英語から音楽まで多様な学びで
広がるiPad活用

東京都国立市に位置する国立音楽大学附属中学校・高等学校は、地元住民から「音中音高」の愛称で親しまれる音楽学校だ。高等学校(以下、高校)は普通科と音楽科に分かれており、「自由・自主・自立」の教育理念の下、学びに取り組んでいる。同校では2022年度の入学生からiPadを学習者用端末として導入し、1人1台によるICT教育環境を整えている。音楽学校の教育の中に見えてきたICT活用の成果と課題を見ていこう。

音楽科の授業では、Piascoreを活用し、教員と生徒双方で同じ楽譜のPDFを閲覧しながら、ロンド形式について解説された。電子黒板で見づらい部分はホワイトボードに記述し、生徒はその内容をiPad上の楽譜PDFデータに書き込んだ。
夏休みの宿題で調べた音楽家とその楽曲について生徒自身が発表し、教員が重要なポイントを解説。ほかの生徒たちはiPadに手書きやソフトウェアキーボードでその内容を書きとめた。

問題集や楽譜閲覧もiPadで

 国立音楽大学附属中学校・高等学校では、2022年度から1人1台の学習者用端末としてiPadを選択し、学びに活用している。学習者用端末としてiPadを選択した理由について、同校の教諭を務める柳沼咲紀氏は「持ち運びがしやすく、手軽に使える端末であるのが選定のポイントでした。iPadの操作に慣れている生徒も多く、慣れていない生徒も、使わせればすぐに使いこなせるようになりました」と語る。学習者用端末の導入に先んじて、2021年度の夏ごろから教員向けに指導者用のiPadを導入して授業での活用を進めており、職員会議でのペーパーレス化なども進みつつある。

 授業シーンでは、特に授業支援アプリ「ロイロノート・スクール」(以下、ロイロノート)がよく活用されていると柳沼氏。「普通科の英語の授業では、生徒の答えをロイロノート上で比較したり、プレゼンさせたりといった活用をしています。課題の提出などもロイロノート上で行うことが多いですね。英語以外ですと、数学や科学の授業で問題集アプリを使っていると聞いています。学習者用デジタル教科書も活用しており、学習環境でのペーパーレス化も進んでいます」と英語を教える柳沼氏は語る。

 音楽科では、楽譜をPDFデータで閲覧・購入できるアプリ「Piascore」を活用し、教員と生徒双方が楽譜をデータで閲覧できる環境で授業を進めている。PiascoreからPDFデータをダウンロードしておくことで、教員は電子黒板で楽譜を表示しながら、生徒の手元でも同一の楽譜を閲覧できるようにしている。生徒たちはApple Pencilやサードパーティ製のタッチペンを活用し、教員の説明を聞きながら楽譜に学習内容を書き込んでいく。

 また、夏休みの課題として特定の音楽家や曲を調べてまとめ、それを授業の中で発表するといった学びもiPadで行っていた。教員は発表内容を基に重要なポイントを指摘し、発表の最後に調べた曲をクラシックを中心とした音楽配信サービス「ナクソス・ミュージック・ライブラリー」(NML)を活用してiPadから流すことで理解を深めていた。

普通教室にはプロジェクタータイプの電子黒板が設置されており、教員は教材を投映しながら授業を進めている。生徒は教員の説明を基に、iPad上の教材に書き込んでいく。英語の授業では、グループになってSVを意識しながら英文を読むシーンがあった。

学びに応じてツールを使い分け

 同校の学習環境のインフラとして採用されているのが、グーグルの教育向けクラウドサービス「Google for Education」だ。特に学習支援ツール「Google Classroom」を活用することが多く、課題配布や提出、掲示板(ストリーム)機能を活用してテスト範囲の連絡などを日常的に行っているという。

 学びのインフラとしてGoogle for Educationを活用している背景には、コロナ禍で実施されたオンライン授業がある。2020年4月、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う一斉休校に対応するため、国立音楽大学附属中学校・高等学校でも双方向型のオンライン授業を実施した。そこで選択されたツールが、グーグルのWeb会議ツール「Google Meet」(以下、Meet)だったのだ。「双方向型のオンライン授業は同年5月ごろからスタートし、コロナ禍でも学びを止めることなく授業を継続できました」と柳沼氏は振り返る。

 一方で、音楽科での双方向型のオンライン授業には課題もあったと言う。教員と生徒が双方向で演奏を行っても音の遅延などが発生するため、演奏を録音したデータを共有したり、MeetではなくiPhoneやiPadで使える通話アプリ「FaceTime」を活用したりと、授業シーンに応じてツールを使い分けたという。当時は学習者用端末のiPadが導入されていなかったため、生徒は自身のスマートフォンや、家庭のPCなどを活用してオンライン授業に臨んだ。

 当時のオンライン授業を振り返って柳沼氏は「2020年度は緊急事態宣言のたびにオンライン授業に切り替えていましたので、非常に実施頻度が多かったです。日常的な授業では問題ありませんでしたが、1学年分の生徒を対象に授業を実施した際には、100名以上が同時にアクセスしたせいか、ちょっと接続が安定しませんでしたね。音楽科の授業では、音取りなどをオンライン上で行うことは難しかったようですが、Google Classroom上で課題を出して、生徒が書き込んだ楽譜を教員が添削するような学びは頻繁に行われていました」と語る。

 また、学校説明会のICT化も進んだ。2020〜2022年度はオンライン学校説明会が実施されたが、2023年度は全て対面での実施となった。「説明会や個別相談会などは、相手の反応が見て分かる分、対面の方がスムーズに行えますね。ただその中でも、教員は常にiPadを所持しており、必要な資料があればデータを表示してすぐに案内ができるようにしています。職員会議と同様に、こういったシーンでもペーパーレス化は確実に進んでいますね。チャットツールである『Google Chat』も活用しており、教員間の連絡も取りやすくなりました」と柳沼氏。

 一方で、課題もある。教員によってはiPadの活用頻度が低く、授業ごとにICT活用の差が生まれているという。「2022年度から整備しているiPadですが、来年(2024年)度には中学校から高校まで、全ての学年でiPadが整備されますので、今後はさらにiPadの使用率を高めていきたいですね」と柳沼氏は語った。