データサイエンス教育が磨く
データ活用とプレゼンのスキル

1963年4月に開校した宮城県仙台第三高等学校は今年で60周年を迎える。 宮城県内初の理数科設置校であり、また2010年度から第一期スーパーサイエンスハイスクール (SSH) 指定校として、科学的探究力の育成に取り組んできた。 その活動は現在も継続しており、2022年度からは第三期の 活動として理数科と普通科の特性に合わせた生徒の科学的 な探究活動を“深化” させている。 そうした学びのインフラと して、現在同校で活用されているのが Chromebookだ。

BYADでChromebookを運用

 宮城県仙台第三高等学校(以下、仙台第三高校)が1人1台端末導入に取り組み始めたのは2020年のこと。現在の3年生(取材時点)が1年生の時に整備をスタートした。当時は1学年分のChromebookを400台レンタルし、生徒に貸与する形で運用していたが、現在の2年生からは学校側が指定した機種を生徒の家庭が購入して学習に活用するBYAD(Bring Your Assigned Device)スタイルで運用している。2023年度からは全学年で、BYADスタイルでの端末運用が実施される予定だ。

 「もともとSSH指定校として課題解決型授業を研究する中で『Microsoft PowerPoint』を活用し、ポスターやスライド資料を作成するような活動をしていました」と仙台三高教頭の佐藤勝義氏は語る。それに加え、宮城県では、2020年度から全生徒に「Google Workspace for Education」のGoogleアカウントを付与したため、Googleのアプリケーションを全校で活用できる環境となり、そのライセンスとこれまでの資産を最大限に生かせるということがChromebookを採用した大きな理由である。そして、Googleのアプリケーションの特長である「共同編集」機能を活用し、探究活動だけでなく授業でも「Googleスライド」で全生徒がスライドやポスターを作成し、プレゼンテーションする能力を育成できている。また、Chromebookの中でもタッチペンが付属している機種を選択したため、「Google Jamboard」で数学の解答を手書きするといった、多彩な活用を行っている。

 現在2年生では「ASUS Chromebook Detachable CM3」を、1年生では「Dynabook Chromebook C1」を活用しており、どちらもノートPCスタイルで運用しながら、タブレット形状にもできるモデルだ。付属のタッチペンで画面に手書きすることも可能だ。

データサイエンスで身に付く力

 これらのChromebookは、授業の中で積極的に活用されている。例えば物理基礎の授業では、さまざまな実験をしながら、計測し得られたデータを、直接Chromebook上の「Googleスプレッドシート」に入力し、グラフとしてアウトプットしたり、韓国の高校生と普通科の生徒たちが探究活動の内容をお互いに話し合ったり、意見交換したりした。日本史Bの授業では、奈良時代の年齢や性別などの情報をスプレッドシートに整理し、年齢分布をグラフで可視化するなどしながら、独自の視点で分析・発表するといった探究的な学習活動に積極的に取り組んでいる。「基本的に、どの授業も紙での代替が可能ですが、Chromebookを活用することでこれらの話し合いや分析を、より一歩先に進めることができます」と佐藤氏。

 同校ではデータサイエンス教育にも取り組んでいる。情報関連科目として、新たに「SSデータサイエンス」を学校設定科目に指定し、データの活用の仕方について授業を通して学んでいる。授業では数学科の教員1名、情報科の教員1名の2名で1クラスを指導する。

 仙台第三高校の主幹教諭 佐光克己氏は「データサイエンスの授業の中では、例えば複数の農家が育てる作物の重さに関するデータから、数学で習った標準偏差や分散の知識を使ってそのデータを分析し、どの農家と契約するのが最も適切なのかという結論を、研究的な学びの中から導き出したり、清涼飲料水メーカーがWeb上で公開している売り上げに関するデータと、気象庁の気象データを用いて散布図を作り、その傾向をスプレッドシートで分析したりする活動を通して、データを活用できる資質や能力を授業の中で身に付けていきます」と語る。2022年度からスタートした総合的な探究の時間(探究活動)の中でも、相手を説得するための根拠をしっかり述べられるように、データサイエンスの学びの中で訓練を進めていくという。

データサイエンスの学びの中では、スプレッドシートやスライドを活用し、データ分析やプレゼンを行う。学年によって使用するChromebookの機種が異なるが、どちらもタブレット形状でもノートPC形状でも使用できる端末だ。

教員も学び合う“ちょこ研”

 同校の中でChromebook活用を浸透させていくために、教員同士による研修も積極的に行われている。とはいえ、集合型の研修を定期的に実施しているわけではないのがポイントだ。「Chromebookを導入したころに、ちょっとした時間に先生たちが集まって、楽しみながらChromebookの使い方を教え合う“ちょこ研”(ちょこっと研修)が始まりました。30分くらいの時間で、校内の先生同士でお薦めのアプリや、その使い方などを紹介していくようなスタイルです。勤務時間内に、無理のない範囲で先生方に参加してもらっていますが、こうした小さな教え合いによって、教員の間でChromebookの日常的な活用が広がっていますね」と佐藤氏。

 Chromebookを学びで使うことによって「生徒に考えさせる授業が増えた」と佐光氏は話す。「コロナ禍により、海外の高校生や留学生などと実際に会って交流する機会は減りましたが、その分オンラインで海外の学校と交流する機会が増えました。本校生徒と、台湾や韓国の高校生、マラヤ大学の学生とのオンラインによる交流により、本学生徒のコミュニケーションスキルはここ数年で飛躍的に向上しています」と、ICTを活用するメリットを語った。

 今後の仙台第三高校の取り組みについて、佐藤氏は「一つ目に、日本全国や世界の高校生とのつながりを作っていきたい。二つ目に、これまで校内で蓄積してきたポスターやスライドのデータをクラウド上で公開し、世界中からフィードバックをいただくことで探究活動に生かしていきたい。現在は外部からの意見をもらうのは、教員が主導して設定していますが、こうしたチャンスを生徒自らが開拓できるように、取り組みを強化していきたいですね」と語った。