東芝のスマートマニュファクチャリング事業

東芝が7月4日に開催した技術サロンでは、製造業のスマートマニュファクチャリング化を加速する東芝のデジタルソリューション群が紹介された。

製造業におけるスマートマニュファクチャリングを
加速する東芝のデジタルソリューション

東芝グループ(以下、東芝)が最新技術や研究成果、社会課題への取り組みを社外に向けて発信するイベント「東芝技術サロン」の第29回が、7月4日に開催された。今回のテーマは「製造業のスマートマニュファクチャリング化を加速する東芝のデジタルソリューション」だ。当日は、東芝のスマートマニュファクチャリング事業の概要や製造現場におけるAI活用について解説された。今回はそれらの内容を一つずつひも解いていく。

三つのキャッチフレーズの下
製造業のデジタル化を推進

 東芝は「現場がつながる」「企業がつながる」「未来へつなげる」という三つのキャッチフレーズの下、スマートマニュファクチャリング事業を推進している。まずは「現場がつながる」から見ていこう。これは、製造現場の情報をデジタル技術で連携し、活用することで、生産性向上や課題解決を目指す取り組みだ。具体的なソリューションとして、製造実行システム(MES)の「Meister MES NEO」が紹介された。Meister MES NEOは、東芝が長年にわたり蓄積してきた多様な製品や生産形態に関する知識とノウハウを集約することで、個別受注生産と大量生産の双方に対応している。「個別受注生産ではMESを導入しないケースが多いですが、今後産業ロボットを導入していくに当たり、MESを導入する必要が出てきています。それを見越してMeister MES NEOは個別受注生産にも対応しています」と、東芝デジタルソリューションズ スマートマニュファクチャリング事業部 技師長 岸原正樹氏は語る。

 またMeister MES NEOは、ものづくりデータの活用・蓄積・収集までをワンストップで提供する「Meister Factoryシリーズ」と連携することで、データの収集から活用までサポート可能だ。Meister MES NEOで収集した製造実績データに加え、IoTデータ、センサー値、ERPなどの基幹システムからのデータといった多様なデータを一つのデータ基盤に統合することで、リアルタイムで製造現場の状況を把握できる。これにより、複数拠点間の情報共有、不具合要因の追跡、経営判断に必要なデータのタイムリーな可視化が可能となるのだ。「従来のデータ活用における課題として、データの種別ごとに仕組みや定義が異なっていることがありました。しかし統一されたデータ基盤で各工程のデータを管理することで、必要なデータを必要な時にすぐ活用できるようになります。こうしたデジタルソリューションに、東芝のスマートファクトリー化の取り組みに基づく実践経験に裏付けされたプロセス推進やデジタル化手法を掛け合わせることで、お客さまのスマートファクトリー化を支援できます」と、岸原氏は東芝の強みを語る。

カーボンニュートラル実現のために
工場の稼働状態を多角的に見える化

東芝デジタルソリューションズ
スマートマニュファクチャリング事業部
技師長
岸原正樹

 続いて「企業がつながる」を見ていこう。これは、複数の企業が連携して新たな価値を創出し、ものづくり全体の最適化やサプライチェーンの強靭化を目指す取り組みだ。具体的なソリューションとして、企業の枠を超えたモデルベース開発を実現するプラットフォーム「Venet DCP」が紹介された。

 従来のモデルベース開発(MBD)では、異なる企業が保有するモデルを組み合わせる際に、移植作業や接続作業に手間とコストがかかっていた。またモデルが機密情報であるため、他社に提供することに抵抗があり、必要なモデルが十分に集まらないという課題も存在していた。こうした課題に対しVenet DCPは、製品メーカーと部品サプライヤーが分散して保有するモデルや開発ツールをサイバー空間上で一つにつなぎ、モデルを秘匿したままシミュレーションを行える。岸原氏はVenet DCPのメリットについて「製品メーカーは初期段階でリスクを排除し手戻りを減らせます。さらに部品サプライヤーは完成品を意識した開発が可能となり、開発の最適化につながります」と強調する。

 最後に「未来へつなげる」を見ていこう。これは、持続可能な社会の実現を目指し、ものづくりの未来を追求する取り組みだ。具体的には、カーボンニュートラルの実現と製品ライフサイクルを通じた価値提供を行うという。

 東芝では、2050年までにカーボンニュートラルを実現するという目標を掲げている。この目標を達成するために「Meister OperateX」を活用しているという。Meister OperateXは、工場やプラントの設備群の稼働状態を多角的に見える化し、コストの削減や省エネを意識した運転計画の立案、動力の安定供給、CO2排出量の見える化を実現するアセットIoTクラウドサービスだ。府中事業所では、Meister OperateXで収集・分析したデータを基にKPIダッシュボードを作成し、それをサイネージに表示することで、現場の従業員にエネルギーマネジメントへの意識を促している。今後は、このソリューションを社外の顧客にも展開していくという。

 また製造業では、製品の出荷や納品だけでなく、運用・保守の段階での価値向上も求められている。岸原氏はその手法としてソフトウェア・デファインドを挙げており、それを実現するソリューションとして「Meister RemoteX」を紹介している。Meister RemoteXは、リモート監視や故障予兆、リモートログインといった機能を備え、保守業務の効率化と最適化を支援するアセットIoTクラウドサービスだ。東芝ではMeister RemoteXを活用し、エレベーター向けのクラウドサービス「ELCLOUD」を提供している。制御盤をソフトウェア・デファインド化することで、スマートフォンからの呼び出しやロボットとの連携、リモートでの管理支援といったクラウド経由での機能追加やアップデートを可能にしている。

製造バリューチェーンを
東芝のAIで最適化する

 本技術サロンでは、製造バリューチェーンにおけるAI活用についても説明された。AIを活用したソリューションとして、「現場作業見える化パッケージ」が紹介された。現場作業見える化パッケージは、リストバンドセンサー、ビーコン、ヘッドセットなどを用いて、作業員の位置、動作、状態、発話データを自動で収集する。これらのデータを行動推定AIが分析することで、「どこで」「誰が」「何をしていたか」を把握でき、作業効率の改善につなげられるのだ。また、作業員自身にも日々の作業状況がフィードバックされるため、振り返りによるスキル向上も期待できる。

 開発中のソリューションとして、生成AIやAIエージェントを活用した技術も紹介された。生成AIの業務活用については、設備マニュアルや過去レポートなど、現場に蓄積されたノウハウを生成AIで簡単に検索し、回答を得られるようにする機能を、現場作業見える化パッケージの一つとして提供する予定だという。現場作業での利用を想定し、ハンズフリーで操作できるように、音声による質問を認識し、その場で音声による回答を返す仕組みとなっている。

 AIエージェントの取り組みでは「Meister Apps 工程改善アシストパッケージ for SMTライン」への適用が進められている。このパッケージは、メーカーや設備に依存せず、設備データを自動で収集・一元管理し、ダッシュボードで可視化する電子基板の製造ライン向けのソリューションだ。ここに、東芝が長年培ってきた基板製造の知見を盛り込んだAIエージェントを搭載することで、改善提案やトラブルの原因調査、対策提案を自動で行える。

 最後に岸原氏は「東芝では、これまで蓄積したAI技術の活用を加速するとともに、今後は人と機械が協調して働く『フィジカルAI』にも取り組んでいきます」と展望を語った。