作業者の働き方改革とCO2削減に貢献
廃棄物収集業務の効率化に向けた実証

環境省が全国の市町村および特別地方公共団体(1,741市区町村および551一部事務組合)に対して実施した「一般廃棄物処理事業実態調査(令和3年度)」によると、2021年度の全国の廃棄物総排出量は4,095万トンだった。昨今では、道路や個人の所有する空き地などに廃棄物を捨てる不法投棄が後を絶たず、撤去作業に追われる自治体も多い。こうした状況を踏まえ、廃棄物収集業務をデジタル技術によって効率化するニーズが高まっている。今回は、小田急電鉄と共に「廃棄物収集業務のDX化に関する実証実験」を行う神奈川県相模原市を取り上げる。

神奈川県相模原市

写真提供:ⓒ小田急電鉄

人口約72万5,000人(2023年9月1日時点)、首都圏南西部、神奈川県の北部に位置する政令指定都市。市の真ん中には「相模川」が流れ、東側には「相模原台地」、西側には「丹沢山地」「秩父山地」が広がっている。ベッドタウンとして発展してきた都市部と自然豊かな山間部を有する都市と自然が“ベストミックス”した街。

後を絶たない不法投棄

 業務のデジタル化の波は、廃棄物処理の分野にも押し寄せている。昨今では、廃棄物収集業務のデジタル化に向けて実証実験を行う自治体も増えてきた。そうした都市の一つとして、廃棄物収集業務の効率化や作業者の働き方改革推進に向けた取り組みを行うのが神奈川県相模原市である。相模原市では、2023年6月19日から小田急電鉄と共に津久井地域を対象とした「廃棄物収集業務のDX化に関する実証実験」を実施している。

 取り組みの背景を相模原市の担当者は次のように説明する。「廃棄物収集業務に関して、収集状況の管理・収集作業の効率化・作業者の働き方改革・収集車両のCO2排出削減といったさまざまな課題を抱えており、ICTを活用した各種効率化に取り組む必要があると考えていました」

写真提供:ⓒ小田急電鉄
WOOMSの利用イメージ。画面設計はとても分かりやすく、スマホを操作する感覚で使用できる。

 また、同市では土壌汚染を引き起こす要因となる不法投棄についても深刻な問題を抱えていた。「今回の実証実験の対象となる津久井地域は、多くの市民が居住する平野部と人口が少なく住居も分散する山間エリアを有しています。山間エリアは、山林などの人目に付かない場所も多く、家電製品や産業廃棄物の不法投棄が後を絶たない現状があります。不法投棄は、一般的な家庭ごみと異なり、いつ・どこで発生するか分かりません。当市では監視カメラの設置や定期巡回パトロールをすることで状況を把握し、紙地図へ位置情報をまとめ、マンパワーでルートを作成して収集車を走行させていましたが、作業員の負担となっていました。そうした中で、小田急線の沿線自治体として鉄道事業や不動産業においてつながりのあった小田急電鉄さまから、同社が展開している廃棄物収集業務を効率化する『WOOMS』というシステムを紹介いただき、実証実験の実施に至りました」(相模原市 担当者)

廃棄物収集業務を効率化

 小田急電鉄が展開するWOOMSは、廃棄物収集業務全般の効率化とともに廃棄物の資源化などの環境負荷の低減に加え、働き方改革に向けた取り組みのための余力創出に貢献する。軸となるシステムとして、収集サポートを行う「WOOMS App」と管理サポートを行う「WOOMS Portal」の二つがある。

 WOOMS Appは、作業者の収集業務をサポートするさまざまな機能を備えたシステムだ。「iPhoneやiPadを収集車に搭載し、作業者は専用アプリケーションでデジタル化された地図を見ながら集積場所を確認して収集を行います。各集積場所の収集が完了したことをGPSの情報により自動で検知することで、取り漏れ防止の一助となります。また、収集状況を作業者同士で共有して支援を要請できる機能、運転速度や走行軌跡などの運転情報を管理する機能、収集量を管理する機能などを備えており、作業者の負担軽減に貢献します。また、不法投棄や道路の異常を関係部署へ通報する機能も有しており、情報伝達にも活用されています」と小田急電鉄の担当者は説明する。

 WOOMS Portalは、Web上の専用ページで収集情報を一元管理できるシステムだ。複数の収集車のルートや廃棄物の収集量、運行時間などの情報をリアルタイムに把握するとともに、集めたデータの分析によりルートや積載量の最適化を図り、収集業務の効率化や住民サービスの向上につなげられる。「WOOMS Portalによって、収集車両のルート変更や応援調整などがすぐに判断でき、PC1台で全ての収集車両のマネジメントが行えるようになります。事務作業においても、蓄積されるデータを活用し、月報などの帳票類をシステムで作成できます」(小田急電鉄 担当者)

CO2排出量の削減にも期待

 実証実験では、WOOMSを活用し、廃棄物の収集状況の管理・見える化・収集作業の効率化などを検証する。さらに人目に付きにくい山林での不法投棄の状況をデジタル化することで、監視強化や業務効率化につなげる。本実証によって、期待する効果は次の通りだ。

一般的な廃棄物
・排出される廃棄物の量や収集車の走行の傾向をデータとして蓄積。これを基に最適なルートを作成し、そのルートで収集することで、走行距離を短縮してCO2排出量を削減。
・各収集車の現在地と収集の進捗状況を収集担当者全員がリアルタイムで把握し、臨機応変にフォローし合うことによる作業時間短縮と、働き方改革の実現および走行距離短縮によるCO2排出量の削減。
不法投棄された廃棄物
・不法投棄の情報収集作業を、タブレットによる現場の撮影のみで実現し、業務効率化を図る。
・不法投棄収集において最適化された走行ルートで収集することによるCO2排出量の削減。
全体
・各種報告書の作成を自動化することによる事務作業の負担軽減。
・書類のペーパーレス化による環境負荷低減。
・多様化する市民生活に対応した柔軟なごみ出しによる市民サービス向上。

 実証実験の実施期間は2023年6月19日から2024年3月31日までを予定している。「実証実験を通じて、作業者の廃棄物収集業務の効率化や不法投棄への対応だけではなく、収集車の走行距離短縮によるCO2排出量の削減など美しい自然環境の維持にも貢献していきたいと考えています」(相模原市 担当者)