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個別避難通知アプリで住民の逃げ遅れゼロを目指す八代市の実証実験

個別避難通知アプリで住民の逃げ遅れゼロを目指す八代市の実証実験

2022年07月29日更新

避難のタイミングや避難状況を可視化
個別避難通知アプリの開発に向けた実証実験

自然災害は時として我々の生活に甚大な被害をもたらす。特にこれからの季節に注意したいのが、台風による大雨・洪水・暴風・高潮、ゲリラ豪雨による河川の急激な増水といった風水害だ。2015年9月に発生した関東・東北豪雨、2019年10月に発生した東日本台風、2020年7月に熊本県を中心に発生した豪雨などでは、多くの犠牲者を出す痛ましい被害が発生した。こうした風水害を受け、各自治体で進められているのが、住民を守るための取り組みだ。今回は熊本県八代市とデロイト トーマツ コンサルティングが共同で行った「個別避難通知アプリの開発に向けた実証実験」を取材した。

避難の遅れで命の危険も

熊本県八代市

県都・熊本市の南約40kmに位置する人口12万2,974人(2022年4月末時点)の都市。全面積の約73%が山間地、約27%が平野部からなっており、日本三急流の一つである球磨川が流れている。球磨川からの豊富で良質な水の恩恵を受け、八代市は全国有数の農業生産地・県内有数の工業都市として発展してきた。

 台風や豪雨による災害発生時における避難行動は住民に委ねられている部分が大きい。自宅待機をするのか、避難所へ向かうのかといった判断基準は人によってそれぞれ異なる。いつ、どのタイミングで避難すれば良いのか分からず、逃げ遅れてしまうケースも少なくない。実際、2015年9月に発生した関東・東北豪雨では、鬼怒川が氾濫したことで逃げ遅れが相次ぎ、多数の孤立者が出てしまった。

 これを教訓として国土交通省が推奨したのが、住民自らが災害時の避難行動を計画する「マイ・タイムライン」である。台風や豪雨といったこれから起こるかもしれない災害に対し、自分がとるべき防災行動をあらかじめ時系列で整理することで、命を守る避難行動の一助を担うものだ。災害時の逃げ遅れゼロを目指し、多くの自治体でマイ・タイムラインの普及が行われている。

 熊本県八代市も同様に、住民の自主避難の促進を目指して取り組みを進める都市である。「2020年7月に発生した豪雨は、球磨川流域に甚大な被害をもたらしました。住民の避難行動の判断において、河川を見て危険だと感じたときに避難を行うケースが多数であると判明しました。危険だと感じてから行動するのでは、逃げ遅れる可能性もあります。当市では、災害時における“住民の自主避難の促進”が喫緊の課題でした」(八代市 危機管理課 谷口佳久氏)

適切なタイミングで避難通知

 そうした課題を解決するべく八代市は、住民の避難行動の促進に向けて、前述したマイ・タイムラインの避難行動に関する部分を抜粋した「避難スイッチカード」を作成。避難スイッチカードは「いつ・どのように・どこに」避難するのかといった行動を書き出して自分がとるべき行動を整理するものだ。ハザードマップを確認しながら避難行動をまとめることで、自分が避難を開始するべき適切なタイミングが把握できるようになる。「本取り組みの促進に向けてさらなる充実を図るため、避難のタイミングをスマートフォンに通知させるといった“デジタルの力”を活用した方策の検討を進めていました。そうした中で、防災・SDGsなどの分野で実績を有するデロイト トーマツ コンサルティングさまから申し出を受け、共同で『個別避難通知アプリの開発に向けた実証実験』を行うことになりました」(谷口氏)

 デロイト トーマツ コンサルティング 浜名弘明氏は次のように話す。「デロイト トーマツ グループでは、独自の都市OS『City Connect』を用いて、防災に関するソリューション群である『総合防災ソリューション』を開発しています。総合防災ソリューションは、災害発生時だけではなく、『平時』『災害発生時』『避難時』『救助・復旧時』の各フェーズで活用可能な『自治体向けダッシュボード』『住民向けダッシュボード』『避難所管理システム』といったさまざまなサービス展開を計画しており、自治体などと連携して実証実験を進めています。八代市さまとの実証実験もその一環です」

 実証実験は2022年3月24日に八代市役所内で行われた。参加者30名を対象に1人1台ずつスマートフォンを用意。個別避難通知アプリ「デジタル避難スイッチ」のデモンストレーション(操作体験)を実施した。デジタル避難スイッチの活用の流れは次の通りだ。

・基本情報を登録
自宅のハザード情報を表示させるために必要な住所の登録や避難開始を促す水位をユーザー自身で設定する。

・災害発生時に避難のタイミングを通知
自宅周辺の河川の水位が、ユーザー自身が設定した避難開始水位に達したタイミングで、プッシュ型通知を発信。ユーザーに避難開始を促す。

・避難の実施
避難を開始すると、GPSからユーザーの現在地情報を取得し、避難場所への経路を案内。案内に従い、ユーザーは避難する。

「備蓄物の確認などの機能は平時から活用することで、災害時だけではなく、災害の備えとして役立てられます。災害時には避難状況の連携、近隣状況の確認などデジタル避難スイッチはさまざまな面から避難行動を支援します」(浜名氏)

逃げ遅れゼロを目指す

 実証実験の参加者からは、「本システムが実装されたら導入したい」「今後も継続的にデモンストレーションを行ってほしい」というような取り組みの継続に期待する声が多く寄せられたという。

 最後に今後の展望について「取り組みの有用性を確認した一方で、UIに関する改善の要望もあり、引き続き住民の目線に立った開発を進めていきたいです。また、防災行政の推進においては“デジタルの力”を活用することで、災害時における住民の逃げ遅れゼロに向けた取り組みの加速化を図っていきたいと考えています」と谷口氏は語った。

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