文部科学省が2023年10月4日に発表した「令和4年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」によると、不登校の児童生徒数が、小中学校で約30万人と過去最多を更新した。またそのうち、学校内外の専門機関で相談や指導を受けていない小中学生が約11万4,000人存在するといい、こちらも過去最多だという。
そうした状況の中、文部科学省は1人1台端末を活用した「心の健康観察」の導入推進に取り組むなど、ICTを活用することでこれらの課題を解決しようとする動きがある。その取り組みの一つとして、いくつかの自治体で進められているのが「メタバース学校」を活用した不登校の児童生徒支援だ。仮想空間上に学校を作り、そこに児童生徒が登校して授業を受けるメタバース学校は、「誰一人取り残されない学びの保障」の実現に向けて、いま注目を集めている。今回はメタバース上に教育空間を構築するサービスや、それらを活用する自治体を紹介し、不登校の子供たちへの支援にテクノロジーがどのように有効なのか、解説していく。

オンライン教育の欠点を補う
メタバース上の教育空間とは?

新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため臨時休校が相次いだ学校現場において、急速に普及したのがオンライン教育だった。ZoomやTeamsなどのオンライン会議ツールを活用し、自宅にいる児童生徒に対して教員が授業を行うことにより、休校期間においても教育を継続した。こうしたオンライン教育は学校現場だけでなく、学習塾にも普及した一方で、しばらくするとコミュニケーションが取りにくいといった課題も見えてきた。その課題を解決するため、注目されているのがメタバースだ。

教育での利用に最適化された
メタバース空間「FAMcampus」

 オンライン会議ツールによるオンライン授業の課題として指摘されるのが、コミュニケーションのしにくさだ。富士ソフトは、このようなオンライン教育の課題に対応する製品として教育メタバース「FAMcampus」(ファムキャンパス)の提供を2022年4月1日からスタートしている。FAMcampusは「みんなを感じられるバーチャル教育空間」をコンセプトにしたサービスだ。バーチャル上に校舎を再現し、児童生徒はアバターでその空間に通う。

 同社はもともと、2021年6月15日に、バーチャル上にオフィス空間を再現する「FAMoffice」の販売をスタートしており、FAMcampusは同製品の技術をベースに、学研ホールディングスが持つ学習塾の運営ノウハウを組み合わせて開発した。

 FAMcampusには、アバター同士をぶつけるとビデオ通話ができる機能や、教室に着席することでZoomやTeamsなどのWeb会議システムが起動して授業に参加できる機能など、教育シーンで使いやすい機能が多数搭載されている。特に先生や管理者向けの機能として、一斉連絡やチャイム、出欠情報の確認機能、プライバシールームの設定機能などが用意されており、運用目的に合わせて柔軟にフロアを設定できる。

 例えば、ビジネス向けのメタバース空間の場合、24時間アクセスできる製品が多いが、FAMcampusの場合曜日ごとに開放時間を設定できる。「特に学校で使う場合、この空間を管理するのは教育委員会や学校の先生方です。意図せぬ時間に子供が入室しないように管理できる機能が求められています」と語るのは、富士ソフト プロダクト事業本部 みらい教育事業部 戦略企画グループ 課長 木村哲也氏。ユーザーデザイン手法を用いた開発に注力しており、ユーザーからの意見を基に新機能を順次追加している。直近でも新たに「自習室」機能を開発しており、自習でどれくらい勉強したかといった時間を可視化できるという。

2Dの教育メタバースを提供するFAMcampusは教育現場でメタバースを運用する上で必要な機能を多数搭載しており、子供たちの学びの場として適している。

メタバース空間に登校し
不登校の子供たちの学びを支援

 FAMcampusの提供スタート当初は学習塾での利用が主であり、利用している生徒に対して富士ソフトが調査を行ったところ、「勉強する時間が増えた」と回答した合計が73.3%、「モチベーションが上がった」と回答した合計が66.7%、「今後も続けたい」と回答した合計が91.6%と高い評価を受けている。もちろん講師からの評価も高く、「生徒同士の関係作りに効果を発揮している」という意見や、「退塾率が大幅に低下した」という意見が寄せられたほか、「オンラインなのに『校舎』と呼べる」という、バーチャル上の教育空間の再現性の高さを評価する声も見られた。

