
人口減少に伴う人手不足と設備老朽化
上下水道が抱える課題を解決する技術とは?
2024年4月1日、厚生労働省が所管する水道整備・管理行政が国土交通省に移管された。この移管に伴い、国土交通省には上下水道審議官や官房審議官(上下水道)などが新設され、上下水道一体の組織体制が整備されている。もともと下水道の施設整備や事業運営などを担っていた国土交通省が水道も含めて所管することにより、上下水道一体の取り組みの推進が期待されている。その国土交通省で現在推進しているのが「上下水道DX」だ。
Introduction
国土交通省
更新が追いつかない上下水道
デジタル技術を活用し、上下水道のメンテナンスを高度化・効率化させる「上下水道DX」。本取り組みが求められる背景には、上下水道施設の老朽化に加え、それらの管理に精通した熟練職員の減少といった人手不足が挙げられる。これらの課題について、国土交通省 水管理・国土保全局 水道事業課(上下水道審議官グループ)課長補佐 吉川大輔氏は水道事業の観点から次のように語る。「高度経済成長期に整備された水道管を中心とした施設の老朽化が進んでいる一方で、更新が追いついていない状況です。加えて人口減少に伴って水需要も減っています。これにより、将来的には給水収益も厳しい状況になると予測されています。さらに、水道事業を支える職員も減少しています。ピーク時の1980年と比較して人員が37%程度減少しており、小さな自治体ほど職員数が少ない事業者が多い傾向が強く出ています。水道施設の老朽化が進んでいるにもかかわらず、マンパワーが不足している状況です」
こうした傾向は下水道事業も同様だ。国土交通省 水管理・国土保全局 下水道事業課 事業マネジメント推進室(上下水道審議官グループ) 課長補佐 石川剛巳氏は「下水道も水道事業と同様に、多くの施設が老朽化しています。同時にそれらを管理する自治体の職員なども不足しているため、老朽化した施設を一度に更新することは難しい状況です。老朽化した施設のメンテナンスが求められていますが、これら全てを人の目で行おうとすると、やはり人手不足により対応が難しいのが実情です」と語る。

石川剛巳 氏

長谷川広樹 氏

吉川大輔 氏
重点調査でドローン点検を推奨
このような上下水道の課題を解決するために求められているのが、デジタル技術の活用だ。例えば人工衛星のデータを用いて、漏水検知を行う事例がある。人工衛星から電磁波を放射し反射波を基に水道管からの漏水の可能性のあるエリアを診断できるようになるのだ。漏水については、通常地上から見えない地中で発生しているため、職員が地上から音を調べて漏水箇所を見つけ出す「音調調査」を行う必要があり、非常に手間がかかっていた。デジタル技術を活用することで従来と比較して短期間に漏水箇所を特定することが可能になるのだ。またスマートメーターを整備すると、これまで人が直接現地に赴き調べる検針業務を遠隔で行えるようになり、業務の効率化につながる。国土交通省では、先端技術や新技術を活用することで、業務の効率化に加え、付加効果の創出が見込まれるモデル性がある事業に対し、「上下水道DX推進事業」により財政支援している。
石川氏は「埼玉県八潮市で発生した道路陥没事故を受け、『下水道管路の全国特別重点調査』を実施することを地方公共団体にお願いしています。この点検にドローンなどのテクノロジーの活用を推奨しています。従来は人が下水管内を歩いて目視で点検していた作業をドローンが代替することで、点検作業を効率化できるとともに水位が高い下水管の調査も可能になるでしょう」と語る。
この全国特別重点調査の対象となるのは管径2m以上かつ1994年以前に設置された下水道管路だ。調査に際しては社会的影響が大きく、大規模陥没が発生しやすい管路から優先順位を付けた上で、2025年度中に調査を完了させる予定だ。また腐食やたるみ、破損をそれぞれ診断し、劣化の進行度をランク付けした特別な判定基準に基づき、緊急度が高いと判定された箇所は路面下空洞調査などを行う。調査対象が広範囲に及ぶため、デジタル技術の活用による調査の実施が必要とされている。
DX技術の標準実装を前倒し
こうした上下水道DXを推進するため、国土交通省では「上下水道DX技術カタログ」を2025年3月28日に公開した。本技術カタログは水道、下水道それぞれの対象施設における点検調査、劣化予測、施設情報の管理・活用などの目的や要素技術に応じたテクノロジーを紹介し、上下水道施設のメンテナンスの高度化や効率化に向けたデジタル技術の導入を後押しするものだ。WebサイトにてPDFデータでカタログ全体を確認できるほか、対象施設、目的、要素技術の条件から技術を絞り込み検索もできる。
国土交通省 大臣官房参事官(上下水道技術)付 課長補佐(上下水道審議官グループ) 長谷川広樹氏は「カタログには水道で73、下水道で91の技術(上下水道で重複あり)が掲載されており、この中には下水道管路の全国特別重点調査に活用できる技術も含まれています。検索システムによって目的の技術を探しやすくしたほか、導入コストや導入効果、実績など利用者が知りたい情報も掲載するなど、使い勝手がよくなるよう工夫していますので、DX技術の導入検討のため積極的にカタログを活用していただきたいです。もともと2024年7月に岸田文雄前総理が愛知県豊田市の上下水道局を視察した際に、上下水道DX技術カタログの策定を2024年度中に実施することや、今後5年程度でDX技術の標準実装を進める方針を示しており、今回の技術カタログはその指針を受けたものです」と語る。
「2024年7月に岸田前首相から今後5年間程度でDX技術の標準実装を進めていく方針が示されましたが、2025年2月には現在の石破 茂首相からこの標準実装の方針を大幅に前倒し、今後3年程度で進めていくよう指示がありました。関係省庁と連携した『上下水道DX推進検討会』において具体的方策の検討を進めており、4月10日には中間とりまとめが発表されたほか、6月には最終とりまとめを公開する予定です。上下水道施設の図面の電子化や、共通プラットフォームの活用推進なども進めており、上下水道DX技術カタログに掲載されている技術に限らず、メンテナンスの高度化や効率化に資する技術の標準実装に向けて、今後も取り組みを進めていきます」と長谷川氏は語った。

