リコー、図表の読み取りに対応したLMMを開発

マルチモーダル大規模言語モデル

 リコーは6月10日、複雑な図表を含むドキュメントの読み取りに対応したマルチモーダル大規模言語モデル(LMM)の基本モデルを開発したと発表した。同社 リコーデジタルサービスビジネスユニットAIサービス事業本部 本部長 梅津良昭氏は、開発の背景をこう語る。「社内文書の活用は、業務効率化や新たな価値創出につながります。しかし日本の社内文書は、複雑なグラフや図表、フローチャートなどが多く含まれており、従来の大規模言語モデル(LLM)やRAGでは十分な読解が困難でした」

 今回発表されたモデルは、同規模のオープンソースモデルを上回る高い性能を有している。その理由は二つある。一つ目は人工データによる大規模な学習だ。モデルの開発に際してリコーは、学習用データの人工生成手法を確立した。文字、円グラフ、棒グラフ、フローチャートなどの視覚データを600万枚以上生成し、モデルの学習に用いている。

 二つ目はアーキテクチャの改良だ。本モデルは三層構造を採用する。第1層は図表を処理する「Vision Encoder」、第2層はその出力を後段のLLMが理解できる形式に変換する「Adapter」、第3層は図表情報と文字情報を統合処理するLLMだ。また、Vision EncoderとLLMには異なるオープンソースを採用している。本来、異なるオープンソースは直接の接続が困難だ。しかしAdapterに独自の工夫を施すことで、精度を維持したまま両者の連携を実現している。

 本モデルは、7月29日から開催される画像認識・理解の学会「MIRU2025」で論文として発表される予定となっている。さらにリコーが独自開発した、日本語の図表に特化したベンチマークツールと合わせて無償で公開するという。

個社別に最適化する技術も確立

 本記者説明会では基本モデルをチューニングし、各企業に合わせて制度を向上させる手法を確立したことも発表された。

 賛同を得た企業から提供された数百〜数千のデータをファインチューニングし、顧客固有の社内文書に対する理解度と精度の向上に成功した。損害保険ジャパンとの実証では、保険の引受規定が記載された図表などを含むマニュアルを学習データとして利用することで、基本モデルと比べて大幅な性能の向上が確認されたという。

 リコー リコーデジタルサービスビジネスユニットAIサービス事業本部 デジタル技術開発センター LMM開発室 室長 長谷川史裕氏は、今後の展望を次のように語った。「今回開発された成果の製品化を急ぎます。これにより、企業内に蓄積された膨大な文書が図表を含めて有効活用され、業績向上につながります。さらにターゲットとする図表の拡大や、連鎖的な思考に基づく複雑な推論、文書の自動生成など、技術の進化も進めます。LMMの利用シーンを広げることで、日本企業の競争力向上に貢献していきます」

SCM変革に向けたパナソニック コネクトの施策

物流ソリューション事業

 パナソニック コネクトは6月20日、日本のサプライチェーンマネジメント(SCM)の変革に向けた取り組みを発表した。同社は「現場から始める全体最適化」をコンセプトに、国内物流ソリューション事業を強化するという。

 労働力の不足や物流コストの上昇、社会の不安定化、環境問題への対応など、サプライチェーンを取り巻く環境は多くの課題に直面している。中でも物流業界は、経験則に頼った属人的な運用と、紙や手作業でデータをつながざるを得ない個別システムが乱立し、人へ過度に依存した業務が常態化してしまっている。

 こうした課題に対し、パナソニック コネクトは三つの強みで物流ソリューションを提供する。一つ目が「業務フローの標準化」だ。グローバルのベストプラクティスをソリューションとして提供していく。ベストプラクティスを基に業務の流れを統一するのだ。

 二つ目が「物流全体を横断するデータ基盤」だ。倉庫や輸配送、返品管理といった物流業務全体を横断的、包括的にサポートする物流ソリューション群を提供する。これらは同一の基盤上でシームレスに連携しているため、拠点内の配送状況や拠点間を含めた全体の可視化、配送実績データを基にした配送課題の分析などを可能にする。

 三つ目が「日本に合わせた導入ノウハウと実行体制」だ。グローバルのベストプラクティスをベースに、同社が日本で45年培ったノウハウを生かし、日本独自の商習慣や法規制に対応した機能を開発・提供する。提供に当たり、国内約700名のSCM専門チームがグローバルの知見を掛け合わせ、導入前から導入後までサポートする。

 パナソニック コネクト執行役員 シニア・ヴァイス・プレジデント 現場ソリューションカンパニープレジデント Blue Yonder Japan協業推進担当 奥村康彦氏は、本事業の強化に向けた意気込みを次にように語った。「倉庫や輸配送の現場デジタル化に取り組み、データをつなげることで、物流全体、ひいては製造や流通を含むサプライチェーン全体の最適化を目指します」