AIエージェントが自律的に行動するために
データの整合性を確保するSaaSソリューション
SAPジャパンは3月18日、フルマネージドSaaSソリューション「SAP Business Data Cloud」についての記者説明会を実施した。SAP Business Data Cloudを活用することで、企業全体のSAPシステムのデータやSAP以外のシステムのデータを統合可能になる。一般提供の開始は2025年第2四半期を予定している。今回は、本記者説明会で語られたAIエージェントを活用したSAPジャパンが目指す業務の在り方とともに、SAP Business Data Cloudの特長を紹介する。
企業全体のデータを統合するSaaSソリューション
SAPジャパンが3月18日に実施した、SaaSソリューション「SAP Business Data Cloud」についての記者説明会をリポートする。同記者説明会では、SAP Business Data Cloudの特長とともに、SAPジャパンが目指すAIエージェントを活用した業務の在り方が語られた。
AIソリューションの提供で
顧客のDXの加速させる
SAPジャパンは昨年に引き続き、AIの活用で日本の顧客のデジタルトランスフォーメーション(DX)を進めていくために、2025年の市場戦略として「AIファースト、スイートファースト」を掲げた。「昨年当社ではAI元年と題して、お客さまのDXを進めるAIソリューションの提供をスタートしましたが、今年はそれをさらに加速させるためのソリューションを提供していきます」と、同社 常務執行役員 最高事業責任者 堀川嘉朗氏は意気込みを語る。
顧客のAI活用を促進するためにSAPジャパンが提供している代表的なソリューションが、対話型のコパイロット「Joule」だ。Jouleの機能アップデートを2025年中に行うことが、記者説明会では語られた。SAP開発プロジェクトの短期化を実現するために、2025年第1四半期には、SAPシステムを構成するプログラミング言語「Advanced Business Application Programming」(ABAP)開発者向けの機能を、2025年第2四半期にはSAPコンサルタント向けの機能を追加するという。
さらにSAPジャパンでは、会計や分析、人事管理などさまざまな業務を行うAIエージェントの開発も進めていく。「AIエージェントの開発を進めることで、AIファーストな業務の在り方を実現していきます。例えば、製造業のお客さまが製造している製品の需要予測を、Jouleを介してセールスエージェントに依頼します。依頼を受けたセールスエージェントは、ユーザーの動向といったさまざまなデータを基に製品の需要予測を行います。セールスエージェントが実施した需要予測に基づいて、サプライチェーンエージェントは需要に対して十分な製品の生産ができるかどうかを分析します。需要を満たすためには部品の調達が必要な場合、サプライチェーンエージェントが調達エージェントと会話し、十分な部品の量を確保します。このように、今まで従業員が担っていた役割や業務をAIエージェントが代替して行い、従業員はJouleを介してAIエージェントと対話しながら、最適なデータや情報を基に意思決定をしていく。こうした業務の在り方が、当社が目指すべき姿です」と堀川氏は語る。
AIファーストな業務の在り方を実現するためにSAPジャパンでは、AI・データ・プリケーションの三つのレイヤーを統合した基盤である「SAP Business Suite」を提供している。今回発表された「SAP Business Data Cloud」は、データのレイヤーに位置するSaaSソリューションとなり、AIとアプリケーションの中間で両者をつなぐ役割を果たすものとなる。同社 Business Data Cloud ソリューションアドバイザリー部 ソリューションアドバイザーエキスパート 椛田后一氏は「AIエージェント同士がコミュニケーションしながら自律的に働くためには、複数のモジュールやアプリケーション間のデータの整合性が取れた状況でかつ、AIが理解しやすい形でデータがそろっている必要があります。そのためのSaaSソリューションが、SAP Business Data Cloudです」と説明する。
SAPアプリケーションのデータを
整合性を確保しながら統合

常務執行役員
最高事業責任者
堀川嘉朗 氏
SAP Business Data Cloudでは、SAPジャパンが今まで提供していたデータマネジメントやデータを可視化するためのソフトウェアをスイートとして提供する。その中でも中核を担うのが、データの統合基盤「SAP Datasphere」とデータ分析基盤「SAP Analytics Cloud」だ。
