活用する在り方というのはまさに理想的だと捉えています」と小池氏は語る。

児童らはイラストに対しての表現をTeams上のスレッドに投稿していく。
教員はそのスレッド上でCopilotを起動し、投稿された表現をCopilotにまとめさせる。Copilotは年齢制限により、13歳未満は使用できないため、授業利用では教員が意見をとりまとめてプロンプトに打ち込んでいる。
打ち込んだプロンプトに対してCopilotがチームの投稿内容を要約したり、投稿内容から「こういう表現がされています」といった要約文例を紹介したりした。
投稿内容を学習していないWindo ws標準搭載のCopilotにも同一のイラストを読み込ませ、そのイラストに対する表現を生成する。オムライスをプリンに誤認するシーンもあったが、教員がプロンプトで修正しながらさまざまな表現を子供たちに示していた。

生成AIが批判的思考力を引き出す

 このCopilotは、授業でも活用されている。取材した2年1組の国語の授業では光村図書の「ようすをあらわすことば」という教材を用い、デジタル教科書に示された「オムライスを食べようとしている男の子」のイラストに対して、子供たちはそれぞれ形容詞や副詞、擬音語、擬態語、比喩表現などを使いながら、それらを表現する文章を作り、Teams上に投稿した。小池氏がその文章をTeams上のCopilotに分析させたところ、Copilotは子供たちの考えを生かした表現として「山みたいに大きくて、ふわふわキラキラのおいしそうなオムライスを、男の子が目をかがやかせて見ている。」と回答した。続けて小池氏は、Windows 標準搭載のCopilotを起動し、Teamsの会話を学習させていない状態で、イラストを読み込ませ、小学校2年生向けに様子を表す言葉やたとえを使った文章を作るようプロンプトを打ち込んだ。するとCopilotは「男の子は、わくわくしながら、大きなプリンを見つめています」と、画像の認識を誤った回答を出力し、子供たちからは大きな笑い声が上がった。

 小池氏は「実は授業の前に同じイラストを読み込ませて検証していたので、Copilotがオムライスをプリンに誤認することは分かっていました。狙い通り子供たちの興味を引けましたし、AIが回答した意見は子供たちも意見を言いやすいんです。児童が教員に対して意見を言うことは難しいですが、生成AIに対しては言いやすい。生成AIを使うことで、授業に深まりが出ています」と授業を振り返る。

 Copilotから出力された誤りは、小池氏がプロンプトで指摘し修正していく。Copilotが始めに回答した「誤り」をきっかけに、授業ではCopilotが表した表現に対して、子供たちからさまざまな意見が飛び交った。現行の学習指導要領では物事を捉え、情報の妥当性を検証する、いわゆる批判的に考える力が重視されている。生成AIを活用することで、教室には教員と児童以外の「第三の存在」が生まれ、子供たちは示された表現に対して自分なりの見解を言葉にするようになる。結果として、考えを吟味し、判断を示す力を育むことにもつながっているようだ。

「Copilotを導入したことによる定量的な効果を測定することは難しいですが、仕事に対する心理的な負担軽減や効率化は実感しています。特に授業の振り返りでAIからの第三者的な評価を活用することで、より客観的な自己評価が可能になりました。教員の働き方改革を実現する上で、生成AIの活用はさらに重要になると思いますし、子供たちの学びを深めることにも役立つでしょう」と小池氏は語った。