AI搭載の英語学習アプリを活用して
生徒の「発話力」の向上を目指す

今年で創立110周年を迎えた秋田県立横手城南高等学校は、横手市街を一望できる高台に位置する。もともと横手町立横手実科高等女学校として開校した同校は、1948年の学制改革で現在の校名となり、2008年には男女共学の学校となるなど、歴史と伝統を積み重ねながら変化を続けてきた。そんな同校で現在、新たな変化として活用が進められているのが、ICTツールだ。

英語教育で進むICT活用

 文部科学省は、2013年から公立小学校、中学校、高等学校などを対象に「英語教育実施状況調査」を実施している。2022年度の本調査では、ICT機器の活用割合が増加傾向にあり、「児童生徒による発話や発音などを録音・録画する活動」や「児童生徒がキーボード入力等で書く活動」において、全ての学校種で2021年度と比べ10ポイント以上の上昇が見られた。

 秋田県立横手城南高等学校(以下、横手城南高校)でも、ICTを活用した英語教育が実践されている。同校ではAI英語学習アプリ「ELSA Speak」を導入し、生徒の発話力の向上に役立てている。

 同校の英語教育について、教諭の佐々木瑞穂氏は「昨年度、1年生の英語教育で課題となったのが、発話力でした。教科書の音読や単語の練習などで、初めて見た単語を読めないというケースが頻発しており、単語学習の中で重要な『文字』『音声』『意味』の内の音声が抜け落ちた状態でした」と振り返る。もともと同校の英語教育では、1クラスを三つにレベル分けする少人数指導を採用していたが、人数が限られた中でも生徒一人ひとりの発音を毎時間確認することは困難だったという。

 そこで2023年5月に導入したのが、ELSA Speakだ。ELSA Speakは独自AIを活用した「発話矯正テクノロジー」により、「発音」「強勢アクセント」「イントネーション」「滑らかさ」を軸に発音のネイティブ度合いをリアルタイムに判定する。昨年度、佐々木氏と同様に1年生の英語を担当していた同校 教諭の柴田洋幸氏は「ELSA Speakの事業開発に携わる高橋一也氏が秋田県湯沢市の出身で、湯沢市のICT支援員としても働いていました。私も現在湯沢市に住んでおり、市役所に勤める知り合いを経由してコンタクトを取りました。今年の1月に本校に来ていただいて、導入の検討を進めました」と振り返る。

横手城南高校では1人1台端末にChromebookを導入している。AI英語学習アプリのELSA Speakは、Androidアプリから利用する生徒と、Webブラウザーからアクセスして利用する生徒の姿が見られた。

リスニング力の向上にも生かす

 ELSA Speakは現在、横手城南高校2年生の英語の授業で活用されている。取材した授業では、週末の過ごし方をプレゼンテーションソフト「Googleスライド」に英文でまとめ、その内容をグループ内で発表するといった学びが行われていた。ELSA Speakはその発表の前段階となる発話練習で活用された。生徒たちは自身が作成した英文をコピー&ペーストなどでELSA Speakに入力し、ELSA Speakによる発音を確かめてから自身が発話することで、発音のネイティブ度をチェックした。生徒たちはELSA Speakに表示されたフィードバックを基に発話を修正し、スムーズに英文を読み上げられるよう練習を重ねていた。

 授業の中では分からない単語を紙の辞書で調べる生徒や、Google翻訳を活用して英文を作る生徒の姿が見られた。佐々木氏はICTツールを活用した英文作成に対して「今回は最終的にプレゼンテーションができることを目標にしていたため、Google翻訳などのICTツールの使用を禁止しませんでした。伝えたい内容を言語化するヒントとして、ICTツールを活用することは問題ないと考えています。ただ、活動の目的が自分の力で正しい英文を作ることであれば、Google翻訳などは使わないよう伝えて活動させたでしょう」と語った。

 ELSA Speakの導入によって、昨年度(1年当時)と比較して音読にも慣れてきたという。「今年度の夏休みなどは、ELSA Speakで課題を配信し、生徒が継続的にアプリを使う仕掛け作りを行いました。コンテストのような形で単語やフレーズの発音の練習に取り組み、継続的に取り組んだ生徒や正答率の高かった生徒などを可視化できるようにしました」と柴田氏は振り返る。今後は、発話だけでなくリスニング力の向上にもELSA Speakを生かしていきたい、と柴田氏は続ける。

「リスニング問題にただマルバツを付けていくのではなく、自分で読める(発話できる)ようになったら聞けるものが増えた、といった実感につながることが大切だと考えています。その中では、ELSA Speak以外のほかのアプリも活用するなど、さらなる検討を進めていきたいですね」と柴田氏。

 秋田県では、2022年度から「デジタル教育 未来へRUNプロジェクト事業」を5カ年計画でスタートしており、2026年度までに普通科の高校の情報科目を改称し、デジタル情報科を新設する。横手城南高校では先んじて今年の冬に、1年生を対象にデジタル情報の授業を集中講座として実施し、来年度からはデジタル探究コースでより先進的な情報教育に取り組んでいくことを予定している。「秋田県にも熊が出るのですが、ドローンプログラミングによって田んぼのどの辺りに熊が出るのか、といった活用することで、デジタル人材の育成に取り組んでいきたいですね」と柴田氏は語った。

週末の過ごし方をGoogleスライドにまとめ、その発表内容をELSA Speakに入力して発話を録音すると、ELSA Speakが発音のネイティブ度を判定してくれる。生徒たちは判定結果を基に、繰り返し発話練習を重ねていた。授業の最後には実際にグループで発表を行い、週末の過ごし方を英語で伝えていた。