人材紹介の推薦状という着眼点と
多業種に応用できる仕組みを評価
最優秀賞
「推薦状エージェント」
ティーケーネットサービス
生成AIを活用して業務を自動化するAIエージェントは幅広い業務に適用できるため、そのビジネスへの期待が大きい。一方でどのようなユースケースが顧客の関心を引くのか、頭を悩ませている企業が少なくない。そこでダイワボウ情報システム(DIS)は日本マイクロソフトと協力し、AIエージェントの開発促進とビジネスの活性化に向けて、昨年8月19日に技術コンテスト「Microsoft Copilot DIS Agent Cup 2025 夏」を開催し、新潟県新潟市に本社を置くティーケーネットサービスが発表した「推薦状エージェント」が最優秀賞を受賞した。推薦状エージェントから、AIエージェントビジネスへの取り組み方を探っていく。
企業へ人材を紹介する際に
重要な役割を担う推薦状
ティーケーネットサービスはマイクロソフトの認定資格を多数保有し、技術力の高さと製品への造詣の深さを強みに、中長期にわたる顧客への伴走支援を通じて提供したソリューションの成果を引き出すことで高い評価を得ている。また群馬県高崎市で「Microsoft Base」を運営しており、地域の企業に向けてクラウドや生成AIの活用を通じたデジタルトランスフォーメーション(DX)推進への取り組みを積極的に発信している。
「Microsoft Copilot DIS Agent Cup 2025 夏」(以下、Agent Cup)で最優秀賞を受賞した同社の「推薦状エージェント」は、転職エージェント事業者向けのAIエージェントだ。
転職エージェントとは転職希望者と求人を出している企業とのマッチングを支援するサービスだ。企業に人材を紹介する際は、転職エージェントが転職希望者の経験やスキル、人柄などを記した推薦状を作成し、企業の採用担当者に提出する。
ただし紹介する人材に関心を持ってもらうには本人の実績だけではなく、推薦状の「出来栄え」も重要な役割を担う。この推薦状の作成が転職エージェントにとって負担の大きな業務となっている。
推薦状は転職エージェントが転職希望者にヒアリングして本人の経験や実績、スキル、キャリアプランなどを聞き出して作文する。ただし事実だけを記すのではなく、人柄を含めて有用な人材であることを採用担当者に印象付けることが求められる。
しかし全ての転職エージェントが、企業に紹介する人材の魅力をうまく表現できるわけではない。また転職エージェントが担当する人材の数が多くなると推薦状の作成に多くの時間が割かれ、企業に紹介する人材の数が減ってしまう。
この課題に対してティーケーネットサービスの推薦状エージェントは、転職エージェント(Microsoft 365 Copilotのライセンス保有者)が、Teamsで転職希望者と面談をする。その際にTeamsのCopilotが全ての会話を文字起こしして、そのテキストから議事録となるAIメモを自動で作成する。ここまではMicrosoft 365 Copilotの標準機能だ。
そして作成されたAIメモを推薦状エージェントに受け渡すと、推薦状に必要な要素を抽出し、採用担当者の関心を引く文章を自動で生成した上で、指定されたフォーマットに落とし込み、Word形式で転職エージェントに提供する。
議事録から自律的に採用担当者の関心を引く文章を、指定のフォーマットで自動的に作成してくれることで、文章力を問わず推薦状の品質および効果を向上でき、推薦状の作成に費やす業務負担軽減と時間短縮も図れる。
ソフトウェア開発経験がなくても
AIエージェントを開発できる

クラウドビジネスグループ
アカウントマネージャー
佐野 沙緒理 氏
推薦状エージェントを開発したのは、ティーケーネットサービスでクラウドビジネスグループのアカウントマネージャーを務める佐野沙緒理氏だ。AIエージェントを開発した佐野氏はエンジニアではなく、ソフトウェア開発の経験もなかったという。
Agent Cupに参加した経緯について佐野氏は「日頃の業務でお客さまのCopilot活用を支援しており、業務の効率化に非常に大きな効果があることを実感しています。さらにAIエージェントはアイデア次第でいろいろな活用ができると感じていました。Agent Cupの開催を知り、他社がどのようなAIエージェントを発表するのか興味があり参加を希望しました」と振り返る。
しかし佐野氏はソフトウェアを開発した経験がない。ティーケーネットサービスの創業者で代表取締役社長を務める武田勇人氏は「佐野はCopilotに精通しており、エンジニア目線ではなくユーザー目線でお客さまのニーズに即したアイデアで、収益性のあるAIエージェントを作り出せると確信していました。またノーコード・ローコードでAIエージェントを開発できるCopilot Studioならば、佐野にもAIエージェントが開発できるだろうと考え、佐野の参加を歓迎しました」と説明する。
Agent Cupへの参加に向けて本格的にCopilot Studioと向き合った佐野氏は「Copilot StudioはGUIでCopilotの各機能と関連付け、Teamsなどのアプリケーションと連携して業務を自動化できるAIエージェントを、私のようにソフトウェア開発の経験がない人でも容易に開発できます。そのためCopilot Studioを使いこなすだけではなく、どのような課題を解決するAIエージェントを開発するのか、そのアイデアも重要です」と指摘する。
仕組みを応用してニーズを開拓
商談を進めている案件を獲得

代表取締役社長
武田 勇人 氏
推薦状エージェントは転職エージェント事業者を対象としており、一見、顧客ターゲットがピンポイントに思える。
武田氏は「転職エージェント事業は紹介した人材が採用されると、本人に支払われる年収の数十パーセント、特定の人材においては同額の紹介手数料が得られることもあるビジネスです。しかも転職市場は非常に大きく、今後も成長が期待できます」と強調する。人材採用において推薦状の役割は重要であり、その効果向上と作成の負担軽減というニーズは全国に多数あります」と説明する。
さらに推薦状エージェントのTeamsでのコミュニケーションの内容から、用途や目的に応じた文書を生成するという仕組みは、さまざまな業種で活用できそうだ。
推薦状エージェントは最優秀賞受賞の特典として昨年10月16日と17日に東京国際フォーラムで開催された「日経クロステック NEXT 東京 2025」のマイクロソフトブースへの出展に招待され、2日間で400名以上が訪れた。
会場で推薦状エージェントの仕組みを説明し、その応用を提案した結果、さまざまな業種の企業からの引き合いを獲得し、実際に商談を進めている案件も出ているという。
武田氏は「推薦状エージェントの仕組みは、アイデア次第であらゆる業種のさまざまな業務の自動化に応用できると考えています。全国に拠点を置いて地域密着でビジネスを展開しているDISさまを通じて、AIエージェントビジネスを伸ばしていくことを期待しています」とビジネスの可能性に自信を見せる。


