学習指導要領改訂
学習指導要領は時代の変化に合わせ、約10年ごとに改訂が行われる。次回改訂の基本的な方向性については、中央教育審議会の教育課程企画特別部会による論点整理が2025年9月に取りまとめられており、今後専門部会において、各教科等の具体的な方向性を議論し、2026年夏ごろに最終的な取りまとめが行われる予定だ。2026年度中には中央教育審議会による答申が行われる予定とされている。本記事では次期学習指導要領にまつわる事業と、その方向性を解説していく。
情報活用能力の育成を強化
中央教育審議会(以下、中教審)が2025年9月25日に公表した教育課程企画特別部会による論点整理では、次期学習指導要領に向けた基本的な考え方として、今後の検討の基盤となる以下の三つの方向性を示している。
1.「主体的・対話的で深い学び」の実装(Excellence)
2. 多様性の包摂(Equity)
3. 実現可能性の確保(Feasibility)
これら三つの方向性によって「多様な子供たちの『深い学び』を確かなものに」することを目指す。そのため、ある一つの方向性のみで改善を進めるのではなく、三位一体で具現化を行うことが求められている。
論点整理では「『主体的・対話的で深い学び』の実装は、次期学習指導要領に向けた第一の方向性とすべきもの」と示される一方で、このような学びを実現するための授業改善に不可欠なデジタル学習基盤の効果的な活用は「育成すべき資質・能力が十分に意識されず『深い学び』につながっていない事例もある」と指摘された。また、情報活用能力の育成に課題があるとも指摘されており、その抜本的な向上を図ることが求められている。
「中教審の論点整理では、『情報活用能力の抜本的向上と質の高い探究的な学びの実現』を独立した章として取り扱っています。現在の教育現場でも情報活用能力の育成には取り組んでいますが、指導内容が不十分であったり、小中高を通じた育成体系が不明確であったりといった課題が顕在化しています」と指摘するのは文部科学省 初等中等教育局 学校情報基盤・教材課 課長補佐 小林美陽氏。論点整理ではこの課題解決に向けて、以下の方向性を示しており、改訂に向けてさらなる検討が進められていく予定だ。
小学校段階:総合的な学習の時間に「情報の領域(仮称)」を付加
中学校段階:現行の「技術・家庭科」を「家庭科」と「情報・技術科(仮称)」に分離し、情報領域を強化
高等学校段階:小中学校段階の情報の系統性を踏まえて、「情報科」の内容をさらに充実させる

前述のような情報活用能力の育成にまつわる見直しを受け、実施するのが「学習指導要領改訂を見据えた情報活用能力の抜本的な向上」の取り組みだ。「情報活用能力育成のための実践・調査研究」に2025年度補正予算として4億円、「情報活用能力の育成・情報モラル教育に関する指導充実のための総合的な支援」に2026年度予算案として2.5億円、「中学校技術科における免許法認定講習の強化」に2026年度予算案として4,000万円がそれぞれ計上されている。
情報活用能力育成のための実践・調査研究では「情報活用能力育成のための実践研究」と「情報活用能力の把握に関する調査研究」に取り組む。情報活用能力育成のための実践研究では、移行期間を含め、どの学校でも情報教育を確実に実施できるよう、学習者用教材を開発し、実証校で活用して実践や検証を行う予定だ。
「開発する情報科の教材は小学校と中学校の二つです。実際に教材を作り、実証校においてそれらを活用していただいた上で、ブラッシュアップを進めていきます。また、以前から情報活用能力の調査には取り組んでおりましたが、来年度はその予備調査の時期に当たりますので、情報活用能力の把握に関する調査研究ではその予備調査を行いつつ、指導要領改訂後の調査をどのように進めるかなどの検討も行います」と小林氏。
技術科教員の指導力向上を目指す

