デジタルハリウッドは1994年の創設以来、デジタル×クリエイティブ領域に特化した教育を実施しており、10万人以上の卒業生を輩出しているという。そのデジタルハリウッドがAI技術の研究・開発を手がけるneoAIと共同開発したのが、クリエイティブ教育特化型AIの「Ututor」(ユーチューター)だ。生成AI大賞2025で語られたクリエイティブ教育におけるAIを活用した指導の可能性とはどのようなものなのか、その可能性を探っていこう。

フィードバックの均一性を
AIの力でサポートする

デジタルハリウッド
スクール事業部
事務局マネージャー
笹野貴史

 デジタルハリウッドは、東京・大阪に専門スクール「デジタルハリウッド」を、全国各地にラーニングスタジオ「デジタルハリウッドSTUDIO」を展開するほか、通信講座「デジハリ・オンラインスクール」や、文部科学省認可の専門職大学院、四年制大学も運営し、ビジネス×ICT×クリエイティブ分野の人材育成に取り組む。

 デジタルハリウッドが提供する学びのジャンルは主に「CG/VFX」「Webデザイン」「動画」「グラフィックデザイン」だ。これらを制作するスキルを習得するには、動画教材などで知識を習得する「インプット」、作品制作を行う「アウトプット」、制作した作品に対して指導を受ける「フィードバック」といったサイクルを繰り返し、学びを定着させる必要がある。一方、この学びのサイクルで重要となるフィードバックに課題も生じていた。

 デジタルハリウッド スクール事業部 東京本校 小島千絵氏は「フィードバックを行う講師側は、抱える受講生の数が多く、十分な指導時間の確保やフィードバックの均一性を維持することが難しいという課題を抱えていました。また受講生側も、しっかり作り込んでからでないと質問がしにくかったり、社会人受講生などはそもそも質問したいタイミングに講師に相談することが難しかったりしていました。もともとデジタルハリウッドでは、動画教材プラットフォーム『Any』を提供しているため、インプットは場所や時間を問わずに行えます。そこでフィードバックも同様に、場所や時間を問わず行えるように開発をスタートしたのが、チューターAI『Ututor』(ユーチューター)です」と語る。

Ututorを事前に体験した受講生たちの様子。
実際に使った受講生からはフィードバックの早さなどが好評だった。

実務に即した評価軸で
作品の質を向上させる

デジタルハリウッド
スクール事業部
東京本校
小島千絵

 Ututorは、「Unlimited(無制限の)+Tutor(指導者)」を組み合わせて名付けられている。その名の通り、時間や場所に制限なく、いつでも何度でも作品のフィードバックを受けられる存在だ。「CG」「グラフィックデザイン」「動画」「Web」といった課題作品に対して、それぞれの分野特有の表現手法や評価軸に沿ってフィードバックを提示してくれる。

 CGの評価を例に見ていこう。受講生は自身が制作した静止画のCGコンテンツをアップロードすると、その作品をUtutorが分析し、フィードバックが表示される。総評のコメントのほか、フィードバック観点として、世界観、モデリング、テクスチャリングなどの項目が分かりやすい星の数で評価される。それぞれの項目をクリックするとUtutorからのコメントも表示されるが、そのテキスト内容は「褒めて伸ばす」ことを意識しており、良い点を褒める「Good」項目と、課題点を指摘する「More」項目が用意されている。またUtutorはAnyと連携しており、改善点を解決するために必要な方法を学べるおすすめ動画教材を示してくれる機能も搭載している。

 Ututor開発に当たり、こだわったのがこの各評価軸ごとの採点機能だという。「本校の特長の一つに、教員や講師の皆さまが実務家教員であることが挙げられます。そのため、例えばグラフィックなども、ポスターとしての評価軸をデザイン力だけを見るのではなく、広告物として目的が合っているかという「目的整合性」や、ターゲットに届くかという「ターゲット整合性」などの評価軸をフィードバック観点として設けています。これらの評価軸は評価基準を学習させるとともに、各分野の講師の皆さまと何度もやり直しを行いながら決めていきました」と小島氏。より実務に寄り添った評価軸でUtutorにフィードバックをもらえることで、視覚的魅力だけにとどまらない、広告としての正しい価値を持った作品作りに生かせるフィードバックを得られるのだ。

 Ututorでは前述した通り、CG、グラフィックデザイン、動画、Webといった作品に対してフィードバックが行える。フィードバックを行う流れは同じだが、作品のジャンルに応じてフィードバックの仕方は異なる。例えばWebデザインの場合、フィードバックコメントがUIのどこに当たるのか、視覚的に分かりやすく示す「付箋」機能で表現する。動画の場合、一定の長さがあるため、改善箇所を時間帯ごとに表示し、それをクリックすると改善箇所の部分を頭出しするように設定されている。

 デジタルハリウッド スクール事業部 事務局マネージャー 笹野貴史氏は「動画に対しては誤字脱字などの編集ミスのチェックや、気付きにくい放送規定違反の検知もUtutorがフィードバックしてくれます」と語る。

Ututorは作品に応じて分かりやすいフィードバックを行う機能を搭載している。画面はWebデザイン向けの付箋機能の様子。UIの評価ポイントを付箋のように示すことで分かりやすいフィードバックを実現している。

AIと講師が役割分担をして
クリエイティブの学びを深める

Ututorでは、受講生の良い所を伸ばすべく、評価できるポイントは「Good」、改善ポイントは「More」で示し、作品に対して詳細なフィードバックを行う、作品に関連したおすすめの動画教材も紹介し、より学びへの理解を深めることが可能だ。

 Ututorの運用は2025年10月からスタートしており、すでに受講生がフィードバックを受けている。「受講生からは『自由な時間にアドバイスを得られ、作品が良くなっていく実感がある』『クリエイティブなアイデアが浮かんだら即座にフィードバックがもらえるのでモチベーションが保ちやすい』という声が寄せられました」と笹野氏。

 「講師からは『AIが基礎的なフィードバックを担ってくれるため、受講生一人ひとりの個性にアドバイスをする時間が増えた』という声が寄せられています」と小島氏は語る。講師の視点から見ても、Ututorのフィードバックは的確だという。例えるならこれまでの講師陣にUtutorという講師が一人増えたようなイメージだ。基礎的なポイントをUtutorが指摘し、改善された作品に対して、生身の講師がトレンドや感性を踏まえたフィードバックを行うといった役割の違いがあり、AIチューターであるUtutorが人間の講師の仕事を代替することはないという。

 クリエイティブな分野でAIを活用する場合、懸念されるのが作品をAIに学習されてしまうことだ。Ututorは、受講生の作品課題をAIに学習させず、プライバシーと著作権を守って運用している。

「今後は受講者のバックボーンや経歴、スキルレベルなどをUtutorが判別できるようになることで、卒業後の目標に対してどのスキルを伸ばすべきか、といった学習のアドバイスを返せるような機能強化を進めていきたいと考えています。またデジタルハリウッドの在校生のほか、全国の提携大学や専門学校、および教育機関などへの提供も予定しています」と笹野氏。