ごみに混入したリチウムイオン電池を
検知し廃棄物処理場の火災を防ぐ

PCやスマートフォンといったIT関連製品の小型化・長寿命化が可能なことから、リチウムイオン電池を内蔵する製品が多く流通するようになった。その一方で、燃やせないごみなどにリチウムイオン電池内蔵の製品が混入し、廃棄物処理施設で火災が発生するケースが増加している。こうした火災を防ぐためには、住民に適切な分別を呼びかけるほかに、ごみに混入したリチウムイオン電池を処理の前に検知する仕組みも必要となる。今回は、東京都町田市がPFU、IHI検査計測と協力して実施した「燃やせないごみに混入するリチウムイオン電池等検知システムの実証実験」を取材した。

東京都町田市

東京都の南端に位置する人口43万398人(2024年12月1日時点)の都市。多摩丘陵の源流都市である市のシンボルとして、市の鳥には青緑色とオレンジ色の体を持つ「カワセミ」を選定している。新東京百景と東京都指定名勝に指定された「町田薬師池公園 四季彩の杜 薬師池」や四季折々の植物を見られる遊歩道「尾根緑道」など、自然豊かな景色を楽しめる場所が多く存在する。

廃棄物処理時の火災が問題に

 近年、モバイルバッテリーやハンディファンなどのリチウムイオン電池を使用した製品が増加している。それに伴い、廃棄物処理の過程における発熱・発火を原因とした産業廃棄物収集運搬車両や廃棄物処理施設の火災事故も急激に増えているのだ。

 東京都町田市でも、2022年2月に町田市バイオエネルギーセンター内のごみ処理設備「不燃ごみピット」にて、リチウムイオン電池等から出火したとみられる火災が発生した。さらに2022年6月にも、同センターにある不燃・粗大ごみ処理施設内の装置の一つ「No.1破砕物搬送コンベヤー」から、同じくリチウムイオン電池等が原因とみられる火災が発生している。

 こうした事態を受けて町田市は、2022年度からリチウムイオン電池等を検知する装置の調査と複数の装置メーカーに対するヒアリングを行った。その取り組みの中で町田市は、PFUとIHI検査計測が進めてきたAIとX線を用いたリチウムイオン電池等の検知システムの共同開発に協力をした。

 PFU 事業開発本部 次世代事業開発室 RAPTOR事業開発部 シニアマネージャー 押木博史氏は、同社がリチウムイオン電池等の検知システムの開発を進めていた背景を次のように語る。「リチウムイオン電池を原因とする火災は今、大きな社会課題になっています。当社では廃棄物分別特化AIエンジン『Raptor VISION』を提供しており、Raptor VISIONを活用してこの社会課題を解決できないかと考え、リチウムイオン電池を検知するシステムの開発に着手しました」

リチウムイオン電池を検知&可視化

 町田市とPFU・IHI検査計測が共同開発を行うリチウムイオン電池等の検知システムの仕組みは次の通りだ。まず、コンベヤーを流れる燃やせないごみをX線で撮影する。そして撮影した画像から、AIがリチウムイオン電池等を検知する。検知したリチウムイオン電池等は、プロジェクターでごみを照射した上で場所を可視化していく。最後に可視化されたリチウムイオン電池等を作業員が取り除くのだ。

 リチウムイオン電池等の検知システムの試作機は2024年3月に完成した。それから試作機の改良が進んだことを受け、2024年9月9〜12日にかけて、旧埋め立て地の「旧リサイクル広場まちだ」にて実証実験が行われた。本実証実験の目的は主に二つある。

 一つ目はリチウムイオン電池混入の実態調査だ。燃えないごみに混入したリチウムイオン電池搭載製品について、種類、数量、重量などを調査することを目的とした。

 二つ目は検知システムのリチウムイオン電池検知認識率と有効性の評価だ。燃やせないごみの中からさまざまな形状をしたリチウムイオン電池等を検知する精度のほか、リチウムイオン電池などの搬入不適ごみを検知した後の、除去作業をはじめとした運用を含む有効性の確認、搬入ごみの種類・形態・処理量や、防水・防塵など環境条件下における調査を実施した。これら二つの目的を通して町田市は、検知システムを市の不燃・粗大ごみ処理施設に設置する場合の有効性を確認した。

リチウムイオン電池等検知システムでの検知・除去工程

2025年度中に導入を検討

 実証実験の結果、261袋(破袋前)/159セット(破袋後)中、56袋/48セットにリチウムイオン電池等が混入していることが判明した。電池検知数は51袋/48セットであり、電池未検知数は5袋/0セット、電池誤検知数は21袋/10セットだった。検知システムの正解率は、破袋前は90%、破袋後は93.7%となった。こうした結果を踏まえて、町田市ではリチウムイオン電池等の混入が少なくない現状を把握できた。

 また検知システムにおいても、実証実験を通して判明したことがあるという。「今まで検知システムのAIエンジンに学習させていなかったリチウムイオン電池内蔵製品が、実際のごみには混ざっていたことが大きな収穫でした。例えばドローンのような内蔵を想定していなかった製品や、現在はあまり流通していない携帯音楽プレーヤー、電池のサイズが小さいワイヤレスイヤホンなどの製品がごみとして流れてきたのですが、それらは検知システムのAIエンジンには学習しきれていませんでした」(押木氏)

 ほかにも、実際に検知システムを運用させたことで気付けた点があるそうだ。「コンベヤーを流れるごみについても、平面ではなく縦向きの状態で流れてきたり、厚い鉄板と重なって流れてきたりするといった、想定していない流れ方で来ることがありました。また、リチウムイオン電池に似ている形状のごみが流れてくることもあり、それも誤検知につながっていました。こうした点が確かめられたのは、検証として非常に有効だったと感じていますね」(押木氏)

 今回の実証実験の結果を踏まえて町田市は、検知システムの導入と必要な施設の改修について、2025年度中に検討していくという。押木氏も検知システムの展望について「リチウムイオン電池等の検知システムは、2025年度の製品リリースを目指しています。リチウムイオン電池による火災は自治体にとどまらず、社会全体で大きな課題になっています。今後もリチウムイオン電池を起因とする火災を少しでも抑えるために、社会の役に立つ製品になるよう開発を進めます。町田市さまとも引き続き、来年度の導入に向けて協力を続けていきます」と語った。