SAP Datasphereは、同社が提供しているERPシステム「SAP S/4HANA」のデータモデルを再現し、SAPシステムのデータとSAP以外のシステムのデータと統合する。それぞれのデータが持っていた意味合いや生成背景といったデータのコンテキストを消失させずに統合できるため、ユーザーはデータを「意味のあるデータ」として活用可能だ。そうしてSAP Datasphereで統合されたデータは、SAP Analytics Cloudで可視化できる。
こうしたデータ管理と可視化の機能が、SAP Business Data Cloudに統合されることで強化された。強化された点は三つある。一つ目が「『SAPデータプロダクト』によるさらなるデータ利活用の促進」だ。SAPデータプロダクトとは、SAPが提供しているアプリケーションのデータを統合し、データセットやデータ項目の意味合いの整合性を確保したデータを指す。SAP S/4HANAに加えて、人事・人材管理ソフトウェア「SAP SuccessFactors」や調達・購買システム「SAP Ariba」といったさまざまなアプリケーションのデータを統合可能だ。またメタデータは再利用しやすい形で保持されるため、メタデータの再設定といったメンテナンス作業は不要となる。
整合性を確保したデータは「SAP Knowledge Graph」を活用することで、データとデータの関係性をナレッジグラフとして構築し、保持できる。ナレッジグラフを構築することでデータの正確性が向上し、生成AIやAIエージェント利用時のハルシネーションの低減にもつながる。
二つ目が「『Insight Apps』による事前定義済みのダッシュボードテンプレートの提供」だ。Insight Appsとは、SAP Analytics Cloudで利用できる統合したデータを活用した事前定義済みのダッシュボードテンプレートだ。基幹業務や人的資源管理といった特定業務を可視化するダッシュボードを容易に展開できる。
三つ目が「『SAP Databricks』によるデータマネジメントの強化だ。2025年2月13日にSAPは、Databricksとパートナーシップを発表した。このパートナーシップにより、Databricksの分析機能をSAP Business Data Cloudに直接組み込んだのがSAP Databricksだ。SAP Databrickを活用することで、大規模データの管理や大規模パッチの処理、AIを利用した予測分析といった高度な分析を行える。「SAP Databrickの最大の特長はゼロコピーを実現していることです。SAP DatabrickでSAPデータプロダクトに直接アクセスし、予測分析機能を使って予測モデルを構築できます。そしてSAP Databrick上に構築された予測モデルにSAP Datasphereから透過的にアクセスすることで、実績データに加えて予測値も入れたダッシュボードを構築することが可能です」と椛田氏は、SAP Databricks統合のメリットについて語る。
SAP BWのデータ移行が可能
プラットフォームのモダン化を促進

Business Data Cloud
ソリューションアドバイザリー部
ソリューションアドバイザーエキスパート
椛田后一 氏
最後に「SAP Business Warehouse」(以下、SAP BW)と「SAP BW/4HANA」のモダナイゼーションにおける、SAP Business Data Cloudの活用についても触れられた。
SAP BWはERPといったシステムと連携して、データの抽出や格納、分析を行うデータウェアハウス(DWH)製品であり、SAP BW/4HANAは同社のデータベースシステム「SAP HANA」のプラットフォームを基盤としたSAP BWの後継製品だ。
SAP Business Data Cloudには、SAP BWとSAP BW/4HANAが組み込まれており、オンプレミス環境にあるSAP BWまたはSAP BW/4HANAを、SAP Business Data Cloudに移行することで、データの再利用が可能だ。SAP BWに格納されていたレガシーデータとSAP Business Data Cloudに格納される新しいデータを組み合わせれば、新しい視点を生み出せるだろう。
椛田氏は「SAP BWとSAP BW/4HANAは、過渡期での利用という考えた方は以前と変わっていません。まずSAP BWの資産とデータを引き続きご利用いただきつつ、段階的にSAP Business Data Cloudにシフトして、SAP BWの環境をフェードアウトすることを推奨しています」と移行を呼び掛けた。