近代水道創設の地で進む
先端技術を用いた水道DXの取り組み
川から取り入れた水をろ過し、蛇口から給水する近代水道。現在、私たちが使っているこの技術が日本で初めて創設されたのは、横浜だという。1887年に横浜で初めて創設された近代水道は、その後日本各地へと広まっていった。しかし、歴史が古いが故に、横浜市の水道施設では老朽化が進んでいる。そんな横浜市が現在取り組んでいるのが「横浜水道DX」だ。
Case.1
横浜市水道局
ドローンで水源林を調査
横浜市水道局は、「横浜水道中期経営計画(令和6〜9年度)」内で主要事業を取り組むに当たって重視する視点の一つに「DXの推進」を位置付けている。その中期経営計画などで示したDXの各種取り組みをとりまとめたのが「横浜水道DXの取組」だ。
横浜市が水道DXに取り組む背景を横浜市水道局 経営部経営企画課担当課長(イノベーション推進担当)の大塚将文氏は次のように語る。「一つ目に、水需要の減少があります。人口減少が進んだことや、節水機器が普及したことで、水道の使用量が減少し、水道料金の収入も減っているのです。また、水道施設の老朽化が進む一方で、自然災害が激甚化、頻発化しています。こうした課題に対応していくため、横浜市では『水道施設』『市民サービス』『内部業務』の三つの分野で、DXの推進を進めています。また、これらの三つの分野を推進するための土台となるDX推進の基盤整備にも取り組んでいます」
それでは、横浜市ではどのようなシーンにおいてDXの推進に取り組んでいるのだろうか。水道施設を例に挙げて紹介していく。
一つ目に、ドローンの活用が挙げられる。「ドローンを活用した道志水源林の被害調査を実施しています。横浜市水道局は、山梨県道志村にある水源林を所有しており、ここを水源の一つとしています。しかし昨今、この水源林がナラ枯れと呼ばれる被害に遭っているのです」と語る大塚氏。
ナラ枯れとは、カシノナガキクイムシという虫が媒介するナラ菌を木に運び込むことによって、葉がしおれて茶色に変色し、枯れてしまう現象で、全国的に発生している。横浜市ではこのナラ枯れの被害調査を、ドローンを活用して実施しているのだ。これまでは人が目視でナラ枯れの被害を確認していたが、横浜市が所有する道志水源林は広大で、被害の全てを確認するのは難しい。そうした環境にドローンを活用することで、目視により被害確認が難しい箇所もドローンによる確認が行え、従来と比較してより広範囲で効率的な調査が実現できる。
大塚氏は「ナラ枯れの被害が確認しやすい時期が9〜10月と短く、その期間で調査を完了させる必要があります。人の目視よりも効率的かつ広範囲の被害調査が行えるドローンを活用することで、ナラ枯れ被害の拡大防止に寄与できるでしょう」と語る。この被害調査におけるドローン活用は、2024年度に実施計画を策定、被害調査の試行をスタートしており、実証実験において効果が確認できたため、2025年度は実調査の実施や調査範囲の拡充、被害状況の分析を行う予定だ。