 こうしたFAMcampusに新たなニーズが出てきている。不登校支援だ。木村氏は「小中学校の不登校が10年連続で過去最多を更新するなど、不登校を支援する取り組みは急務です。もちろん自治体でも不登校の子供たちを支援する教育支援センターの運営強化を行うなどしていますが、不登校の児童生徒の約6割は引きこもり状態であり、専門的な支援が行き届いていないのが実情です」と語る。特に不登校となる原因の一つに、子供たち同士の“いじめ”がある。その場合、人と向き合うことに恐怖を覚えたり、外に出るハードルが高かったりするなど、対面型の不登校支援を利用することが難しいのだ。

 そうした不登校の子供たちをサポートするツールとして、FAMcampusが選ばれているという。実際に2022年度から、文部科学省の「次世代の学校・教育現場を見据えた先端技術・教育データの利活用推進事業」の「教育メタバースによる不登校児童生徒の社会的自立支援効果の検証」にFAMcampusを用いた実証が採択されており、2023年度も継続して実証を行っている。実証期間は2022年12月5日〜2023年1月30日および2023年10月2日〜2023年12月23日で、東京都小金井市内の小中学校を対象に実施された。

 実証期間では、不登校の児童生徒を対象に、午前中に2コマ、午後に2コマのリアルタイムオンライン授業を実施した。午後の授業は二つのプログラムから自由に選択できるようにしており、子供たちは大学の授業のように、学びたい授業を選択して授業に臨む。「授業の名称も、教科名のみではなく『SDGsについて』や、『算数・数学の間違い探し!』といった、参加したくなる授業タイトルを設定しています。不登校の子供たちが楽しく通って学べるよう、授業名から工夫しました」と富士ソフト プロダクト事業本部 みらい教育事業部 戦略企画グループ リーダー 皿井全喜氏。授業は学研グループのフリースクール「WILL学園」のスタッフが対応した。

メタバース上での交流が
子供の自己肯定感を育む

富士ソフト
(左)木村哲也
(右)皿井全喜

 本事業に参加した不登校児童生徒の保護者を対象とした事後アンケートでは、65%の保護者が「子供に変化があった」と実感しているほか、81%の保護者がこの事業を評価したという。また、フリーコメントでは「学校に行っていないことに罪悪感を抱いているが、バーチャル空間があるときは出席扱いになるため(子供の)気持ちが楽になったようだ」「日課としてのスケジュールができたことで1日のリズムのメリハリがついた」といった好意的な声が寄せられた。中には事業終了後に、実際に学校に行き教員と話をした子供もいたという。FAMcampus上でほかの子供たちと交流し、自己肯定感を育んだことが良い方向に働いたといえる。

 富士ソフトではこうした不登校支援のノウハウを基に、学びの場所、カリキュラム、講師、不登校支援専門員といった不登校支援に欠かせない4要素をパッケージ化した「不登校支援パッケージ」を提供している。カリキュラムの運営は、小金井市と同様にWILL学園のスタッフが対応する。「不登校支援にメタバースの活用は有効ですが、空間だけを用意しても効果はありません。その空間を学校として運用するためのスタッフが不可欠です」と木村氏は指摘する。

 すでに多くの自治体からの引き合いがあり、2024年度以降に新規に導入予定の自治体も複数あるという。一方でこうしたメタバース空間は、参加する人数が少ないとその効果が十分に発揮できないと皿井氏は指摘する。そこで現在、複数自治体が広域連携し、メタバース空間を構築するような検討も進められており、今後さまざまな自治体で、メタバースを活用した不登校の子供たちへの支援が進んで行きそうだ。

さいたま市と東京都が取り組む
教育メタバースを活用した不登校支援

メタバース上の教育空間を活用した不登校支援は、すでに複数の自治体で始まっている。今回はその中からさいたま市と東京都の事例を取り上げ、現時点での活用の様子や、そこから見えてきた課題を紹介していこう。

メタバース上の学校が
オンライン授業を補完する

 さいたま市教育委員会では、2022年4月から新たに総合教育相談室に「不登校等児童生徒支援係」を設置し、「不登校等児童生徒支援センター(Growth)」(以下、Growth)を開設した。Growthは、不登校や病気などで学校を欠席している児童生徒に対して、GIGAスクール構想で配備された1人1台の学習者用端末を活用し、オンラインでの授業や学習支援などを行っている。

「小中学校における不登校の児童生徒数は増加の一途をたどっており、それはさいたま市も例外ではありません。2022年度の市内の小中学生の数は約10万人ですが、そのうち約2,000人が不登校になっており、深刻な問題と認識しています。一部の子供たちは教育支援センターやフリースクールといった学校以外の場所に通い、学びを継続できていますが、約700人の子供たちはそうした場所を利用できておらず、学びがストップしてしまっている状態です」と、Growth開設の背景を語るのは、さいたま市 教育委員会事務局学校教育部 総合教育相談室・不登校等児童生徒支援係 主任指導主事 大髙恭介氏。

