マーケティング最高責任者の半数が生成AIを利用
本書によれば、2024年7月の101カ国1.491人を対象に行ったオンライン調査で、約71%の企業が生成AIを使用しており(マッキンゼー・アンド・カンパニー調べ)、2024年4月の時点で200人のCMO(マーケティング最高責任者)のうち、半数はコンテンツ制作、ソーシャルメディア広告用素材(下書きや画像)作成に生成AIツールを導入しているという(ボストン・コンサルティング・グループ調べ)。
もはや企業にとって、生成AIはあって当たり前、どう使って収益を上げていくかが問われるツールになっている。
具体的にマーケティング分野で生成AIの活用が期待される分野としては下記の4つがあげられている。
・効率的かつ効果的なコンテンツの作成
・データのさらなる活用
・検索エンジン最適化
・プロダクトディスカバリーや商品検索のパーソナライゼーション
「マーケターは、生成AIの進化を常に把握し、その可能性を最大限に引き出すことで、新たなマーケティング戦略を創造し、顧客とのエンゲージメントを強化していくことが求められます」というのだ。
メディア系生成AIも詳しく紹介
静止画、動画、音楽・音声系の生成AIは、ビジネス分野では軽視されがちだが、本書はマーケター向けということから、これら静止画、動画、音楽・音声系の生成AIについても詳しく紹介している。
ChatGPTやGeminiなどテキスト系生成AIでも最近はマルチモーダル対応となり、静止画や動画を作成できるものが増えてきたが、画像・音楽などに特化したメディア系生成AIは使いやすさ、出力のレベルで群を抜いている。
取り上げているメディア系生成AIは、静止画ではStable Diffusion、Midjourney、FLUX、Magnific AI、動画ではSora、Veo、DomoAIなど、音楽・音声ではSuno AI、にじボイス、Udioなどだ。
プロンプトを細かく指定すれば、写真やイラストなどで、かなり本格的なものを作ることが可能だ。イラストや写真に比べて素人には手が出しにくく、著作権フリー音源などに頼るしかなかったBGMも生成AIに作ってもらえば、曲調や尺(長さ)を使いたい動画にぴったり合わせることができる。
プロンプトエンジニアリングは必要か
ChatGPTがリリースされ、業界が興奮に包まれた2023年当時、プロンプトエンジニアという職業が注目された。生成AIに投げかけるプロンプト文を作成する専門のエンジニアで、アメリカの場合、年収数千万円を得ることも可能などと話題になった。
今時、そんな高給が取れるプロンプトエンジニアは耳にしなくなった。誰もがプロンプトを書けるようになったのか、あるいはある程度以上のユーザーにはノウハウが浸透したからではないだろうか。とは言っても、おざなりなプロンプトしか書けず、期待している回答が返ってこないので「やっぱり生成AIなんて使えねー」と放り出してしまう人も少なくないようではあるが。
本書でも、プロンプトについて一つの章をあてて解説している。「生成AIが進化してもプロンプトエンジニアリングは必要か?」というセクションでは、生成AIの進化により、ユーザーが詳細なプロンプトを書かなくても高品質な出力が得られるようになってきたと紹介されている。
それでもまだ「プロンプトエンジニアリングの必要性は減少した」という段階で、2025年現在ではプロンプトエンジニアリングのスキルはまだ必要だという。それは「現在のAIエージェントには人間による『補完』が必要」、「『対話型』の強みを生かすにはプロンプトの調整が不可欠」という2つの理由からだ。
生成AIに対し、特定の業界やタスクに特化した「外装」をかぶせて使い勝手を向上させたAIエージェントが広がっている。それこそ広告コピーの案を作るとか、顧客用Q&Aを作るなどといった処理がワンタッチでできてしまう。だが、「特定の業界や専門領域においては一般的なAIツールでは十分な結果が得られない場合もあり、専門知識を持つ人間がプロンプトを適切に設計する必要性は依然として高い」という。これが「『補完』が必要」ということだ。
2つの理由の後者の『対話型』とは、生成AIが最初に出してきたアウトプットはあくまで「たたき台」であり、生成AIとプロンプトによる会話を積み重ねて出力に修正を加えて完成度を上げる必要があるということ。
著者は「『出力の微調整』や『ニュアンスの最適化』には、プロンプトエンジニアリングの知識が求められる」という。生成AIはあくまでも道具であり、マーケターやデザイナー、コピーライターはその道具をいかにして使いこなすか、どれだけプロンプトを追い込めるかが問われる。
生成AI活用における倫理とリスク
本書の中で特に有意義なのは、企業利用における課題を取り上げた第5章「論理的・感情的課題とリスク管理」ではないか。生成AIを利用する上で「プライバシーの侵害」「生成バイアス」「フェイクコンテンツの発生」など、さまざまなリスクを取り上げている。
生成AIを使うには、何かしらのプロンプトを投げて成果を引き出すわけだが、それは生成AIにプロンプトを学習させることでもある。プロンプトに個人情報や機密情報が入っていると、その後、第三者が生成AIを利用した際、個人情報や機密情報が出力に含まれる形で意図せずに流出する可能性がある。
生成AIを使うのであれば、「学習しない」設定にしておく必要がある。デフォルトでは学習するものがほとんどだ。学習しないにしても生成AIへの入力データはサービス提供企業のサーバーに送信される。
著者は「マーケターは、これらのリスクと対策を十分に理解したうえで、プライバシーを尊重しながら生成AIを効果的に活用する方法を模索する必要があります」と強調している。
もう一つのリスクとして、生成AIが学習する上でさまざまなバイアスを取り込んできており、回答にそれが現れてしまうということがあげられている。インターネット上の文書、データは英語圏の白人男性が作成したものがもっとも多く、彼らの視点で回答してくる可能性が高い。
たとえばAI採用ツールが男性を積極的に採用し、女性を低く評価したり、経営者やリーダーというキーワードで画像を生成させると男性の画像が多くなるなどといった例が掲載されている。コンシューマー対象商品の広告宣伝に女性差別的な視点が入っていたら、炎上しかねない。
「生成AIが出力する内容の責任を持つのはAIではなく、それを利用する人間であることを強く認識すべきです」と言う。利用者は常に生成AIの出力を批判的に評価し、多様な視点でのレビュー、人間による最終判断が求められる。
何よりも生成AIの利用で注意を払わなければならないのは、著作権を侵害していないかということ。日本ではAIの開発や学習に著作物を利用することが法律で認められている。出力された文章やイラスト、写真、動画、プログラムなどが既存の著作物に似ていても、直ちに著作権侵害にはならない。一時、ネット上で「ジブリ風」イラストが溢れたこともあった。ジブリ作品をそのままコピーしたら著作権侵害だが、ジブリ風イラストは許されるのだ。だが、プロのマーケターがジブリ風イラストを広告で使ってもいいのかはよく考える必要がある。それに生成AIの進化は、イラストレーターやフォトグラファーといったクリエイターの仕事を奪いつつある。本書では「著作権者やクリエイターの感情や権利に配慮することが重要です」と述べている。
本書は、ルールベースの人工知能から機械学習、ディープラーニングによるAI技術の急速な発展、そして現在の生成AIまで、マーケティングでどう生成AIを活用すれば良いのか、実務に即して解説している。業務に生成AIを導入したいと考えているマーケターやクリエイターにお勧めだ。
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