大塚将文 氏

水野裕紀 氏
ポンプ場や水路橋の調査にも
ドローンは、配水ポンプ場のポンプ設備の巡視、点検にも活用が検討されている。ポンプ設備の巡視や点検は、執務室がある浄水場から移動に時間を要することに加え、設備の確認箇所が多いため負担が大きい。横浜市には23カ所の配水ポンプ場があり、現在は職員が4人体制で月に1度の点検を行っている。
横浜市水道局 経営部経営企画課担当係長(イノベーション推進担当) 水野裕紀氏は「現在は職員が現場に出向いて目視で漏水の有無を確認したり、ポンプの振動に異常がないかを耳などで点検したりしていました。しかし、確認箇所が多いことや、今後ノウハウを持つベテラン職員の退職が見込まれていることから、ドローンとセンサーを組み合わせた遠隔巡視の導入を目指し2024年度は1カ所の配水ポンプ場で実証試験を行いました。2025年度は1カ所の配水ポンプ場で導入する予定で、今後も段階的に配水ポンプ場への導入を進めていく予定です」と語る。
遠隔の施設監視の場合、ネットワークカメラの設置も想定されるが、ドローンを選択した理由は何だったのだろうか。水野氏は「配水ポンプ場の巡視や点検を行う場合、天井などに設置したカメラだけでは死角が多くなります。死角を減らすためには各所へのカメラ設置が必要ですが、ドローンと比較するとコストが非常に高くなってしまいます。費用対効果を考えると、ドローンによる点検が最も良いと判断しました」と答える。
水路橋などの塗装劣化状況確認にも、ドローンの活用を予定している。現状、目視点検では確認が難しい、高所部や構造物側面部などは劣化状況が正確に把握できていないため、劣化状況に基づく塗装更新の優先度が決められていない。そこで、目視で点検できない部分をドローンによって確認することを想定している。これにより、部位ごとの詳細な劣化状況の把握が可能となり、従来よりも効果的、効率的な調査が実現できる。

