DX(デジタルトランスフォーメーション)の波が押し寄せる中、企業の現場にはいまだに「紙とExcelの壁」が立ちはだかっている。中小企業の約66%が紙やExcelでの管理を継続していると言われる現在、IT販売パートナーの元には「請求書のデジタル化」や「入力作業の自動化」といった相談が日々寄せられている。

この非効率を解消するため、多くの企業が検討するのが「OCR(光学文字認識)」の導入だ。「紙をスキャンしてテキストデータに変換すれば、手入力はなくなるはずだ」――そう期待して導入に踏み切るものの、ここで多くの企業が新たな壁に直面する。「認識精度の限界」と「前後の作業負担」である。

だが、その常識は過去のものとなりつつある。国内AI-OCR市場シェアNo.1を走るAI inside は、いち早くAIとOCRを融合させたサービス「DX Suite」を展開。単なる文字認識ツールから、業務プロセス全体を自動化する「AIエージェント」へと進化した同製品は、真の意味で「入力業務からの解放」を実現しようとしている。そこで今回は、AI inside Product Strategy & Development本部 VPoEの三谷辰秋氏と同本部 PMの西宮菜々恵氏にお話を伺った。

「AIで人類を進化させる」 AI inside が描く数百年のビジョン

AI inside のProduct Strategy & Development本部 VPoEの三谷辰秋氏

AI inside は、2015年の設立以来、一貫して「 “AI” inside “X” 」というビジョンを掲げ、AIが社会のあらゆる隅々に溶け込んだ世界の実現を目指している。同社が最初にフォーカスしたのは「視覚」、すなわちAI-OCRの領域だ。これは単なるビジネス上の戦略というだけでなく、創業者の壮大なビジョンに基づいている。

三谷氏は、創業の経緯についてこう語る。「当社のCEOである渡久地(とぐち)の頭の中には、200年単位の未来年表が存在しています。人類の進化と人々の幸福に貢献するために、今、我々は何をすべきか。その構想の中で、最初に人間の『目』を代替する技術、つまりAI-OCRが必要不可欠だと判断し、2015年というまだAI-OCR市場が黎明期だった頃から開発を続けてきました。それ以来、我々は単なるツールベンダーではなく、テクノロジーで社会課題を解決するプラットフォーマーとして歩みを進めています」。

同社が提供する「DX Suite」は、こうした思想の下で開発され、現在では国内AI-OCR市場でシェアNo.1を獲得。金融機関や自治体といった、極めて高いセキュリティと精度が求められる領域でも多数採用されており、その信頼性の高さが伺える。

そして2025年、同社は「DX Suite」を次のステージへと進化させる大型アップデートを行った。それが、「AIエージェント」の搭載だ。

AIエージェントが実現する「一気通貫」の自動化

「DX Suite」を導入前と導入後での作業の流れの違い。ほぼ自動化されるので、大幅な省力化が期待できる

これまでのOCR業務は、ユーザーが能動的にツールを操作する必要があった。しかし、今回のアップデートで実装された「AIエージェント」は、その概念を覆す。ユーザーが行うのは、所定のフォルダにファイルを置くことだけ。あとはAIが「エージェント(代理人)」として、裏側でタスクを実行する。

三谷氏は、この機能開発の背景にある「現場の心理」を指摘する。

「本来、お客様が求めているのは『データを文字にする』こと自体ではありません。例えば営業担当者であれば、注文書の内容を受注システムに登録し、出荷手配を完了させることが目的です。データ化はそのための通過点に過ぎません。それなのに、OCRソフトにログインして、ファイルをアップロードして、変換を待って……という作業は、本質的な業務ではありません。我々は、そうした『システムを使うための作業』すらなくし、人が介在しないワークフローを構築することを目指しました」。

具体的には、企業内のファイルサーバーや、Googleドライブ、OneDriveなどのクラウドストレージ上に「入力用フォルダ」を作成する。複合機でスキャンしたPDFや、メールで受信した注文書がそのフォルダに保存されると、AIエージェントが即座に検知し、「DX Suite」へ自動アップロードを行う。

その後、AIが帳票の種類(請求書、注文書、アンケートなど)を自動で判別して仕分けを行い、OCR処理を実行。さらに、データのフォーマット整形まで行った上で、最終的なCSVデータを「出力用フォルダ」に自動で書き戻す。