 GrowthによるICTの学習支援で特に特長的といえるのが、メタバースを活用していることだ。富士ソフトが提供する「FAMcampus」と、NTTスマートコネクトが提供する「3D教育メタバース」の2種類の教育メタバースを利用している。

 日常的に活用しているのは2023年7月から利用をスタートしたFAMcampusだ。子供たちはFAMcampus上の学校(Growth)に登校すると、朝のホームルームをTeamsで行い、その後時間割に沿って授業を受けたり、個別学習をしたりと学びに取り組む。Growthは現在指導主事7名、専門職3名の合計10名で運営しているほか、大学生のボランティアスタッフ8名もサポートスタッフとして参加している。朝のホームルームではこれらのスタッフが音声やチャットで子供たちとコミュニケーションを取りながら、朝の挨拶や直近の出来事、今日は何の日? といった話題を基に会話していく。

 大髙氏は「子供たちへの授業やホームルームはTeams上で行いますが、そのほかの学校生活を送る場所はFAMcampusです。Teamsのようなオンライン会議ツールは、朝のホームルームや授業が終わると、そこでつながりが切れてしまいます。リアルな学校では当然ある休み時間のおしゃべりや、廊下で声をかけるような出会いはないため、人とのつながりを保つことが難しいのです。FAMcampusであればリアルの学校のようなコミュニケーションが取りやすく、従来のオンライン授業に不足していた要素を補完できます。もちろん、学習環境としてFAMcampusよりもTeamsだけの方が向いているという子供もいるため、子供が学びやすい環境を選択してもらっています」と語る。

Growthでは、毎朝Teamsを使ってホームルームを実施している。「今日は何の日?」といった話題を投げかけ、子供たちと音声やチャットでコミュニケーションを取りながら信頼関係を築く。

オンラインのつながりが
子供の自己肯定感を育てる

 日常的に使うメタバース環境として、FAMcampusを選択した理由の一つに、教育向けの管理のしやすさがあるという。多くのメタバース製品は企業向けに作られており、ユーザー間のチャットのやりとりの可視化などが難しい。「子供同士のトラブルを防ぐためには、会話のログがきちんと残せることが重要になります。またGIGAスクール構想で導入した学習者用のWindows端末でスムーズに動作する点も日常的に使う製品としては重要であり、そうしたポイントをクリアしたFAMcampusを日常的な学習環境として利用しています」とさいたま市 教育委員会事務局 学校教育部 主席指導主事 兼 不登校児童生徒支援係長 篠谷 瞳氏。

 Growth(メタバース上の学校)では、さまざまなコミュニケーションスペースが用意されている。4フロアに分かれており、1階が全体スペース、2階が小学部スペース、3階が中学部等スペース、4階が個別学習専用スペースだ。一斉学習用の教室や、個別学習用のオープンスペースのほか、話し合いスペース、職員室、廊下、掲示板などのコミュニケーションスペースが用意されている。Growthに通う子供たちは朝のホームルームを終えると、時間割に沿って一斉学習か個別学習かを選びながら学習を進められる。FAMcampusにはアバター同士を近付けるとお互いのカメラが起動し、コミュニケーションが取れる機能なども搭載されているため、廊下ですれ違って会話するようなリアルの学校と変わらないコミュニケーションが可能になっている。

 実際にメタバースを活用することによって、子供たちに変化はあったのだろうか。篠谷氏は「オンライン上で人とつながりながらコミュニケーションを取ることで、子供たちの自己肯定感が育まれていると感じます。積極性も出てきました。FAMcampusでは複数名が会話できるスペースを設定できるのですが、そうした環境でグループワークを行ったり、コミュニケーションを取ったりすることが子供たちの自信につながり、社会的自立に一歩近づく変化になると感じています」と語る。

 子供たちが発案したイベントをGrowth上で実施するケースもあるという。例えば昼食時に、Growthに集まって共に昼食を食べる「昼食会」が発案され、子供たちは毎週木曜日に自宅にいながらGrowth上で友達と会話して昼食を食べるというイベントが実施されるようになったという。「Teamsだけの支援では、基本的に大人と子供のやりとりが中心でした。しかし、メタバースを活用することで子供同士の関係が深まるようになりました」と大髙氏。またGrowthでは小学校1年生から中学校3年生までの子供たちが同じ場所に集まるため、年齢や性別を問わずにコミュニケーションを取るというような、リアルな学校ではなかなか見られないシーンもあるという。

