春日市立春日西中学校では、自由進度学習や複線型授業と、生成AIを組み合わせた学びに取り組んでいる。その背景には、主体的・自律的に学ぶ生徒を育てていきたいという、同校の思いがある。リーディングDXスクールであり、生成AIパイロット校にも指定されている同校の学びについて見ていこう。

取材の際に行われた理科の公開授業では、生徒がそれぞれ学習方法を選択して細胞についての学びを行う複線型の授業を実施した。画像はChatGPTで行った調査から分かった内容を、ロイロノート上のワークシートに書き込んでいる様子。

学習者主体の学びへ

 春日市立春日西中学校は、2023〜2024年度に生成AIパイロット校に指定されると同時に、2024〜2025年度はリーディングDXスクールとして、個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実に関する授業づくりに取り組んでいる。そうした授業づくりに注力する背景について、春日西中学校 数学科 研究主任 齋藤智樹氏は次のように語る。「生徒間の学力差が大きいという課題がありました。また、学びに対する主体性も全国の学校と比較して低い傾向にあります。本校では、生徒たちの主体性を引き出していくため、自由進度学習や複線型の授業を取り入れて、個別最適な学びや協働的な学びの実現を目指しています」

 自由進度学習とは、生徒たちが自分のペースで学んでいく学習スタイルのことだ。春日西中学校では単元の授業進度を生徒に委ねる単元内自由進度学習を実施した。自由進度学習は自分の学習進度に合わせて、学習方法や学習形態を選択して学んでいく。複線型は単元ではなく、授業ごとに学習方法を生徒に委ねる。昨年度は自由進度学習による学びを実施し、今年度は複線型授業にチャレンジしているそうだ。

「これまでの単線型の授業においては、生徒は教師が与えた方法で学ぶしかありませんでしたが、自由進度や複線型は自分に適したツールで学べる、学習者主体の授業を実現できます。学習者が学びの中心となる授業に変わることで、生徒自らが主体的に学ぶ姿勢に変わっていきます。自己決定理論ではないですが、有能性、関係性、自律性という三つが学習のモチベーションを上げていく上では重要になるでしょう」と齋藤氏は語る。

 こうした学習者主体の学びの中で、ICTツールは積極的に活用されている。例えば昨年度の自由進度学習では「Googleスプレッドシート」に学習計画を記載し、生徒一人ひとりの学びの進捗確認に活用したほか、スプレッドシート上に教材のリンクなどを掲載することで、そこから学習が行えるようにしたという。このスプレッドシートはリフレクションと呼ばれ、生徒たちも確認できる。そのため進度に応じて学び合ったり、教員がサポートしたりといったことにも活用された。

生成AIが学びをサポート

 こうした自由進度、複線型の学びに特に活用されているのが生成AIだ。「生成AIはラーニングアシスタントのような存在です。自由進度の学びではさまざまな進度で子供たちが学んでいきますが、それをサポートする教員は1人です。生成AIは教員が行う学習サポートの代わりを担う存在になれると思います」と齋藤氏。一方で、ただ質問を生成AIに投げるだけでは、幅広い内容をカバーするだけの回答が返ってくることが多い。より的確な答えが返ってくるようなプロンプトの書き方を、今後生徒たちに教えていきたい考えだ。

 春日西中学校では、OpenAIの「ChatGPT」と、グーグルの「Gemini」を学びの中で使う生成AIツールとして選択している。使用に当たって生徒の保護者から同意書にサインをもらっているという。「同意書に記入いただくに当たり、生成AIについての説明もスライドを用いて提示しています。もちろん生徒に対しても道徳の授業内で生成AIの基礎知識を教え、ハルシネーションのリスクなどをきちんと伝えるようにしています」と齋藤氏は語る。

「今後は、Geminiをメインとした活用にシフトしていきたい考えです。これは春日市教育委員会の方針でもありますが、Geminiが持つ機能の優位性も背景にあります。Geminiには特定分野にカスタマイズが可能な『Gems』機能が搭載されており、これを生徒に配布して授業で活用できないか、といったことを検討しています」と齋藤氏。授業に最適なカスタマイズができれば、より教師が意図した振る舞いができるラーニングアシスタントとして活用できる可能性が高まり、さらに用途が広がりそうだ。

 自由進度学習や複線型授業は生徒たちも好評だ。自分で学ぶツールを選択してじっくり学習できる点は特に評価が高い。一方で、授業内容をよく理解できていない生徒もおり、そうした生徒たちに対しては黒板を利用して一斉授業のように説明するケースもあるという。「これまでの単線型の一斉授業では、特定のポイントでつまずいていた生徒たちは授業から置いていかれてしまっていました。このような生徒たちに時間をかけ、学びを深めていけるのが、自由進度学習の良いポイントだと思います。今年度は複線型授業に取り組んでいきますが、今後また自由進度学習にもチャレンジしていきたいですね。一方で、まだICTの活用が浸透しておらず、教員主導の授業もあります。自由進度学習へシフトすることで、もっと生徒に委ねたり、より面白い授業づくりを実現したりするための工夫を継続していきます」と齋藤氏は語った。

複線型授業では、生徒たちはそれぞれ学習ツールを選んで観察や調査活動を行った。そのため顕微鏡で直接観察を行う生徒、動画教材から細胞の様子を観察する生徒、ChatGPTで情報を調査する生徒などさまざまな学びの様子が見られた。調査内容をまとめる際は、Chromebookのカメラ機能を利用してスケッチを撮影し、画像を貼り付ける姿も見られた。