「DX Suite」を導入した自動化の例

「API連携などのシステム開発を行えば同様のことは可能ですが、それには多額のコストとIT専門知識が必要です。しかし、今回提供するAIエージェント機能を使えば、フォルダを決めるだけのノーコード設定で、この一気通貫の自動化フローが完成します。IT部門を持たない中小企業のお客様でも、明日からすぐに『手放しのデータ化』を実現できるのです」と三谷氏は語る。

ユーザーは、いつものフォルダを見に行くだけで、そこにはすでに整理されたデータがある。システムにログインする必要すらなくなる――これがAI inside の目指す「真のDX」の姿だ。

99.6%の衝撃。独自LLM「PolySphere-4」がもたらす精度革命

自動化のプロセスがいかにスムーズでも、肝心の「読み取り精度」が低ければ確認作業のコストが発生する。特に、取引先ごとにフォーマットが異なる「非定型帳票」の読み取りは、従来のOCRが苦手としてきた領域だ。

AI inside はこの課題に対し、自社開発のLLM(大規模言語モデル)「PolySphere-4」を実装することで読取精度の大幅な向上を実現している。

「OCRの精度は、『文字が読めるか』という認識力と、『それがどの項目か』という場所の特定力の掛け合わせで決まります。当社は創業以来、文字認識技術を磨き続けてきましたが、そこにLLMの文脈理解能力を組み合わせることで、非定型帳票の認識精度が劇的に向上しました。実データによる社内テストでは、平均99.6%という精度を記録しています。これは、前モデルと比較しても飛躍的な進化であり、もはや人間が目で見て入力するのと同等か、それ以上のレベルに達しています」(三谷氏)。

訂正印を読み飛ばしたり、チェックボックスを認識してデータ化してくれるのは、非常にありがたい

「PolySphere-4」は、単に文字を追うだけでなく、書類全体の構造や文脈を理解する。例えば、請求書のレイアウトが崩れていても、あるいは手書きで乱雑に書かれたメモがあっても、AIが「これは金額である」「これは日付である」と推論し、正しい項目にマッピングする。

特に、金融・不動産業界で多い外国人による手書き申込書など、崩れた日本語文字の読み取りにおいても、他社を圧倒する強みを見せているという。

手書きの文字でも認識精度が高いのが特徴

「人間よりAIの方が正確」 チェック業務を8割削減するAIの眼

精度の向上は、最大のボトルネックである「目視チェック」のあり方も変えようとしている。AI inside が実装した機能の中で、特にBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)事業者や大量の帳票を扱う企業から熱烈な支持を受けているのが、「AIによるデータチェック」機能だ。

これは、AI-OCRが読み取った結果に対し、別のAIが「本当に合っているか」を検証するという、いわば「AIによるダブルチェック」の仕組みだ。三谷氏は、人間によるチェックの限界と、AIの優位性をこう語る。

「人間は、疲れてくるとミスをしますし、『こう書いてあるはずだ』という思い込みで誤った文字を正解としてしまうことがあります。しかし、AIには疲労も思い込みもありません。読み取り結果と元画像を冷静に比較し、自信がない箇所だけ人間に『ここを確認してください』とアラートを出します。それ以外は確認が不要なので、人間がチェックすべき項目は劇的に減ります。実際、これによりチェック工数を最大8割削減できた事例もあります」。

「確認作業は人間がやるべき」という常識は、もはや過去のものとなりつつある。AIが読んだものをAIがチェックし、それでもAIが迷った部分だけを人間が判断する。この分業体制こそが、品質と効率を両立させる鍵となる。

「何を設定すべきか分からない」を解消。初期設定もAIが代行

AI inside のProduct Strategy & Development本部 Leapnet Platform Division PM Managerの西宮菜々恵氏

導入企業の裾野を広げるための工夫は、精度の向上だけにとどまらない。導入担当者を悩ませてきた「初期設定(帳票定義など)」の自動化も実現した。

従来、OCRソフトを使うには、「この枠に日付がある」「ここからここまでが明細行」といった定義を、帳票ごとに設定する必要があった。これが意外と面倒なため障壁となり、導入を断念する企業もあるほどだ。

西宮氏は、この点における進化を強調する。「AIエージェント機能では、読み取りたい帳票を1枚アップロードするだけで設定が完了します。画像を受け取ったAIが、『これは注文書だから、当然、請求先と商品名と数量が必要だよね』と自律的に判断し、読み取り項目を自動で生成・設定してくれます。ユーザーは、AIが作った設定を見て『OK』を押すだけ。もし不要な項目があれば削除する程度で、ゼロから設定を作る苦労はもう必要ありません」。

