「情報を探す」から「AIに選んでもらう」へ
あなたは商品を選ぶ時に、何を参考にしているだろうか。多くの人はネットで検索し、レビュー記事や評価、「いいね」の数などを基準にして選んでいるだろう。ネット社会の現在、マスメディアの影響力は低下し、大量広告が効力を失ってきており、SNSや評価サイトに投稿された口コミが重視される傾向が強まってきた。だが、本書は、SNSや評価サイトの口コミもこれからはAIがすべてを裸にしてしまうと予想する。
今でも、わざわざAIに相談しなくても、ECサイトで何が表示されるかはすでにAIで決定されている。その人の書き込みや閲覧傾向をAIが分析し、「お勧め」を出してくる。
消費者は「情報を探す」存在から、「AIに選んでもらう」存在へと変わりつつある。検索結果を自ら比較検討するのではなく、AIが要約・推薦した選択肢の中から意思決定を行うことになる。この構造変化は、マーケティングの前提条件そのものを揺さぶっていると著者は述べる。
「認知を取る」から「選ばれ続ける」へ
従来のマーケティングでは、AIDMA(Action Interest Desire Memory Action)やAISAS(Attention Interest Search Action Share)のように、いかに認知を獲得して比較検討の土俵に乗せるかが重要事項だった。
Webが購買行動の主流になると、どのようにして自社サイトをGoogle検索のトップページに載せるか、SEO(検索エンジン最適化)を行うことが、オンラインショップやプロモーションサイトを運営する上で最重要項目になった。
数年前、専門家の監修を受けず、著作権を無視したコピー&ペーストで大量記事作りを行ったまとめサイト事件が社会問題となった。この背景にあったのは「大量の記事を、頻繁に更新するサイトが上位表示される」という検索エンジンのアルゴリズムの存在だった。
だが、AIは「です。ます。」を「だ。である。」に変えたり、つぎはぎした粗悪なコンテンツを即座に見抜いてしまう。どことどこのサイトからコピーしたかも指摘できる。
Amazonでは購買者にクーポンを配るなどして高評価を書いてもらうショップが存在する。不自然な「やらせレビュー」はすでにチェックするアプリが存在するが、今後はその精度がさらに上がるだろう。
影響力を持つインフルエンサーにお金を払って、さも自分が使って良かったかのような記事を投稿してもらうステルスマーケティングは、法律で規制されていてもなかなか減らないのが現状だが、これすらもAIは見抜いてしまう。本書によれば「Aさんの投稿ではきわめて高評価されていますが、一般ユーザー1,000人の投稿では7割が使いにくい、といった評価です」と教えてくれるのだ。
マスメディアが信じられなくなり、口コミ(バイラル)マーケティングも神通力を失う時、消費者は何を基準に商品を選択するのか。
本書では「生活者が何を信頼するのか」「なぜそのブランドを好きになり続けるのか」という視点から、短期的な目標達成ではなく、文脈・ストーリー・一貫性を持ったブランド体験の積み重ねであることが強調される。
その鍵となるのが「ファン」。著者は「ファン」を基本としたマーケティングの第一人者だ。本書ではリアルなファン作りとAIを連携させて商品、サービスが消費者に受け入れられる方法を解説している。
ファンとは「囲い込む存在」ではない
本書で主張しているのは、ファンを囲い込み対象として扱わないということだ。ファンとは、企業が管理する存在ではなく、価値観や姿勢に共鳴して自発的に関係を持ち続けてくれる存在である。
筆者は企業側が「何を信じ、何を大切にし、何をしないのか」を明確にできているかが、AI時代の評価軸になると指摘する。
ここで提案されているのがTRUSTというフレームワーク。AI語への翻訳(Translation)、リポートとレビュー(Report & Review)、差別化ポイントと独自性(Uniqueness)、誠実な設定と対応(Sincerity)、そして企業の真実性(Truthfulness)の頭文字を並べている。
AIに理解しやすい言葉で商品を説明し、第三者機関の実験結果、専門家の評価、比較試験データといったエビデンスを積極的に公開する。レビューは評価サイトの点数や生活者の生の声だ。差別化ポイントは生産者が考えるよりもファンに聴こう。製造原価など企業が隠したがる情報も積極的に公開することが誠実な設定につながり、スローガンと実際の企業行動、たとえば「お客さま第一主義」を掲げながらユーザーサポートの対応が非常に悪いといったレビューが多く見られないか、過去の不祥事を無かったことにしていないかが企業の真実性ということになる。
AIはこれらの項目を調べ上げ、白日の下に晒してしまう。隠そうとしても無理なのだ。製品の原料調達から製造、販売、顧客対応、そして社員の福利厚生を含めて、その会社が愛すべき存在なのか、ファンになりたい企業なのかが問われる。
AIを万能視していないか
気になったのは、著者はAIを万能視しているのではないかという点。現在のAIはインターネット上のデータを大量に自動学習する機械学習で人間に匹敵する、あるいは人間を越えた知能を獲得した。だが、2025年の1年間で、世界では非公開のものを含んで150~180ZB(ゼタバイト、10の21乗バイト)のデータが生み出されたと推定されている。ちなみに「地球に存在する砂粒の数」が1ZB、「全宇宙に存在する恒星の数」が20ZBという。3ケタZBがどれだけ膨大な量か想像できるだろうか。AIといえどもこれらすべてを学習することは不可能だ。動画複製やたわいもないつぶやき、スパムやコピー記事、ノイズは学習する必要がないというか、品質が落ちてしまう。AIはデータ量ではなく、良いデータを学習しなければ進化できない。
また、ユーザーの声が商品の高評価につながるという本書の主張は大企業による大量の「やらせ」レビュー投入、飽和攻撃の前にどれだけ優位に立てるのか疑問がある。AIが消費者の生の声を優先的に取り上げるという前提は差し引いて読むべきだ。
マスメディア、マス広告の効力が衰え、どうすれば消費者に選んでもらえるのか。現在のマーケティングは進むべき道が見えずにさまよっている感もある。
本書は、「明日から使えるノウハウ集」ではなく、ファンの声を重視して長期的なブランド構築を行うことこそが企業の選ぶ道と主張している。AIが選ぶ時代において、最後に選ばれるのは「一貫した思想を持つ企業」だという著者の主張は、流行語としてのDXやAI活用に疲れ始めた経営層やマーケティング担当者にお勧めだ。
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