パフォーマンスと電力効率を両立した
SoCの提供でAI活用を支援

10月30日、インテルは同社のAIに関する取り組みや、次世代AI PC向けSoC「Panther Lake」の技術動向を説明するプレスセミナーを開催した。AI PCが普及する中、インテルはどのような取り組みを進める考えなのだろうか。また、最先端の半導体製造プロセスを採用するPanther Lakeの特長とは何か。本記事ではセミナーの内容を詳細にレポートしていく。

Intel 18A採用の新製品を投入予定
AI戦略は推論にチャンスを見出す

「最新製品は現世代SoCの消費電力を維持しつつも性能は飛躍的に向上する予定ですので、ぜひ楽しみにしてください」と語るインテル 代表取締役社長 大野 誠氏。

 プレスセミナーにはまずインテル 代表取締役社長 大野 誠氏が登壇し、同社の東京オフィスが丸の内永楽ビルディングに移転したことや新経営体制などに触れつつ、インテルの最新の動向をこう話す。「2025年9月にアリゾナで開催された『Intel Technology Tour 2025』にて、最先端の半導体製造プロセス『Intel 18A』のウエハー製造を開始したと発表しました。製造はオレゴンとアリゾナの2拠点で行います。アリゾナにおいては、オコティージョ・キャンパスに建設した最新の工場『Fab 52』にて、今期中に本格的な量産稼働と量産出荷を予定しています」

 大野氏は続けて、Intel 18Aにおける欠陥密度の推移を表すグラフを示しながら「Intel 18Aの欠陥は順調に低減しています」とアピールする。そしてIntel 18Aを採用する最新製品について、次のように語る。「Intel 18Aプロセスを採用するのは、次世代AI PC向けSoCの『Panther Lake』と、次世代データセンター向けEコアSoCの『Clearwater Forest』です。共に2026年上半期での発表を予定しています。最先端の半導体製造プロセスと当社の最先端のパッケージ技術の恩恵を受け、現世代SoCの消費電力を維持しつつも性能は飛躍的に向上する予定ですので、ぜひ楽しみにしてください。加えて、これらの新製品を自社製造に戻せることで柔軟なサプライチェーンを確保でき、技術力、コスト競争力、安定供給をマーケットに示せるのです」

 さらに大野氏は、Intel Technology Tour 2025で発表されたAIに関する事項についても触れた。同社の取り組みを語るに当たり、大野氏はまず「多くの方が期待を寄せるエージェンティックAIとフィジカルAIは、まだ初期段階にあると認識しています。そのため、まだまだ産業関係者の参入への扉が開いていると考えています。これは、当社も例外ではありません」と切り出す。「推論は機械学習とは異なり、ワークロードが多様化しています。また推論性能や経済合理性という点では、高スループット、低レイテンシー、コストパフォーマンスと電力効率の両立が重要になります。これに対して我々は、CPUやGPUが優れた多様型のヘテロジニアスなシステムの駆使が大切になると考えています。当社としては、まずは推論にチャンスを見出していきたいと思っています」(大野氏)

 これを踏まえて大野氏は、インテルのエージェンティックAIに対する戦略をこう語る。「当社ではヘテロジニアスなインフラと、ターンキー型のソリューションを2025年から2026年にかけて提供する予定です。さらにはエージェンティックAIを拡大する上で、統合型ソフトウェアフレームワークの提供を開始していきます。加えて、推論に特化した新たなGPU『Crescent Island』を2026年以降に投入していきます」

インテルのAI実行ロードマップ。2026年以降に推論に特化した新たなGPU『Crescent Island』を投入予定だ。

 最後に大野氏は、インテルのフィジカルAIに対する取り組みを以下のように話した。「当社はPanther Lakeを搭載したロボティクス向けのリファレンスボードを用意しながら、プラットフォームに最適化を図ったロボティクス向けのAIスイートも提供していきます。これらを提供することにより、コスト効率の高いロボットを短期間で開発できるようになります」

幅広い人々を対象にした
AI開発ワークショップを開催

インテル Core Ultra プロセッサーの進化を振り返るインテル 執行役員 技術・営業統括本部 本部長 町田奈穂氏。

 大野氏に続いて、インテル 執行役員 技術・営業統括本部 本部長 町田奈穂氏が登壇した。町田氏は「AI PCのさらなる拡がり」をテーマに話し、まず「インテルでは今、『優れたAI PCは 優れたPCから始まる』というメッセージを掲げています。AI PCの実現にはクラウドを活用したAIだけでなく、ローカルで動作するAIが不可欠だと考えています。これによって、リアルタイム性、プライバシー保護、電力効率向上など、新たなAIのユーザー体験を実現します」と切り出す。

 そして町田氏は、同社が市場に投入してきたAI PC向け製品の進化をこう振り返る。「ブランドネームは『インテル Core Ultra プロセッサー』です。まずは2023年末、ノートPC向けに『Meteor Lake』を発表しました。こちらは当社初のチップレット設計を採用しています。CPU、GPU、そしてNPUを統合させることで、AI処理をPCに本格的に取り込んでいます。この世代から、AI推論をローカルで実行できる環境を整えています。続いては、薄型ノートPC用の『Lunar Lake』です。低消費電力とNPU性能の大幅強化が特長です。モバイルPCにおけるAI処理をさらに加速し、Copilot+ PCの要件である40TOPS以上を満たしました。AIアシスタントや生成AI機能を快適に使えるプラットフォームになっています。そしてそのすぐ後に、ノートPC用に加えてデスクトップPC向けも投入した『Arrow Lake』を発表しました。NPUで背景の削除、ぼかし、オーディオの最適化、自動フレーミングなどAIタスクをオフロードすることで、ストリーミングやゲームを快適に楽しむことを可能にしました。今紹介した三つの製品は、どれもAI処理を支える優れたハードウェア、そして既存のアプリとの互換性を兼ね備えたプロセッサーになっています」