フォーマットがバラバラな書類に対しての処理の例

専門知識がない現場担当者でも、直感的に使い始められる。これにより、情報システム部がない中小企業や、地方の工場などでも、スムーズな導入が可能となった。

現場主導でユーザー数10倍増。製造業、物流現場での活用事例

こうした「使いやすさ」と「自動化」は、実際の現場でどのような変化を生んでいるのか。西宮氏は、大手自動車会社における導入事例を挙げる。

「導入いただいた大手自動車会社では、トップダウンで導入を強制したわけではなく、現場の方々が実際に使ってみて『これは便利だ』と実感し、口コミで社内に広がっていきました。その結果、ユーザー数が当初から10倍にまで増加しました。最初は特定の部署でスモールスタートし、その成功体験が隣の部署へ、そして全社へと波及していく。これが理想的なDXの広がり方です」。

また、製造業や物流業の現場でも、「DX Suite」は不可欠なツールとなっている。ある製造現場では、部品の梱包状況や手書きの日報を毎日データ化し、原価計算に活用している。現場の作業員はPCを持っておらず、油がついた手袋をして作業をしているため、タブレット入力は現実的ではない。

「『紙に書いてスキャンするだけ』というシンプルな運用に変えたことで、現場の負担を増やさずにデータ化を実現しました。以前は管理者が毎日30分かけて手入力し、残業が発生していましたが、今はフォルダに入れるだけで完了します。入力ミスもなくなり、本来やるべき管理業務や改善活動に時間を使えるようになりました」(西宮氏)。

「今のまま(手書き・手入力)の方が早い」という現場の抵抗感は、導入初期にはつきものだ。しかし、AIエージェントによる「何もしなくていい体験」を一度味わえば、もう元の世界には戻れない。現場の「食わず嫌い」を解消する圧倒的な利便性が、そこにはある。

生成AI時代のデータ基盤として正確なデータが必要不可欠

AI inside が見据えるのは、単なる業務効率化だけではない。その先にある「データ活用」、特にRAG(検索拡張生成)の質を高めるための基盤作りだ。

企業内には、過去の図面、仕様書、カタログ、点検記録など、膨大な「紙の資産」が眠っている。これらを生成AI(ChatGPTなど)に読み込ませ、社内ナレッジとして活用しようとする動きが活発化している。

しかし、ここで三谷氏は警鐘を鳴らす。「RAGを構築する際、最も重要なのはデータの質です。きちんと構造化されていない、精度の低いテキストデータをいくらAIに学習させても、正確な回答は得られません。『DX Suite』で、紙の情報を99.6%の精度で正しく構造化データに変換し、それを当社のAIプラットフォーム『Leapnet』のRAG基盤に投入することで初めて、実用的なナレッジ活用が可能になります」。

OCRは、アナログ情報をデジタル世界に橋渡しする唯一の入り口だ。その入り口の精度が、企業のAI活用の成否を決定づけると言っても過言ではない。

「すべての企業にAIを」 価格据え置きに込められた覚悟

驚くべきことに、これらの新機能――AIエージェント、PolySphere-4による高精度化など――は、既存ユーザーに対して追加費用なしで提供される(※プランによる)。

高機能化すれば値上げをするのがビジネスの常識だが、なぜ据え置きなのか。そこには、再び創業時の「パーパス」が顔をのぞかせる。

「これはCEOである渡久地の強い意向でもあります。良いものを高く売って一部の大企業だけが使うのではなく、より多くの人に使ってもらい、社会全体の生産性を底上げする。それによって人々が幸せになることをゴールにしているからです」と笑顔で三谷氏は語った。

AI inside は、資金力のある大企業だけでなく、日本を支える中小企業、地方の現場にこそ、最先端のAIが必要だと考えているのだ。

「DX Suite」の進化は、AIの役割が「人が使うツール」から「自律的に働く同僚(エージェント)」へと変化したことで、人間は「入力」という単純作業から解放され、創造的な業務、あるいは人間にしかできないコミュニケーションに集中できるはずだ。

「DXが進まない」「入力業務がなくならない」と嘆く前に、まずはその業務を「エージェント」に任せてみてはどうだろうか。AI inside が切り拓いた「入力ゼロ」の世界は、すでに現実のものとなっている。

製品情報

DX Suite

手書きも活字も、あらゆる書類をAIが自動でデジタルデータ化。高度な知識は必要なく簡単なマウス操作で読み取る項目の設定が可能で、あらゆる非定型帳票に対応します。業務プロセスの改善や生産性の向上を実現できます。

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