3D教育メタバース上で実施された終業式の様子。立体的なメタバース空間は没入感が高いため、行事やイベントで活用されている。

2Dよりも没入感の髙い
3Dメタバースも活用

さいたま市教育委員会
(左)大髙恭介
(右)篠谷 瞳

 終業式などのイベント時には、NTTスマートコネクトが提供する「3D教育メタバース」を活用している。FAMcampusが平面的な2Dメタバースであるならば、3D教育メタバースはその名前の通り3Dの立体的なメタバースだ。3D教育メタバースは11月21日から利用をスタートしており、実際に終業式で活用された。「3D教育メタバースはリアルで臨場感が増す点がポイントです。終業式のほか、グループでのレクリエーションなどに活用されています。将来的には日常的に使うことも検討していますが、3DのためGIGAスクール構想で導入した端末では負荷が高く、生徒の環境によっては落ちてしまうケースもありました」と篠谷氏は課題を指摘する。

 これらのGrowthの環境を利用するには、保護者が専用のWebサイト上で申し込みをする必要がある。説明会が4月および5月に開催されるほか、オンライン上で説明会の動画が配信されており、保護者はその説明会を受けた上で申し込みを行う。利用申込書を児童生徒が通う学校に提出することで、学校を出席扱いにできるという。

 市内の不登校の児童生徒の内、Growthに申し込んでいるのは約320人(2023年度)。大髙氏は「申し込みがあっても実際に利用しない子供もいますので、全体で240〜250人くらいが参加しているイメージです」と語る。また、中にはメタバース上でのつながりに苦手意識を持つ子供もおり、そういった児童生徒に対してはTeamsのみでの支援を行っている。今後、こうした子供への支援をどのように手厚くしていくか、といった課題もある。

 Growthではメタバース上での学びはもちろん、リアルでの体験学習や交流授業も実施している。2022年度はプラネタリウム見学や日帰りのバター作り体験、芋掘り体験といった体験活動、Growthに通う子供たちによるオフ会なども実施した。リアルな体験を通して社会性を身に付けたり、感受性を豊かにしたりすることを目指している。また広島県や三重県の学校とオンラインの交流授業を行うなど、地域の枠を超えた学びも実施している。

「Growthは学校や家庭ではない第三の機関として、子供たちの居場所を提供します。保護者と馬が合わないとか、先生が怖いといった不安を感じる子供に対して、『大人って実は信頼できるのかも』『信頼してみよう』といった気持ちになれるように子供たちの支援を行っています。例えば、チャット上で少し言葉の使い方が荒い子がいると、学校ではそれを指導するでしょうが、Growthでは安心して過ごせることに重点をおいていますので、直接駄目だと指導するのではなく、『良くないことかも』と気付かせてあげるようなコミュニケーションを心がけています。もちろん、過激な発言をする子供に対しては、1対1の場を設けて指導することもあります。しかし実際には、他者と関わる中でその気持ちを推し量ることができるようになり、『こういう発言はやめようね』と子供たち自身が促すこともありますね」と篠谷氏は変化を語る。

 大髙氏は「学校の先生方にとって、不登校の子供たちの活躍の場面を見る機会は少ないですが、不登校の子供たちが持つエネルギーや能力は非常に高いと認識しています。私ももともと学校現場で教員をやっていましたが、その時はこうした子供たちの能力を十分に見ようとしてこなかったと感じます。不登校の子供たちが将来、能力を生かして社会で活躍できることは、全ての人にとってプラスになり得るでしょう。幸せを感じて生き生きと、仕事や生活を充実させて生涯を生きていけるよう、Growthではこれからも支援を続けていきます」と展望を語った。

東京都の8区市が参加する
3Dメタバース空間の学校

 全国的に不登校の児童生徒数が増加傾向にある中、東京都もその例外ではない。東京都教育委員会が行った「令和4年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」によると、小中学校における長期欠席者のうち、不登校の児童生徒数は小学校で1万695人、中学校で1万6,217人。前年度と比べると、小学校で2,756人、中学校で2,620人増加したという。不登校出現率は小学校1.78%、中学校6.85%であり、2021年度と比べ、小中学校ともに上昇している。

 こうした不登校者数の増加に対して、東京都では教育支援センターの新規設置や機能強化を図ることで不登校の子供たちの学びの確保を確保したり、スクールカウンセラーを全ての小中学校に配置したりといった支援を行ってきた。そうした支援の中で、2022年12月から行われてきたのが、メタバースを活用した児童生徒の支援「バーチャル・ラーニング・プラットフォーム」(VLP)だ。