技術に対応できるDX人材も育成
衛星画像を活用した水道管の漏水検知にも取り組む。これは人工衛星からマイクロ波を発信し、取得したマイクロ波と衛星画像を解析することで、地下の水分を水道水とそれ以外の水に識別し、漏水の疑いがあるエリアを半径100mまでに絞り込む技術を用いる。従来は職員が専用の機器を用いて、地下の漏水音を耳で聞きながら確認を行っていた。しかし広範囲に及ぶことから、労力と費用がかかっていることや、将来的な担い手不足が懸念されており、衛星画像によって漏水疑いのエリアを絞り込める本技術を活用することで効率化を図る。2025年度から試行導入を始めていく予定だ。
「どの取り組みもまだ試行段階が多いですが、例えばポンプ場でドローンによる点検を行うことで、1カ所当たり年間で約240時間の短縮が実現できています。横浜市内の全ポンプ場に広げると、年間で現在の約8,500時間が約2,900時間に短縮できる試算です」と大塚氏はその効果を語る。その一方で、水道DXに対する横浜市の取り組みは合計で24プラン存在し、まだ検討段階の計画も存在する。
水野氏は「費用対効果を意識しながら、導入を進めていきたいですね。一方でテクノロジーは日進月歩で進歩しており、それらに合わせたスピード感のある整備はできていない状況です。どのようにその時の最新技術を導入していくか、現在検討を進めています。また最新技術となると、それを扱う人材も必要になります。今回の横浜水道DXの取組ではDX人材育成や、東京都水道局、大阪市水道局と連携して設置した『水道ICT情報連絡会』を活用した継続的な情報収集を推進することも盛り込んでいます」と語る。
横浜市は横浜水道DXの取組を基に、2027年度までに水道事業の最適化を目指し、DX技術の積極的な活用と運営体制の最適化を進めていく。
県内の水道事業広域化と共に
上下水道事業のDX化に取り組む広島県
広島県では、上下水道事業のさらなる効率化や県民サービスの維持・向上を図るため「上下水道DXの推進」に取り組んでいる。これまで人に依存していたさまざまな監視や管理業務にテクノロジーを活用することで、現在広島県の水道事業が抱える人手不足や水需要の減少といった課題解決を目指している。広域連携の取り組みと合わせて実施する、同県の上下水道DXを見ていこう。
Case.2
広島県水道広域連合企業団
広島県が取り組む広域連携
少子高齢化に伴う人口減少が全国的に進む中、水道事業などを取り巻く経営環境の悪化が予測されている。そこで、市区町村の枠を超えて水道事業の広域連携に取り組む事例が増えてきている。
広島県も、そうした水道事業の広域連携に取り組んでいる。広島県水道広域連合企業団(以下、水道企業団)は、広島県と県内14市町(竹原市、三原市、府中市、三次市、庄原市、東広島市、廿日市市、安芸高田市、江田島市、熊野町、北広島町、大崎上島町、世羅町、神石高原町)が2022年11月に設立した特別地方公共団体だ。県全体の約21%に相当する県内14市町の約56.8万人に水道水を供給するほか、6市2町および水道企業団内7事業に対しても水道用水を供給している。また、工業用水道事業では、33事業所に工業用水の供給を行う。このような広域的な連携によって、施設の計画的な更新や維持管理の効率化が可能になり、将来的な人口減少や施設の老朽化といった課題に対応しながら、安定的な水の供給を目指している。
人口減少は広島県でも進んでおり、40年後には県北の人口が約半分ほどになる推計が出ている。水需要が減少する中で収益も下がっている一方、水道設備の更新は必要とされている。現在は、限られた予算の範囲で優先順位の高い施設から、更新を進めている状態だという。

池田貴裕 氏

山下泰弘 氏
浄水場業務にAIを活用
このような課題の解決に向けて広島県水道広域連合企業団が進めているのが水道事業の広域化であり、14市町の水道局の業務を集約し、一元化することで、業務量の削減を図ると同時に、デジタル化やオンライン化などのDXを積極的に推進している。
そのDXに向けた取り組みの一つが、広域運転管理システムの整備だ。これは複数の浄水場の運転監視を、一つの運転監視拠点で行えるシステムの整備を行うものだ。広島県水道広域連合企業団 技術管理課 システム基盤整備グループ 主査 山下泰弘氏は「本システムの導入によって、監視業務の効率化を図れます。従来は浄水場の運転監視員が、それぞれの浄水場で運転監視を行っていました。広域運転管理システムを整備することで、1カ所あるいは県内の複数箇所に、その監視業務を集約できるようになります。将来的には水道企業団がカバーする市町全域の浄水場を、本システムで可視化できるようにしていく方針です。本システムを導入することで、日常的な上水道の運転管理を効率化できるだけではなく、災害発生時には本部からオンラインで現地の様子を確認できるようになるでしょう」と語る。
次に、AIを活用した薬品注入自動システムだ。浄水場では、消毒のために塩素を注入する必要がある。しかしこれは熱に弱く、気温が上がると効き目が落ちるのだという。広島県水道広域連合企業団 技術管理課 システム基盤整備グループ 主任 池田貴裕氏は「浄水場のオペレーターは気温や天候などの環境に応じて、30分に1回塩素の調整を行っています。この塩素の調整をAIに代替することで、オペレーターよりもさらに頻繁な5分に1回のタイミングで塩素の調整を行い、水質の安定を図かります。薬品の注入自体はポンプで行っていますので、薬品の調整をAIが担うことで、さらなる自動化を実現していきます」と語る。浄水場では水量のコントロールやろ過池の洗浄などの業務もあるため、スタッフの人数を減らすような対応は行わない予定だが、新人スタッフでも薬品のコントロールが行えるようになるなど、人手不足に対するメリットは大きい。