初等中等教育局
教育課程課 教育課程企画室
審議・調整係長
平井里奈 氏
情報活用能力の育成・情報モラル教育に関する指導充実のための総合的な支援では「中学校技術科教師の指導力向上のための研修の充実支援」「情報モラル教育推進事業」「学校DX戦略アドバイザー事業」の三つの事業に取り組む。中でも中学校技術科教師の指導力向上のための研修の充実支援は、指導要領改訂を強く意識した事業だ。前述した通り、次期学習指導要領ではこれまでの技術科の学習内容の情報の分野が厚くなり、情報・技術科(仮称)となる予定だ。一方で、中学校技術科の教員は、最新のテクノロジーの進化や社会の変化に対するインプットが必ずしも十分とはいえない場合もある。そうした変化に対応し、情報分野の指導力を向上させるため、研修用授業解説動画を作成したり、研修を提供したり、自治体の指導体制強化のためのネットワーク作りの支援を行うことで、指導力向上を図るという。
「中学校の技術科にはもう一つ課題があります。現在中学校の技術科を教えている教員の中には、技術科の教員免許を持っていない教員が一定数存在します。もちろん、何らかの事情があって専門の免許を持っていない人が授業に当たる場合は、都道府県に申請をすれば免許外で教えることが可能です。しかし、望ましい状況とはいえません。そこで実施するのが、中学校技術科における免許法認定講習の強化です。具体的には教員養成課程を置いている大学に委託し、オンラインを活用しながら現職の先生方が認定講習を受け、技術科の免許を取得できるよう支援します。座学などはオンラインで受講できるよう、拠点大学における認定プログラムの開発・運用を行う『オンラインを前提とした認定講習プログラムの開発・運用等』を実施します。またオンラインでは実施できない実習を伴う一部の課程については、全国の会場で対面で実施し、指導を補佐する連携大学への支援を実施する『認定講習プログラムの全国展開を支える連携大学への支援』でサポートしていきます」(小林氏)
学習指導要領もデジタル化
今回の学習指導要領の改訂では、その形態についても見直しが進められている。現行の学習指導要領は紙の冊子およびそのPDF版で提供されているが、それをより教員の授業作りで活用しやすくするため、UX(ユーザーエクスペリエンス)を重視した「デジタル学習指導要領」の提供を検討している。
文部科学省 初等中等教育局 教育課程課 教育課程企画室 審議・調整係長の平井里奈氏は「学習指導要領は小学校、中学校、高等学校等ごとに作成されており、300〜600ページ程度のボリュームがあります。また教科等ごとに学習指導要領を解説した資料として『学習指導要領解説』も発行されており、こちらも1冊150〜300ページ程度のボリュームがあります。これらの学習指導要領を授業作りで参照する場合、必要な情報を絞り込む上で非常に時間がかかります。PDFデータでも配布していますが、単元に関連するキーワードで検索しても検索結果が一覧表示されず、一つひとつ該当箇所を確認しなければならなかったり、異なる教科の情報もヒットしてしまったりして利便性に欠けていました」と課題を語る。
加えて学習指導要領と、教科書や指導書といった関連する情報源との対応関係が分かりにくいという意見も存在するという。中教審の論点整理でも学習指導要領の使いにくさが指摘されており「学習指導要領の目標・内容の構造化・表形式化・デジタル化等により、分かりやすく、使いやすい学習指導要領を目指す」ことが示されている。
このような、既存の学習指導要領の課題解決に向けて実施するのが「デジタル学習指導要領の実現に向けた調査研究」だ。2025年度補正予算として1億円を計上し、デジタル学習指導要領に必要な機能や、具体的な表示方法等に関する調査研究に取り組む。
「現在想定しているイメージとしては、学習指導要領とその解説のデータを、教科ごと、学年ごとに絞り込んで一体的に確認したり、キーワード検索できたりするような機能などを想定しています。学年や教科を跨いだ検索を可能にし、資質・能力の連続性や教科の系統性を把握しやすくすることで、深い学びにつながる授業作りに生かせるよう検討しています」と平井氏。また、生成AIが読みやすい形で学習指導要領データを提供することで、学習指導要領をベースにした指導案の作成を行いやすくすることも検討している。将来的には、従来の紙とPDFに加え、デジタル学習指導要領を提供することで、教員の日々の授業作りの中で使いやすい学習指導要領を目指す。

デジタル教科書の標準仕様に向けて

初等中等教育局
教科書課
デジタル教科書企画係長
竹下力哉 氏
学習指導要領改訂に合わせ、教科書の改訂作業も進められる。そうした中、「教科書の形態としてデジタルも認められるべき」だとする中教審のデジタル教科書推進ワーキンググループの審議まとめが公表された。現在教育現場で使われているデジタル教科書は、教科書検定を合格した紙の教科書と同一の内容をデジタル化した「教科書代替教材」に位置付けられており、あくまで紙の教科書との併用が前提となっている。しかし、次期学習指導要領では「デジタル学習基盤を前提とした新たな学びの在り方」が求められており、それにふさわしい教科書・デジタル教科書の在り方が議論されている。
本審議まとめを踏まえ実施されるのが、「デジタル形態を含む教科書の標準仕様等に関する調査事業」だ。2025年度補正予算において2億円が計上されている。本事業では新たに設置する検討会議において、教科書発行会社、配信事業者、教育現場関係者および有識者等の間の検討・協議を行うことで、デジタルな形態も含む教科書の標準仕様を定めるとともに、テスト開発も通じた検証を行う。
文部科学省 初等中等教育局 教科書課 デジタル教科書企画係長 竹下力哉氏は「現状では、デジタル教科書は教科書代替教材として位置付けられていますが、制度改正により、教科書の形態としてデジタルも取り入れて作成することを認める方向で検討しています。その際、デジタル形態を含む教科書は2030年度の導入が予想されるため、2026年度の早期から教科書発行会社が著作・編集の企画に取り組めるよう、環境整備を進める必要があります。その教科書発行のために必要な標準仕様として、どういった機能が必要かを検討するのが本事業です」と語る。
制度改正後の教科書は、各市区町村等が「紙の教科書」「(紙・デジタルを組み合わせた)ハイブリッドな形態の教科書」「デジタル媒体のみの教科書」のいずれかを採択し、教育現場で運用する。いずれの教科書を採択した場合でも教科書無償給与制度の対象となるため、コストが生じることはない。一方で、教科書を発行する会社や教科書採択を行う教育委員会、学校としては、どの形態がどの教科の学びに最適かといった判断に迷う部分もあるだろう。このため、文部科学省では、教育現場で円滑に新たな教科書が使用されるよう、教科書の発行や採択に当たってのガイドラインの策定も検討しているという。

