kintoneで児童虐待への対応を強化

市町村で受理する児童家庭相談は、子育てに関する相談だけではなく、児童虐待といった支援が必要な相談など多岐にわたる。特に、家庭内で生じる児童虐待は、子供が自ら声を上げることが難しく、見逃してしまう恐れもある。早期発見や発生予防のためには、自治体と保育園や幼稚園、小中高等学校などとの密な情報連携が重要とされる。杉並区では、そうした児童虐待に対する関係機関との情報連携を強化するため、サイボウズの「kintone」を6月から導入した。東京都23区では初となるkintoneの導入事例だという。

年々増加する虐待相談件数

東京都杉並区
東京都23区の西部に位置する人口約57万人(2021年10月1日時点)の特別区。区名の由来は江戸時代の初め、成宗・田端両村の領主であった岡部氏が、領地の境界を示すため、青梅街道に沿って杉並木を植えたことが始まりとされる。この杉並木は明治時代の前になくなってしまったが、その後「杉並」の名は村名として採用され、町名、さらに区名となって現在に至る。

 厚生労働省が2021年8月27日に公表した「令和2年度 児童相談所での児童虐待相談対応件数(速報値)」によると、2020年度における全国の児童相談所に寄せられた虐待相談件数は20万5,029件で、過去最多を更新したという。新型コロナウイルス感染拡大の影響で、教育機関の臨時休校、子育てに悩む保護者の孤立や外出自粛によるストレスの蓄積といった児童虐待のリスクが高まったことが要因として挙げられる。

 杉並区において、子育てに関する相談や虐待を受けている/虐待の疑いがある要保護・要支援児童の家庭支援などを行う「杉並子ども家庭支援センター」も児童虐待に関する相談・通告件数が近年増加しているという。こうした児童虐待を未然に防ぐためには、保育園、幼稚園、小中高等学校などの多くの関係機関と密な連携を図ることで、子供や家庭の状況を常に把握していくことが重要となる。杉並子ども家庭支援センターでは、児童虐待対策の一つとして、月に一度、保育園、幼稚園、小中高等学校から児童・生徒の出欠状況についてメールで報告を受けている。定期的に子供の家庭状況を確認することで、必要に応じて家庭訪問などの子供の見守りを実施し、虐待の早期発見や発生防止に努めている。

「出欠状況のやりとりにはExcelを使用していました。保育園、幼稚園、小中高等学校、それぞれの機関から届くメールは毎月100通ほど。届いたデータは職員が一つに集約する作業を行っており、集計に多くの時間を要していました。加えて、添付ファイルや内容の誤りといった対応など事務作業が煩雑化しており、効率的に情報をやりとりできる手段を探していました」と杉並区 子ども家庭部 管理課 事業係長 吉田 仁氏は当時を振り返る。

スムーズかつ迅速な情報共有を実現

 そうした情報共有に関する問題を解決するため、杉並子ども家庭支援センターで導入したのが、サイボウズの業務アプリ開発プラットフォーム「kintone」だ。「トライアルを通して、kintoneのユーザーライクな操作感や導入のハードルの低さなどを実感し採用を決めました」(吉田氏)

 杉並子ども家庭支援センターでのkintoneを利用した情報共有の取り組みは、2021年6月からスタートした。今までのExcelを使用していた運用から、kintoneに移行することでWebを通してリアルタイムに児童の情報を管理できるようになる。

「欠席日数や児童の様子、家族からの連絡の有無、気になる点といった情報の入力がシステム上から簡単に行えます。Excelによる運用に比べて、情報共有がよりスムーズに実現できるようになりました。虐待の早期発見や発生予防のためには迅速な情報共有が欠かせません。今まで以上に虐待防止対策の充実を図れています」と吉田氏。

 続けて、「kintoneの導入によって、毎月行っていたExcelの集約作業がなくなり、職員の負担が大幅に軽減しました。情報がWeb画面で確認できるようになり、必要があればデータを簡単にエクスポートすることも可能です。子供の出欠状況の把握に関する作業が非常に効率的になったと実感しています」と杉並区 子ども家庭部 管理課 事業係 藤 優樹氏は導入効果を話す。

kintoneで子供の命を守る

 kintoneの導入効果を実感しているのは運用側だけではない。「kintoneを利用するためには保育園などの関係機関の協力も必要となります。メールで行っていた運用からクラウドに移行することに対して最初は抵抗があるといった声もありましたが、テスト期間を1カ月ほど設けて説明を行ったことで『実際に使用してみたらメールよりも報告が楽だね』と納得していただきました。運用が容易になったことで、今まで以上にささいな変化や気付きを報告してもらえるようになり、関係機関との連携の強化にもつながったのではないかと考えています」(吉田氏)

 現在、kintoneを活用した情報共有は、区立保育園(31園)と子ども園(6園)の計37園で行われている。今後は、私立保育園、民間保育園、小中高等学校などへと対象をさらに広げていく計画だ。杉並子ども家庭支援センターと関係機関との情報共有を進め、児童虐待への対策の強化を図り、子供の命を守るための活動を続けていく。

 加えて、ほかの業務でのkintoneの利用も考えているという。

食を通じた見守り強化事業

杉並区、杉並区社会福祉協議会、NPO法人が連携し、要保護・要支援児童のいる家庭に対して食材の提供をきっかけに家庭を訪問。子供の見守り体制の強化を図る。

児童虐待未然防止の取り組みを推進する各種事業

庁内および関係機関と迅速かつ的確に要保護・要支援児童の情報を共有し、効率的・効果的に事業を推進するための活用を検討。

「食を通じた見守り事業では、見守りの結果をkintoneで共有するといった使い方、児童虐待未然防止の取り組みを推進する各種事業では、kintoneを活用して情報共有を迅速に行うといった利用を考えています。ほかにも、紙やメールで行っていた会議資料の共有といった業務の効率化などkintoneに対する期待は高まっています」(吉田氏)

 最後に、杉並区 子ども家庭部 子ども家庭支援担当課長 三浦恵利子氏は「自治体と地域のさまざまな機関が協働で行う取り組みや事業は今後も行われていくでしょう。そうした場合に紙でないと情報のやりとりができないといったアナログな方法では、協働はなかなか進みません。kintoneの導入のように、デジタル化を進めていくことで、社会問題の解決や地域発展に向けた多くの取り組みが実現できるようになるのではないでしょうか」と語った。