AIが行う管路の劣化予測
上記のようなAIの活用は、水道管の劣化予測にも活用されている。「管路の劣化を調べる場合、従来は土壌を何カ所か試掘して、そのデータを基に管路の劣化を予測していましたが、試掘は沢山行うことが難しいため、限られたデータで行う必要がありました。AIによる劣化予測では、業者側が持っている管路データや環境データを基に、管路の劣化度の予測を行うことで、予測の効率化と高精度化を実現しました」と山下氏は語る。水道管の劣化予測へのAI活用は、2021年度に試験導入を実施しており、その予測結果を基に管路更新の優先順位付けを行ったという。
「今後、施設情報や管路情報などのデータベース標準化や共通化にも取り組んでいく予定です。特に広域連携を行う中では自治体ごとにデータの扱いが異なると、連携が難しくなります。データを共通化し、各事務所が所管しているデータの整理を進めていく方針です。また、これら共通化したデータを活用し、関係者にとって水道関連の工事や手続きを便利にするアプリケーションやサービスの提供に生かしていくことなどを構想しています。データの共通化によって水道関連の手続きをオンライン化することも視野に入れています」と池田氏は語る。
水道企業団では水道使用量を定時に自動計測し、データ送信ができるスマートメーターの導入の検討も進めている。しかし、スマートメーターは豪雪地帯のような場所でも遠隔で検針が行える利便性の高さがある一方で、水道利用者にとってのメリットには結びつきにくい。そのため、導入に対して二の足を踏んでいるという。
山下氏は「デジタル化のDだけでなく、利便性を上げるXをいかに実現するかが悩みどころです。今までやってきた取り組みを変える必要があるため、企業や住民の生活がより良くなるよう、さまざまな取り組みを進めていく方針です。デジタルによるトランスフォーメーション(変革)を実施して良かったと思ってもらえるように、取り組みを進めていきます」と語った。
衛星画像やドローンを用いて
点検作業を効率化する水道DXサービス
上下水道のDXに向けてさまざまな地域での取り組みが進んでいる。では、実際にDX実現の上ではどのようなソリューションが有効になるのだろうか。NTT西日本の子会社であり、情報通信システムの提案や構築、サポートなどを行うNTTビジネスソリューションズが提案する「水道DX」のソリューションを見ていこう。
Case.3
NTTビジネスソリューションズ
衛星画像を用いた漏水検知

