非常時における県と各市町の連携を強化
「災害対応ホットライン」

近年、大地震や大型台風、ゲリラ豪雨などの自然災害が頻発している。自治体では、災害発生時に備えて、警察・消防・医療といった関係機関との連携に加え、人的・物的支援を要請するための自治体間の連携が重要視されている。これを受け、自治体で取り入れられているのが、被災した自治体に対して、パートナーとなる特定の自治体を割り当て、各種の支援を重点的かつ継続的に行う「カウンターパート方式」だ。そんなカウンターパート方式を採用する愛媛県では、県と各市町とのやりとりにワークスモバイルジャパンの「LINE WORKS」を活用し、災害時の体制強化を図っている。その取り組みを取材した。

愛媛県

人口約129万3,000人(2023年8月1日時点)、四国地方の北西側に位置する県。日本一細長い半島である「佐田岬半島」を境に「瀬戸内海」と「宇和海」の二つの海に面している。瀬戸内海・宇和海には200余りの島々があり、入り組んだ海岸線は約1,700kmで全国5番目の長さを誇る。宇和海南部ではサンゴも見られる。かんきつ類の収穫量、品種数、産出額など多くの要素で全国トップクラスとなっている。

災害時の対応をさらに強化

 庁内の情報共有、非常時の安否確認や災害情報の連携、市民の相談窓口などのさまざまな用途にチャットツールを活用する自治体が増えている。中でも多くの自治体で導入が進んでいるチャットツールの一つが、ワークスモバイルジャパンが提供する「LINE WORKS」である。チャットやスタンプ、掲示板、カレンダー、アドレス帳、アンケートといったグループウェア機能を豊富に備えているのが特長だ。業務連絡をはじめとする情報共有としての活用はもちろんのこと、災害発生時における初動対応の迅速化やコロナ禍での遠隔医療体制を実現するコミュニケーションインフラとして災害対策などにも役立てられる。そんなLINE WORKSを活用して災害対策に取り組むのが、愛媛県だ。

 愛媛県は、2021年1月、デジタル技術の活用による効率的な行政事務の確立を通じて県民サービスの向上と地域の活性化を図ることを目指し、ワークスモバイルジャパンおよびLINEと包括連携協定を締結している。連携事項は、以下の六つが挙げられている。


(1)県税の事務手続に関すること
(2)防災に関すること
(3)SNS相談に関すること
(4)行政事務の効率化および生産性向上に関すること
(5)相互交流促進に関すること
(6)その他デジタル技術を活用した県民の利便性向上などに関すること


 この連携事項を基に、愛媛県ではLINE WORKSを活用した取り組みを行っている。それが、災害時の対応強化に向けた「チーム愛媛 市町職員災害対応ホットライン」(以下、災害対応ホットライン)の構築である。

相互支援体制を強化

 愛媛県が災害対応ホットラインを構築するきっかけとなったのが、2018年7月に西日本を襲った記録的な豪雨だ。「愛媛県では西日本豪雨災害をきっかけに、平時から被災市町に応じて、あらかじめ支援する一次支援の市および二次支援の市町を割り当てる『カウンターパート』を構築しました。被災市町が支援を要請する際、一次支援の市に連絡を行うのですが、災害対応ホットラインを導入する以前は、電話やメールなどで連絡することになっていました。大規模地震では電話回線などの有線の通信網が寸断することも考えられるため、いざという時に連絡できないことが危惧されていました」と愛媛県 総務部 総務管理局 市町振興課の担当者は説明する。

 電話やメールに代わる適切な連絡手段を模索している中で見つけ出したのが、LINE WORKSだったという。「愛媛県がワークスモバイルジャパンおよびLINEと包括連携協定を締結することを知り、災害時の市町・県の連絡ツールとしてLINE WORKSを利用することを提案しました。そして2021年2月にLINE WORKSのグループトークルームを基盤とする連絡体制である災害対応ホットラインを開設しました」(愛媛県 総務部 総務管理局 市町振興課 担当者)

 災害対応ホットラインは、A・B・CからなるカウンターパートグループをそのままLINE WORKSのグループに振り分けて、各グループの被災市町、一次支援市、二次支援市町がトークで素早く情報を共有できる連絡手段として機能するものだ。グループの主な構成メンバーは、首長の判断を踏まえて迅速な対応ができる各市町の副市町長と防災・人事担当者となっており、県災害対策本部の防災局や市町振興課の担当者などもそれぞれのグループに所属することで、非常時のやりとりの内容を複数人でリアルタイムに把握できるようにしている。「LINE WORKSは、口頭で伝える電話と異なり、発信された内容をテキストとして残し、複数人で同時に情報を共有することが可能です。既読機能が搭載されているため、閲覧の可否で相手に情報が届いているかどうかの確認もリアルタイムに行えます。災害時の連絡手段として非常に役立つツールです」とワークスモバイルジャパンの担当者は話す。

災害対策の質を高められる

 災害対応ホットラインの導入効果について愛媛県 総務部 総務管理局 市町振興課の担当者は次のように語る。「幸いなことに災害対応ホットラインの導入後、大きな災害は発生しておらず、実際に本番利用に活用したことはありません。しかし、日頃から、線状降水帯の発生予測情報などが発表された際には伝達手段としても活用し、対応に万全を期すよう注意喚起をしています。災害時の市町・県のやりとりがホットライン上に集約され、その全ての情報を関係者に直ちに共有できるので、県や一次支援市がグループ内への連絡業務に時間を費やすことがなくなる分、災害対策の質を高められるのではないかと考えています」

 今後は、非常時にこの仕組みが機能するように、防災訓練の一環として、LINE WORKSのトークグループ内で支援要請をするなどのトレーニングを行い、連携体制の強化を図っていく。さらに、ビデオ通話の機能を活用し、被災した市町が一次支援市や二次支援市町の担当者に被害の状況を映像で示しながら支援を要請するといったさらなる活用の仕方も検討しているという。