名護市と名護スマートシティ推進協議会の
“響鳴都市”実現に向けた取り組み

2023年5月、沖縄県名護市と名護スマートシティ推進協議会は「スマートシティ名護モデル」の実現に向けて包括連携協定を締結したことを発表した。スマートシティ名護モデルとはどのような構想なのか、包括連携協定はどのような内容なのか、名護市の取り組みを取材した。

沖縄県名護市

人口約6万4,000人(2023年7月31日時点)、沖縄本島北部に位置する中核都市。東海岸と西海岸に囲まれ、「名護岳」や「多野岳」「嘉津宇岳」など、多くの山々が連なる自然豊かな土地。「名護城」をはじめとする史跡、御嶽・拝所や豊年祭といった祭事、国指定重要文化財「津嘉山酒造所」など歴史・文化資源も魅力の一つとして知られる。
写真提供:名護市

互いの力を最大に引き出す施策

 沖縄本島北部に位置する名護市。少子高齢化や人口の減少、交通インフラの整備といったさまざまな課題を抱えており、それらを解決するべく、スマートシティの実現を目指す都市だ。そんな名護市のスマートシティ推進事業を支援するため、2023年1月に発足されたのが、名護スマートシティ推進協議会である。

 名護スマートシティ推進協議会には、ゆがふホールディングス、アマゾン ウェブ サービス ジャパン、シスコシステムズ、デンソー、西日本電信電話、JTB沖縄、KPMGコンサルティングの7社が参画しており、名護市と共にスマートシティ関連事業の推進に向けた取り組みを行っている。また、同団体は「名護スマートシティコンソーシアム」という会員制のコンソーシアムを設置し、健康・福祉、子育てといった課題ごとにワーキンググループ(WG)を立ち上げるとともに産学官からメンバーを募集して課題解決方策の検討や実証事業の推進を図っている。各WGは市の原課と連携を取りながら活動を進めていく。名護スマートシティコンソーシアムは希望する企業が参加できるようなオープンな組織として運営する方針で、県内外からの参加企業および団体を広く募集し、今年度中に会員数110社程度を目指していくという。

 名護市が目指すスマートシティの姿について、名護スマートシティ推進協議会で代表理事を務める林 優子氏はこう説明する。「2023年4月に、名護市におけるスマートシティ推進の基本計画となる『スマートシティ名護モデル』マスタープランが公開されました。その中で、名護市の目指す姿の基本理念として、『”響鳴都市”名護』が定義されています。人や企業、まちの歴史と未来、最新技術と自然などのあらゆる地域資源が、『もっと輝く名護市を創る』という思いを持ち、それぞれの力を発揮(音を奏で)、互いに響鳴させ(ハーモニーを生み出す)その力を最大に引き出す新しいまちという意味が込められています。名護市と名護スマートシティ推進協議会は響鳴都市の実現を目指し、取り組みを進めていきます」

地域課題を「自分事」として捉える

 名護市と名護スマートシティ推進協議会は、2023年5月に包括連携協定を締結したことを皮切りに本格的に活動を開始し、名護市をフィールドとした先行実証事業を進めている。この取り組みに関する事業規模や実証エリア、参画組織数などを拡大し発展させていくことで、2025〜2026年度を目標に、多様なプレイヤーが地域課題や社会課題の解決を推進するスマートシティ名護モデルの確立を目指していく。

「名護市の地域課題を『自分事』として捉える産学官/地元・外部のプレイヤーと連携したまちづくりの推進、名護市および沖縄県北部地域における市民の声を基に行うデジタル活用施策、地域の大学をはじめとする学生と企業とのエコシステムの中で未来の名護の発展を担う地域人材の育成といった三つの基本方針で響鳴都市への実現を進めていきます」(林氏)

 名護市と名護スマートシティ推進協議会との包括連携協定の連携事項は次の七つだ。

1.名護市におけるスマートシティ事業の推進及び沖縄県北部地域における関連事業との連携に関する事項
2.地域住民とデジタル技術が融合できる環境の創出・提供に関する事項
3.スマートシティ事業の推進に資する地域企業・人材の育成に関する事項
4.スマートシティ名護モデルの考え方への理解促進・普及浸透に関する事項
5.官民連携を推進する計画策定及び実証実験、実装推進に関する事項
6.社会課題の解決に向けた官民連携による協働に関する事項
7.その他本協定の目的達成のため甲乙間で合意する事項

 この連携事項を基に産学官連携や先端技術を効果的に活用していくことで、課題解決やまちの魅力向上につなげ、名護市におけるスマートシティ事業を推進していく。

産学官連携でまちづくり

 名護スマートシティコンソーシアムでの取り組みも動き始めている。名護スマートシティ推進協議会の担当者は次のように説明する。「現在、計画の段階となりますが、観光や交通のWGに関する実証を進めていく予定です。例えば、観光分野では名護市を訪れる観光客の半数が日帰りであるなど、素通り観光の進行が課題として挙げられています。また、交通分野では車移動が主となっており、運転免許を保有していない高齢者や学生は移動の際に不便を強いられることがあり、移動手段の利便性向上が求められます。こうした課題を企業、学術機関、行政の産学官連携で洗い出しを行い、実証へと進めていく予定です。名護市および沖縄県北部地域における課題はたくさんありますので、さまざまな施策に注力していきます」

 最後に林氏は「名護市が持つ課題に対して、市民や学生からのリアルな声を抽出し、企業、学術機関、行政が連携して解決に向けて取り組みを行うというスマートシティ名護モデルは、全国の課題を抱える地方都市にとってもモデルケースになると考えています。名護スマートシティ推進協議会の活動は始まったばかりですが、産学官連携で作り上げていく名護市との取り組みに注目していただきたいです」と意気込みを語った。