「AIを用いた社会課題を通じて、幸せな社会を実現する」をミッションとして掲げるエクサウィザーズ。同社は大企業向けのコンサルティングやAI開発を行ってきた。その子会社として設立されたExa Enterprise AIは、エクサウィザーズの生成AI関連事業を引き継ぎ、「人の可能性を解き放ち、新たな挑戦に向き合える社会を実現する」をテーマに、生成AI技術を活用して企業や自治体の生産性向上や業務変革を推進している。AIエージェント元年と言われた2025年、同社のビジネスはどう変化したのか、その最前線を聞いた。

企業変革を加速する
多様なAIエージェント群

Exa Enterprise AI
exaBase生成AI事業開発部
ガバメント・アライアンス推進グループ
グループリーダー
田中耕太郎

 エクサウィザーズの生成AI関連事業を担う子会社として2023年10月2日に設立したExa Enterprise AI。同社は「企業が自らAIエージェントを作り、使いこなし生産性をあげていく世界を実現する」ことを目指し、企業変革を加速する汎用的なAIエージェント群「exaBase 生成AI」を提供している。そのexaBase生成AI事業開発部 ガバメント・アライアンス推進グループ グループリーダーを担う田中耕太郎氏は、exaBase 生成AIの活用状況を次のように語る。「exaBase 生成AIは現在、1,000社以上の企業に導入いただいており、利用ユーザー数も10万人を超えています。このexaBase 生成AIは、デロイト トーマツ ミック経済研究所の『法人向け生成AI導入ソリューションサービス市場動向2024年度版』において市場シェア1位を獲得しており、特に大企業を中心に活用が進んでいます」と語る。

 exaBase 生成AIで提供されるエージェントコレクションは、さまざまな業務ですぐに使える「エージェントコレクション」が用意されている“イージーオーダー”型のAIエージェントだ。例えば「調査エージェント」や「議事録作成エージェント」「資料作成エージェント」「マニュアル作成エージェント」などだ。

 これらのエージェントは個人の業務効率化に適している一方で、基幹システムと接続したり、企業特有のワークフローに対応したりするような組織横断型の活用には適していない。そういった組織横断型の活用に向いているのが“フルオーダー”型の「exaBase Studio」だ。exaBase Studioは自律型を含めたAIエージェントを内製できるAI開発環境であり、必要なコンポーネントを組み合わせた「AIエージェントテンプレート」を活用することで、自律型を含めたAIエージェント対応サービスを内製しやすくしている。またブロックを組み合わせるように、ノーコードでもAIエージェントを構築できるUIが実装されており、より幅広いユーザーがAIエージェントを内製できるようになっている。

バディエージェント実装で
業務を一気通貫サポート

 exaBase 生成AIのエージェントコレクションと、exaBase Studioで構築したAIエージェントは、exaBase 生成AIの「バディエージェント」によって統括し運用できるようになる予定だ。バディエージェントはユーザーがAIエージェントを利用する際の窓口としての役割を担い、事前のインプットでユーザーの意図を理解することで、自律的に各エージェントを選択して指示を出す。各専門エージェントが実施したタスクをバディエージェントが受け取り、ユーザーからの要望に合わせたスタイルで出力することで、業務を一気通貫でサポートできるようになる。

 田中氏は「exaBase 生成AIはOpenAIの『ChatGPT』シリーズに加えて、Googleの『Gemini』、Anthropicの『Claude』など複数のLLMに対応しています。これらのLLMはユーザーの業務やニーズに応じて自由に切り替えられます。現在、当社ではexaBase 生成AI上で20〜30のエージェントを提供しています(テスト中含む)。これらのエージェントをユーザーが自分で作れるようになったり、連携できるツールが増えていったりすることによって、さらに活用の幅が増えていくでしょう。例えば、『競合調査レポート』というエージェントを選ぶと、指定した企業について調査してレポートを作成してくれますが、これの裏ではさまざまなツールが連携して作業を行っています」と語る。

 具体的にはWeb記事検索、社内文検索(RAG)、ディープリサーチなどと連携して、AIエージェントが業務を遂行する。今後は他社サービスとの連携も強化していく方針で、近々チャットサービスの「Slack」とも連携する予定だ。連携により、Slack上のチャットデータを検索して、自律的に業務の遂行が可能になる。一方でこれらのクラウドサービスにAIエージェントがアクセスする場合、アクセス権限の設定によっては閲覧権限のない情報に、一般社員がアクセスしてしまうリスクも存在する。「Slack連携における権限管理などは今後検討を進めていきますが、ユーザーの声を聞きながら柔軟な権限設定ができるようにしていきたいと思います」と田中氏は語る。

左側にあるのがexaBase 生成AIのエージェントコレクション。ユーザーが代行してほしい業務に合わせてAIエージェントを選んで利用することで、複数のツールを組み合わせ一気通貫で業務を実行できる。
exaBase Studioの画面。テンプレートからアプリケーションを選択し、それを活用しながら自社に最適化されたAIエージェントを内製できる。

AIエージェント普及によって
SaaSビジネスに生じる変化

 エクサウィザーズでは、自社内の業務においてexaBase 生成AIを積極的に活用している。例えば、プレスリリースの作成や契約書のレビューなどをAIエージェントが行っているという。AIエージェントを活用することで、過去のプレスリリース文書の文体を踏襲しながら、製品の提案資料PDFなどの情報から必要な情報を抽出し、プレスリリースのドラフトを作成できるのだという。広報担当者はそのドラフトを基に、ブラッシュアップに注力できるため、非常に業務効率が上がったようだ。

 こうしたAIエージェントの普及に伴い、SaaSビジネスに変化が生じるだろうと田中氏は指摘する。「AIエージェントが普及すると、GUIとしてのSaaSがなくなる可能性はありますが、裏側のデータベースや基盤としての機能は生き続けます。一方で、SaaSのビジネスモデルは、現在のID課金から成果課金や従量課金へのシフトが考えられます。AIエージェントが多くの業務をこなすようになると、API料金などのコストが増加するため、ID課金の『使い放題』モデルは持続困難になる可能性があるためです」(田中氏)

 田中氏が冒頭に述べたように、現時点ではAIエージェントの普及は大企業が中心だ。中小企業での導入はこれからという中で、田中氏は「労働人口が毎年減少していますが、これの影響が大きいのは地方です。地方においては、DXやAIの導入が遅れている傾向があり、地方の人々がAIを積極的に活用できるように、地場の販売店の皆さまが支援する必要があります。そうした支援の一つとして、AIエージェントの提案や導入は不可欠になると考えています」と指摘した。