図書館資料の書誌情報や所蔵情報をPCなどから検索できるようにしたオンライン蔵書目録を、「Online Public Access Catalog」の頭文字を取って「OPAC」(オーパック、オパックとも)と呼ぶ。図書館で書籍を探す際、一度は使ったことのある人もいるのではないだろうか? このOPACは目的の書籍を探す手段としては便利な半面、タイトルや著者名など、その書籍を特定する明確なキーワードがなければ検索が難しいという課題がある。そんなこれまでOPACが抱えていた課題を解決するサービスを提供しているのが、富士通Japanだ。

OPACの“使いにくさ”という課題

 富士通Japanは、古くから公共図書館や大学図書館に向けてサービスの展開を行ってきた。富士通Japan Public&Education事業本部 ビジネス変革室 マネージャー 鈴木祐介氏は、同社の図書館関連事業を次のように振り返る。

「当社は、公共図書館向けの業務パッケージやサービスとして『iLis』シリーズを提供しており、公共図書館システムにおいて高い導入実績を獲得しています。大学図書館向けにも図書館システムとして『iLiswave-J』などを提供しており、多くの大学図書館での活用が進んでいます。またバーチャル図書館サービスや本の貸し出しがカードレスで行える『手のひら静脈認証』など、図書館DXに向けたさまざまなサービスを提供しています」と語る。

 そうした中で富士通Japanが2025年7月1日から提供を始めたのが、AIが関連する図書を探索するクラウド型サービス「Fujitsu AI 探索サービス」(以下、AI 探索サービス)だ。

 これはタイトルや著者名など、書籍を特定するための明確なキーワードがなくても、日常的に使用している言葉や、文章などを入力することでAIが関連する書籍を探して表示してくれる。

 このAI 探索サービスは、もともと富士通Japan(旧:富士通マーケティング)と青山学院大学の研究所である「革新技術と社会共創研究所」(旧:シンギュラリティ研究所)が行っていた「AIを活用した学びの支援」についての共同研究から生まれたシステムだ。

「2019年12月ごろに、青山学院大学の教育人間科学部 教育学科の野末俊比古教授と『これからの学びにAIはどう寄与できるのか』といったテーマで意見交換を行う中で二人のベクトルが一致し、図書館を中核とした新しい学習支援の創出を目指す共同研究がスタートしました。背景には、青山学院大学が大学図書館のリノベーションを進め、『日本一の図書館を作る』という目標を掲げていたこと、さらに図書館システムの使いにくさが議論で指摘されたことがあります」と鈴木氏は振り返る。

 図書館で蔵書の検索を行うOPACは、目的の書籍を探す手段としては便利な半面、タイトルや著者名など、その書籍を特定する明確なキーワードがなければ検索が難しいという課題がある。

「多くの図書館利用者は本を探すときに、GoogleやAmazonなどで興味関心に近い書籍を探し、その書籍をOPACで検索して本棚を探すでしょう。OPAC単体ではタイトルや著者名が分からないと探しにくいという欠点があります。実際、開発に当たってインタビュー調査やアンケートも実施しましたが、やはり使い勝手が良くないという声が多くありました」と鈴木氏は語る。

拡散的な検索システム

富士通Japan
鈴木祐介

 大学図書館の標準的なOPACを例に取ってみよう。環境問題をテーマにレポートを書くという課題が出された場合、学生はそのレポートに適した書籍を大学図書館で探すだろう。しかし「環境問題」というざっくりしたキーワードでは、主にそのキーワードをタイトルに含む書籍が検索結果に出るだけだ。件名検索や主題検索を使えば、資料の内容やテーマを表すキーワードから関連する書籍を探すことも可能だが、そもそもOPACでの検索に習熟している学生ばかりではない。そのため「ゼロカーボン」「気候変動」「サーキュラーエコノミー」のようなキーワードを知らなければ、環境問題をより深掘りする書籍を見つけるのは難しくなる。

 富士通Japan Public&Education事業本部 ビジネス変革室 前 彩佳氏は「資料を探す際、頭の中にないキーワードを入力することはできません。特に学び始めの初学者であれば、専門用語を知らないケースの方が多いでしょう。AI 探索サービスは、既存のOPACとは異なり、拡散的に幅広い答えを提示するような作りにしました。また、キーワードだけでなく文章でも検索できるようにしました。今の学生はタイパ(タイムパフォーマンス)を重視する傾向にあり、直接文章で求める答えを打ち込むことが多いようです。AI 探索サービスはなにかしら文章や単語を入力すれば、さまざまな角度で書籍を表示してくれます。そこから目的の書籍を選ぶことはSNSに慣れている学生にとっても使いやすいでしょう」と語る。

 AI 探索サービスでは、最初の検索で表示された書籍をクリックすると、その書籍に関連する別の書籍を「関連本」として表示する。選んだ本を起点に、さらに知りたい知識を掘り下げることが可能になる。検索キーワードや関連本で表示される書籍は、関連度が高いものをAIでスコアリングしているという。

 鈴木氏は「関連本の表示は、AIに書誌情報を学習させることで実現しています。タイトルや著者名以外にも、内容細目や目次などを学習し、その中に含まれている単語を解析することで関連本としてひも付けています」と鈴木氏。この仕組みにより、初学者でも多様な本を見付けられる。

AI 探索サービスは、キーワードだけでなく200文字程度の文章も入力できる。タイトルに関連するキーワードや文章でなくても、適した関連本をAIが検索して表示してくれるため、初学者の学びを深めやすい。 出所:青山学院大学

大学や公共図書館で活用進む

富士通Japan
前 彩佳

 このAI 探索サービスはすでに大学図書館で3館、公共図書館で十数館に導入されているという。2023年12月には、横浜市立図書館が本AI 探索サービス(当時の名称は「蔵書探索システム」)を導入しており、2025年7月1日には青山学院大学の大学図書館でも、AI 探索サービスの運用がスタートしている。

 横浜市立図書館は先行して導入したため、青山学院大学が導入したクラウド型のAI 探索サービスとは異なり個別開発のシステムだが、提供される機能は変わりはないという。

「大学図書館も公共図書館も、利用者からの声はおおむね好評です。一方、図書館司書の方々からは『このキーワードでこの書籍が表示される理由が分からない』『仕組みが知りたい』といったような声もあります。司書の人たちは、すでに本を探すというスキルセットが整っているので、AIによる書籍の探索には違和感を覚えるようです。これは司書という仕事のみならず、全てのプロフェッショナルの仕事を担う人たちに存在する感覚だと思います。一方で、公共図書館の司書からの好意的な意見として『簡易的なレファレンスに使える』というものがありました。本来のレファレンスの業務を補完する、ライトなレファレンスとしても、このAI 探索サービスは需要がありそうです」と鈴木氏。
 現在、AI 探索サービスは公共図書館、大学図書館での活用が中心だ。小学校〜高等学校に存在する学校図書館では、今後導入の予定はあるのだろうか。

「GIGAスクール構想で導入した学習者用端末で使いたい、というニーズがあります。調べ学習で使うなど、非常に学習との相性も良いと思います」と前氏は語る。

 一方、特に小中学校の学校図書館の場合、各学校に存在している本が統合的に探索できるメリットはある一方で、それらの書籍を学校間で貸し出しを行うための物理的なオペレーションが不足している。学校図書館への整備を進めるためには、こうしたトータルでのシステム構築が求められそうだ。

 富士通Japanは本AI 探索サービスを、2028年3月までに100団体への導入を目指している。図書館の蔵書のみならず、博物館や大学のシラバス、研究者情報など、あらゆる学びを探索するサービスとしての提供を目指していく予定だ。