 また町田氏は、同社のAI PCソフトウェアエコシステムについてこう語る。「すでに世界中で350社以上のソフトウェアベンダーさまと協力体制を組んでいます。加えて、900種類以上のAIモデルがインテル製品に対応しています。この環境により、500に迫る数のAI機能が実際に誕生しています」

 こうした状況も踏まえ、同社はAI PC向けソリューションの開発支援をさらに推進するために、日本にてAI PCやエッジAI向けのAIアプリ開発ワークショップ「PEAR Experience by Intel」(以下、PEAR Experience)を開催する。PEAR Experienceは、ソフトウェア開発にAI技術を取り込み、AIと人間が協働する新しい開発スタイルを体験するものになる。そのためソフトウェアエンジニアに限らず、幅広い人々が参加できるという。

「PEAR Experience」の「PEAR」は、「PC」「Edge」「AI」「Revolution」の頭文字を取った名称になっている。

 そして、AI PCの広がりを踏まえて同社が新しく投入するのが、Panther Lakeだ。町田氏はPanther Lakeについて「当社はエンジニアリングの本質に立ち戻って、Arrow LakeとLunar Lakeの強みを最大限に引き出し、融合することに成功しました。つまりArrow Lakeの圧倒的なパフォーマンスと、Lunar Lakeの優れた効率性を兼ね備えた、次世代の理想的なプラットフォームを作り上げたのです」と話す。

拡張性のあるパフォーマンスと
高い電力効率を両立

Panther Lakeの狙いを語るインテル IA技術本部 部長 太田仁彦氏。

 町田氏に続いて登壇したインテル IA技術本部 部長 太田仁彦氏は、Panther Lakeの技術概要を説明した。

 太田氏はPanther Lakeの狙いについて「Lunar Lakeの先進的なアーキテクチャの上で、幅広い製品ラインアップを可能にするよう進化させました。コア、グラフィックス、AIのあらゆるワークロードにわたって強化を行い、Intel 18Aの最先端プロセスで開発しました」

 太田氏はさらに、アーキテクチャの狙いを三つに分けてPanther Lakeの特長を説明する。

 一つ目の狙いは、アーキテクチャの柔軟性向上だ。町田氏も触れた通り、Panther LakeはArrow Lakeの拡張性のあるパフォーマンスと、Lunar Lakeの電力効率の両立を目指している。このうち拡張性については、拡張性と効率の両立を目的に設計されたコヒーレント・ファブリック「第2世代拡張ファブリック」が可能にしている。第2世代拡張ファブリックは、統一の拡張プロトコルの採用でパーティショニングの非依存を実現した。加えてプロトコル自体を柔軟にすることで、IP非依存も実現している。第2世代拡張ファブリックの柔軟性によって、CPUと組み合わせるGPUをフレキシブルなものにできたのだ。

 さらには、柔軟な実装を可能にする設計も実現している。Panther Lakeでは、8コア、16コア、16コア 12Xe-coreの3種類の構成をラインアップする。この三つはそれぞれ幅広いレンジのパフォーマンスや電力帯で動作しながらも、一つの共通パッケージで提供されるのだ。これによってメーカーは、共通設計のメリットを享受しながら、自社の製品ラインアップに最適な構成を選べるようになった。

Panther Lakeは8コア、16コア、16コア 12Xe-coreの3種類の構成を用意する。これらは共通のパッケージで提供される。

 二つ目の狙いは、パフォーマンスの向上だ。Panther LakeのCPUコアは、Pコアには従来のアーキテクチャ「Lion Cove」の改良版となる「Cougar Cove」、Eコアには従来のアーキテクチャ「Skymont」の改良版となる「Darkmont」が採用されている。どちらもIntel 18Aに最適化されており、消費電力を抑えつつパフォーマンスの向上を可能にしている。

 三つ目の狙いはトップレベルの電力効率だ。Panther LakeはLunar Lakeの電力効率を継承しつつ、さらにアップデートしている。例えばLunar Lakeにおける低電力クラスターについて、Panther LakeではEコアをDarkmontにアップグレードすることで、Arrow Lakeと比較して能力を大幅に向上した。これによって低電力クラスターは、中規模のコンピュート処理をこなしながら低電力を維持できるようになったのだ。

 最後に太田氏は、Panther Lakeについてこう締めくくった。「Panther Lakeは幅広い製品セグメントにわたって、アグレッシブな目標をターゲットに開発してきました。全方位でパフォーマンスを向上させつつも、電力効率をさらに下げることを主眼に置いてきたのです。結果的に、多くの指標に対して目的を果たすアーキテクチャが完成したと自負しています。次世代モバイルに最適なアーキテクチャは、さまざまな要素が密に組み上げられた形で実現できたと思っています」