書籍出版事業を手がけるポプラ社。その同社が昨今注力しているのが学校向け教育ICT事業だ。中でも近年、子供のための読み放題型電子図書館「Yomokka!(よもっか!)」が教育現場から注目を集めている。児童書出版社という立場から開発された電子図書館サービスが実現する、子供たちへの読書推進と探究的な学びについて見ていこう。

本との出会いを画面上で創出

ポプラ社
勝又 慶

 ポプラ社では「MottoSokka!(もっとそっか!)」という本と学びのプラットフォームを提供している。これは教育現場に向けて、「読書体験」と「探究体験」を通じて、好奇心から始まる自発的な学びの循環の提供を行うものだ。このMottoSokka!は読み放題型電子図書館のYomokka!と、オンライン事典サービスの「Sagasokka!(さがそっか!)」の二つで構成されており、目的に応じてそれぞれ独立して導入できる。

 Yomokka!について、同社 開発リーダー 下川ちひろ氏は「Yomokka!は、Webブラウザーから利用できる読み放題の電子図書館サービスです。子供たちが使いやすいUIを採用しており、感覚的に操作できます。特に重視しているのが、本との出会いです。トップ画面の左側には『特集』というコーナーを用意しており、季節やテーマに合わせてお薦めの本を紹介することで、さまざまな本に出会えるようにしています。また『きょうの1さつ』という機能では、ガチャのようにお薦めの1冊が表示され、本との思いがけない出会いが生まれます。読書をするときに、必ずしも何を読みたいかが決まっている子供ばかりとは限らないので、まずはガチャを回してみようという子供も多いようです」と語る。

 ユーザー同士で本をお薦めし合う機能として、「みんなのランキング」もある。これは子供たち自身が、自分のお薦めの3冊を選びコメントを付けて投稿する機能だ。身近な子供が面白いと思った本が紹介されているため、自分では読んだことのない本など、新しい発見が得られる。現在Yomokka!には44の出版社が参画し、約5,300冊の本が閲覧できる(2025年12月時点)。

 本サービスは2022年4月からスタートした。ポプラ社 こどもの学び事業本部MottoSokka!事業部長 勝又 慶氏は「子供たちの読書離れは私たちにとって、長らく課題であり続けていますが、そこにコロナ禍でGIGAスクール構想が前倒しになり、1人1台の学習者用端末と通信環境が教育現場に整備されました。これらの学習者用端末は文具のように、子供たちが日常的に利用するものです。そのため、その端末の中に本があれば、本と子供たちとの新しい接点が作れるチャンスだと思いました。そこで短い開発期間ではありましたが、2021年7月にポプラ社の本だけが読めるトライアル版としてリリースしました。さらに2022年4月には、他社の出版社さまにも参画いただき、読み放題型電子図書館サービスとして正式に提供をスタートしました」と振り返る。

学びと密接に関わる本の存在

ポプラ社
下川ちひろ

 学校教育の中で本に触れる機会は意外と多い。「朝の読書」はもちろん、調べ学習や探究的な学習の時間の課題設定や情報収集に本が活用されている。「学校生活において、本はもともとなくてはならない存在です。しかし現在、必ずしも全ての学校に蔵書が十分にあるとはいえない状況です」と指摘する勝又氏。

 学校図書館の蔵書冊数は、文部科学省による「学校図書館図書標準」によって目標が定められている。例えば、18学級ある小学校では1万360冊、15学級ある中学校では1万2,160冊を蔵書冊数の目標として定めている。しかし、これを満たしていない学校、自治体も存在する。

 2020年度の文部科学省の調査によれば、公立小学校の約3割、公立中学校の約4割が蔵書数の目標に達していないという。

 大規模自治体では学級数が多く、蔵書基準も増加する。一方、小規模自治体では予算不足により図書購入費の確保が難しい場合もある。さらに書店数の減少などにより、子供たちが本にアクセスしづらい環境にある。

「Yomokka!は、このような学校図書館の蔵書冊数の課題解決の一助になり得ます。Yomokka!は前述した通り読み放題型の電子図書館サービスですので、児童生徒は約5,300冊の書籍を自由に読むことが可能です。また一般的な電子図書館は、誰かが借りていると同じ本が借りられないなど、既存の図書館に準じたシステムであることが一般的です。この場合、複数人が同じ本を借りて読むことは難しく、授業で同じ本を読んで学ぶといった活用が困難になります。しかしYomokka!はサブスクリプションサービスとして提供しているため、同じ本をクラス全員や学校全員で同時に読むことが可能です」と勝又氏は活用のメリットを語る。

 Yomokka!は現在約600校に導入されており、約24万人の子供たちが活用している。その中でも朝の読書時間に積極的に活用されているという。

 下川氏は「最近は授業での活用も増えてきました。Yomokka!は調べ学習に使える学習資料も充実しています。これまでは調べ学習をする際に、先生方は子供たちそれぞれが調べたいものについて資料からコピーして配布したり、必要な書籍を公共図書館や他校から集めたりする必要がありました。Yomokka!を使えば、その手間を削減できます。また、子供たちが調べたことを発表するときに、見せたい部分を拡大して、資料を投映しながら説明をするといった様子も見られました」と語る。

 学校図書館の課題には、蔵書数以外も学校司書の配置不足が指摘されている。「司書教諭や学校司書が配置されていなかったり、兼務していたりする学校もあります。その場合、授業で使う図書の活用サポートが不足していたり、蔵書管理が十分に行えていなかったりという課題も発生します。Yomokka!はサブスクリプションサービスですので、掲載書誌を全て読み続けることができ、蔵書管理の負担がありませんし、担任の先生や子供たち自身が検索して本を簡単に探すことが可能です。また、ちょっとした隙間時間に図書館まで足を運ばなくても、端末で本を読めることがうれしいという子供たちからの声もありました。読書の入口を提供できるYomokka!は、子供たちに新たな選択肢を示す存在となり得るでしょう」と勝又氏は指摘する。

授業で使えるアイデア集も

 Yomokka!は前述した通り、約600校で導入が進んでいる。直近では2025年7月から横浜市の全ての市立小学校、義務教育学校、特別支援学校に導入された。また、レノボ・ジャパンが提供するGIGAスクール構想第2期向け学習者用端末にも「Yomokka! Lenovo GIGA School Edition」という特別版モデルがプリインストールされており、これらを活用した自治体から、本格導入の問い合わせを受けることもあるという。教員向けにYomokka!を活用するためのアイデア集なども用意されており、単元ごとのお薦め書籍も合わせて紹介することで、授業における本の情報活用をさらに発展させていくことを狙っている。

 下川氏は「子供たちの読書に対する興味は多種多様です。すでに約5,300冊がYomokka!で読めますが、今後も各出版社さまにもご協力いただきながら掲載書誌を充実させていきたいと考えています。本が苦手な子にとっても本を楽しいと感じてもらえるよう、今後も改善を続けていきます」と語る。また勝又氏は「公教育を通じて、どこにいても平等に本を楽しめる環境を拡大していきたいと考えています。また、デジタルの特性を生かし、読書ログと学習データなどを組み合わせると、読書と学力の関係を知る一つの観点になると考えています。実際、以前当社が実施した『小学生の読書に関する調査結果』では、Yomokka!での読書量が多い児童ほど、読書に関する良い変化を実感できているようでした。こうした効果に関するエビデンスを積み上げていくことを目指します」と語った。

Yomokka!のトップ画面。子供たちが直感的に分かりやすく、操作しやすいUIを採用している。左側の特集ページや、「きょうの1さつ」などの機能から、本との出会いを創出している。