速水洋介 氏
NTTビジネスソリューションズは、水道事業をスマート化するためのサービスとして、「水道施設設備点検ソリューション」を展開している。本ソリューションは「広域漏水検知」「AI管路劣化診断」「ドローン点検」の大きく三つのサービスを組み合わせることで、水道設備の点検を効率化するものだ。
NTTビジネスソリューションズ ソーシャルイノベーション部門 社会基盤ビジネス担当 担当課長 速水洋介氏は「水道全体の簡単なイメージを説明しますと、まず川から水を取り(取水)、それを浄水場で処理した後、送水管で配水池に水が送られます。その後配水管という大きな管路を経由して地域各所に水を配給し、給水管から家庭や企業に水が供給される仕組みです。この中でも当社が力を入れているのが、水道管の劣化による漏水をいち早く見つけ出す『広域漏水検知』です」と語る。
広域漏水検知はイスラエルの企業であるアステリアが開発した技術を用いたソリューションで、国内向けにNTTビジネスソリューションズが販売を行っている。人工衛星で取得した画像を、独自のAIアルゴリズムで解析して地中の水分の種類を識別することで、市域全体の漏水箇所を特定して、漏水調査の効率化を実現するという。
速水氏は「従来の水道管の漏水検知は、『音聴棒』という細長い棒状の機具を地面に当てて、漏水の音を聞き取っていました。しかし、この音聴棒による漏水検知は長大な管路を歩いて行うため、時間もコストもかかります。広域漏水検知のサービスでは、人工衛星が撮影したデータを基に、漏水が発生している可能性のある『漏水疑い箇所』を特定して、現地での漏水調査を効率化できます」と語る。
広域漏水検知では、人工衛星からLバンドと呼ばれるマイクロ波を射出する。このマイクロ波は地中3m程度まで透過するため、土壌と混ざった水道特有の反射特性を検出し、撮影した衛星画像から漏水箇所の絞り込みを行う。「衛星画像だけでは地上の様子がぼやけてしまいますが、アルゴリズム解析によってノイズを除去し、GIS管路マップと組み合わせて漏水疑いの配管部反映100mの範囲をマーキングして表示します。これによって、これまでは網羅的に管路の調査を行っていたものを、ある程度最初から絞り込みをした状態で行えるようになり、漏水調査の効率化を実現できます」と速水氏は語る。
ドローンによる水管橋点検
漏水が発生する前に管路の劣化を予測できる「AI管路劣化診断」もある。本サービスはFracta Japanが提供しており、NTTビジネスソリューションズが販売パートナーとなって自治体や事業者に提案を行っている。
「広域漏水検知はすでに漏水している箇所を見つけ出す技術ですが、AI管路劣化診断は漏水発生前に、市町全域の管路の劣化予測が行えるサービスです。市町が保有している管路や漏水履歴のデータをご提供いただき、それらと環境ビッグデータを組み合わせてAIによる分析を行います。こうした管路の劣化予測は、これまでは水道管の施工年度などの情報から、『古くなっているだろうから更新しよう』といった計画を立てていました。しかしAI管路劣化診断では、交通情報や地震情報、土壌情報などの環境ビッグデータも用いて分析を行います。例えば交通量の多い幹線道路沿いは振動が多いため、水道管の劣化が進みやすかったり、海に近い場所ですと土壌に海水が混ざるため、劣化が進みやすかったりします。そういった環境データに管路情報を組み合わせて、今後の水道管破損確率の算出を行います」と速水氏。
これら二つのサービスは、地中に埋設されている水道管を対象にしたものだ。NTTビジネスソリューソンズはこれらに加え、地上の水管橋や橋梁添架管などの1次点検をドローンで行う「ドローン点検」も展開している。
これはNTT西日本グループのジャパン・インフラ・ウェイマークが提供するサービスで、NTTビジネスソリューションズが販売パートナーとして展開している。
「広域漏水検知は土壌と混ざった水道水の反射率から漏水を検知するため、地中に埋まっていない水管橋や、道路橋の下に水道管が添架している橋梁添架管の点検はできません」と速水氏。
これらの水道管路の点検は、従来特殊な点検車両などを用いて、ゴンドラなどに作業員が乗り目視で点検作業を行っていた。しかし、高所作業のリスクや、交通規制の負担など課題も少なくない。そうした点検作業をドローンが代替することで、安価で安全、かつ効率的な点検が可能になるという。
「ドローンのカメラは通常、空撮に使うことが多いため下を向いていますが、このドローン点検で使われるドローンは上にもカメラが向けられるようになっています。これにより、水管橋の下がどれだけさびているかなどの確認が行いやすいのです。カメラは4K解像度での撮影が可能で、高精細に水管橋の様子を撮影できるため、劣化の状況も確認しやすいのが特長です」と速水氏は語る。

通信事業での点検ノウハウを転用
これらの水道DXにまつわるサービスは2024年度から取り扱いをスタートしているが、すでに導入事例もある。京都府京丹波町では広域漏水検知が活用されている。「京丹波町は山深い場所にあり、水管橋や橋梁添架管なども多くあります。それらの更新や点検をどのように行っていくのかといった点検計画の策定なども、当社がサポートしています」と速水氏。
通信事業を行うNTTグループは、同社の通信ケーブルの管路に地下や橋梁設備などを利用しており、それらの点検のノウハウを持っている。NTTビジネスソリューションズの水道DXのサービスはそれらのノウハウを転用し、速水氏が述べたようなプラスアルファの付加価値を付けて提供しているのだという。
水道メーターをネットワークに接続して検針値などの各種情報を送信して、集中監視システムに蓄積する自動検針・集中監視システム「テレコンスマートサービス24」も提供している。熊本県有明・八代工業用水道事業を運営するウォーターサークルくまもとなどがユーザー企業への検針を行うため活用している。
「当社はこのようなスマートメーターから水道DXにまつわるサービスの検討を始めたため、上水道に対するサービスノウハウが多いです。そのため現在は水道に対するソリューションがメインですが、埼玉県八潮市で発生した陥没事故を受けて、『下水道で利用できるサービスがないか』といった問い合わせを受けていますので、私たち自身も現在下水事業に対しても何かできないかと検討をしています」と速水氏。続けて今後の展開について「当社はNTT西日本の子会社ですので、まずは西日本の自治体を中心にサービス利用の拡大を進めていきます。水道事業者と話している中でもさまざまな課題を伺いますので、それらを解決していくサービスを今後も検討していきます」と展望を語った。