高等学校改革

高等学校教育の改革が進んでいる。2026年度からは、私立高校も含めた全ての高校において授業料が実質無償化されることが検討されている。これは教育の機会均等を図ることを目的としている。その一方、全ての子供たちに対して、学びの質や機会を保証するためには、公立高校や専門高校に対しての支援の拡充も並行して進めていく必要がある。その取り組みの内容を解説していこう。

三つの類型の改革先導校を設置

文部科学省
初等中等教育局参事官(高等学校担当)付
参事官補佐
菊地勇次

 文部科学省は「高等学校教育改革の推進」において、2025年度補正予算として3,009億円を計上している。この中で最も大きな事業が「高等学校教育改革促進基金の創設〜N-E.X.T.(ネクスト)ハイスクール構想〜」(以下、ネクストハイスクール構想)※であり、2,955億円が割り当てられている。文部科学省 初等中等教育局参事官(高等学校担当)付 参事官補佐 菊地勇次氏は「当省でも2040年に向けて『高校教育改革に関するグランドデザイン2040(仮称)』の策定を進めています。都道府県はこのグランドデザインに基づき、実行計画を策定していく必要がありますが、一定の時間を要します。一方で私立高校の無償化も含めた高校改革は、すでに待ったなしの状況であり、2025年度補正予算において、まずは先行してネクストハイスクール構想をはじめとした高校教育改革を推進していきます」と語る。

 ネクストハイスクール構想とは一体どのような取り組みだろうか。主体となるのは「産業イノベーション人材育成等に資する高等学校教育改革促進事業」だ。2,955億円のうち2,950億円が割り当てられている。これは各都道府県に基金を設置し、高校教育改革を先導する拠点のパイロットケースを創出すると同時に、その取り組みや成果を域内の高校に普及するものだ。この改革先導校は、以下の三つの類型に分類される。

1. アドバンスト・エッセンシャルワーカー等育成支援
2. 理数系人材育成支援
3. 多様な学習ニーズに対応した教育機会の確保

「2040年には、産業構造や社会システムの変化を踏まえた労働力需給ギャップにより、地域の経済社会を支えるエッセンシャルワーカーや、いわゆる理系人材の不足が懸念されており、産業イノベーション人材の育成が不可欠です。加えて、少子高齢化、生産年齢人口の減少、地方の過疎化が一層深刻化しています」と菊地氏は現状の課題を語る。

※N-E.X.T.(ネクスト)ハイスクール:New Education,New Excellence,New Transformation of High Schoolsの略称。

専門高校や公立高校の環境を整備

 アドバンスト・エッセンシャルワーカー等育成支援は、主に農業高校、工業高校、商業高校、水産高校などの専門高校に対して重点的な支援を行う。これらの専門高校の生徒たちは、将来的に地域産業や社会・生活基盤を担う。そうした人材の育成を取り組むためには従来型の農業だけでなくドローンやIoTなどの先端技術を活用した農業のDXも今後必要となる。技術革新のスピードが加速する時代に適した課題解決能力の獲得に向けて、探究的・実践的な学びの積み重ねや、深まりのある学びの支援に取り組んでいく。

 理数系人材育成支援は、その名称の通り、理数系の素養を身に付ける支援を行い、自ら問いを立てて解決する研究を通じて、高等教育を見据えた文理融合の学びを実現する。菊地氏は「社会において理数系人材が不足している中で、大学に対して理系転換として理系学部等の新設を行う支援も進めていますが、一方で理系学部に進学する人材を育てることも重要です。また、普通科高校では通常2年生の段階で文理のコース選択を行いますが、いったん文系のコースを選ぶとその後理系の大学に進むことは難しくなります。文系理系にかかわらず、同じように理系の素養を学ぶことで、将来的に理系大学に進学する生徒が増えれば、テクノロジーなどの成長産業を担う人材の増加につながります」と語る。

 これらの学びを実現するため、アドバンスト・エッセンシャルワーカー等育成支援と理数系人材育成支援の改革先導校は、学科・コースの再編、学校設定科目の新設や、高等教育機関・地域・産業界との連携・外部人材の登用などを行うとともに、学ぶ意欲のある高校生が、家庭の経済状況に左右されることなく、学びへ向かう姿勢の確立ができるよう、学校と地域の連携による学力向上や学習支援のための取り組み、探究活動の深化による多様な進路に向けた支援を行っていくという。

 アドバンスト・エッセンシャルワーカー等育成支援では、地域産業界と連携し、最新の農業知識を学ぶ機会を提供したり、公立学校では整備が難しい最新の農場や牛舎等を整備したりすることで、産業教育の高度化を支援することを想定している。理数系人材育成支援の改革先導校では、分析装置や解析装置、ドラフトチャンバーなど、大学の研究室に整備されているような機器を用意し、大学教員と連携しながら先進的な理数教育を実践できる環境を整備する取り組みを想定している。「理工系の大型設備を設置する場合、それに合わせて施設の補強なども必要になると思います。それらのトータル支援も想定しています。また文理融合の学びを実現するためには、理系の学びを行える環境や、多目的に使える施設も必要になるでしょう。例えば3Dプリンターなどの先端ICT環境を整備したデジタルラボのような環境の整備にも、本事業の支援を想定しています」と菊地氏は語る。

 多様な学習ニーズに対応した教育機会の確保では、人口減少地域に対して、魅力ある学びの選択肢を増やすため、地域の教育資源を生かした学びや、遠隔授業を活用した学びの提供を実現する。通信制高校の進学率も高まっている中で、高校生の多様な学びのニーズに対応するため、遠隔授業を活用することで、場所を問わない生徒の学びを確保していく。

DXハイスクールは1,300校規模へ

 これら三つの類型の改革先導校における着実な実施を支援するため、都道府県の進捗の確認・評価を行うとともに、類型ごとに、ノウハウの共有や専門家による支援を行うため「高等学校教育改革加速に係る伴走支援事業」に2025年度補正予算として2,955億円のうち5億円が割り当てられている。

 ネクストハイスクール構想における支援機関は3年程度を予定しており、各都道府県に基金を設置し、類型に応じた高校教育改革を先導する拠点のパイロットケースを創出することで、その取り組みや成果を域内の高校に普及していく。高等学校教育改革促進事業における改革先導拠点創出に係る経費の全額補助を予定している。

 高校教育改革の推進ではほかにも、「高等学校DX加速化推進事業」(以下、DXハイスクール)に52億円、国際交流・留学プログラム構築推進事業に2億円が割り当てられている。DXハイスクールは2023年度補正予算からスタートした事業であり、情報や数学などの教育を重視するカリキュラムを実施するとともに、専門的な外部人材の活用や、大学などとの連携を行いつつ、ICTを活用した探究的・文理横断的・実践的な学びを強化する学校への支援を行うものだ。「現在、1,191校がDXハイスクールに採択されています。一方で、昨年度新規に申請してきた661校のうち、採択されたのは213校のみであり、多くの学校が選ばれなかったという実情があります。そこで今年度のDXハイスクールでは1,200校程度としていた支援対象校を、次年度は1,300校程度に増やします。一方で、新規採択校の質を担保するための審査も強化していきます」(菊地氏)

 今後に向けて菊地氏は「それぞれの事業において必要なポイントを整理しながら、支援の枠組みをどう進めていくのか、引き続き議論を進めていきたいと思います」と語った。

※必須要件に加えて、類型ごとの取組を重点的に実施する学校を重点類型として補助上限額を加算(80校(半導体重点枠を含む))