 2022年度は新宿区と協定を結び、富士ソフトのFAMcampusをプラットフォームとして採用してデモ運用を行った。2023年度はこのデモ運用の成果を踏まえ、プラットフォームを充実させるとともに、参加自治体を新宿区、墨田区、渋谷区、中野区、杉並区、八王子市、狛江市、多摩市の8区市および、教育庁地域教育支援部生涯学習課所管の「学びのセーフティネット」(都内4カ所)を対象にしており、2023年9月22日から順次運用をスタートさせている。

 2022年度のデモ運用を踏まえて大きく変わったのは仮想空間だ。これまで2Dだったメタバースを3Dに変更している。本事業はJMCが事業プロモーターとして東京都と協定を締結しており、VLPの構築や運用の支援を行っている。メタバースの開発は大日本印刷とレノボ・ジャパンが手掛けた。

「2023年度の本事業ではメタバースが2Dから3Dに変化していますが、3Dは絶対条件ではありませんでした。GIGAスクール構想で導入された学習者用端末で動くことなど、いくつかの要件を満たせる環境として、今回採用したのが3Dメタバースでした。しかし、3Dになったことによって没入感が高まるというメリットがあり、アバター同士が近づくと相手の声が聞こえ、離れると声が遠ざかるといったリアルな環境の再現ができるようになり、非常に良い環境だと思います」と、東京都教育庁総務部 情報企画担当課長 江川 徹氏は語る。

東京都で活用されているVLPは3Dのメタバース空間だ。アバターは人間の姿のほか、動物なども用意されており、全員が象のアバターになって遊ぶようなレクリエーションも実施されている。

日本語教育が必要な生徒も
メタバース空間で支援する

東京都教育庁
江川 徹

 VLPには、教室スペース、学習スペース、おしゃべりスペース、展示スペースなどが備えられており、利用者である子供たちはそれぞれのスペースでコミュニケーションを取ったり、学習コンテンツを利用した学びを実施したりできる。江川氏は「現時点ではVLPは一斉授業に使っておらず、子供たちの特性に合わせた交流などに活用されていますが、例えば教室スペースでは、黒板の部分にTeamsやZoomなどのオンライン会議のリンクを貼れば、VLPを介してオンライン授業が行えます。また展示スペースにはPDFを貼り付けることで、作品を閲覧できるような利用が可能です」と語る。

 VLP上には自学自習用の学習コンテンツも用意されている。小学校1年生から中学校3年生までの5教科、教科書対応の自学自習用のWeb教材「デキタス」や、ブロックプログラミングからテキストコーディングまでを学習できるプログラミング教材「みんなでプログラミング」、小学校から高校までの5教科に対応したクラウド型AI教材「すらら」、日本語を体系的に学習できるICT教材「すらら にほんご」が用意されており、自身の学習状況に応じたコンテンツを活用できる。VLPの利用ユーザーは不登校の児童生徒に加え、日本語指導が必要な児童生徒も含まれており、すらら にほんごはそうした子供たちに対して有効な教材だ。

「運用方法は自治体によって異なりますが、一例を挙げると、不登校の子供たちが通っている教育支援センターとVLPを接続し、朝の会を合同で開催した事例がありました。不登校の子供たちは生活リズムが崩れているケースが多く、そうしたリズムを整えるために朝の挨拶で顔をきちんと合わせています。またVLP上で朝から晩まで学ぶのではなく、ここから先は自習にするなどして柔軟に学んでいます。日本語学習を行う生徒は、VLPの教室で日本語について1時間学んだ後、その内容をVLPにいるオンライン支援員に対して話してみるという学びの例もありました」と江川氏。VLPには、研修を受けたオンライン支援員が在席しており、メタバース内で子供たちに寄り添いながら学びを支援している。

 メタバースだからこそできるレクリエーションも実施している。VLPでは人間のアバターのほかに、動物のアバターなども選択できる。そこで、全員が象のアバターになって会話の末尾に「象」を付けて話すといった遊びや、全員が同じアバターにして操作しているユーザーが誰かを当てるゲームなど、メタバースならではの良さを生かしたレクリエーションを行っている。

 今後のVLPの展開について江川氏は「まずは本事業に参加する自治体を、さらに増やしていきたいですね。次年度の予算要求にもそれが盛り込まれており、2024年度は参加自治体が増える予定です。また、本事業は委託事業ではなく企業さまとの連携協定に基づき実施しています。だからこそ企業さまと共にこのメタバース空間をより良くしていくことを期待しています。例えば、参加しているユーザーが同時に書き込めるホワイトボード機能が、最近新たに追加されました。このような形で、企業さまの努力によってこのVLP環境がさらに魅力的になることを願っています」と展望を語った。