買い物支援の新たなモデル構築を目指す
無人自動走行ロボットの実証実験

人手不足が深刻化するラストワンマイル配送の課題解決や配送の効率化を実現する手段として、無人自動走行ロボットの活用に期待が高まっている。昨今では、少子高齢化により食料品や日常品などの買い出しが困難になる「買い物弱者」と呼ばれる層が増加傾向にあり、そうした人たちの足としての役割も担う。今回は、需要の高まる無人自動走行ロボットを活用した実証実験に取り組む千葉県千葉市を取材した。

サービスロボットのニーズ高まる

千葉県千葉市
人口97万8,801人(2022年10月1日時点)を有する政令指定都市(中央区・花見川区・稲毛区・若葉区・緑区・美浜区の6区で構成)。千葉県のほぼ中央部にある県庁所在地であり、県内交通の要衝となっている。その一方で、総延長約42kmに及ぶ海岸線や13本の河川を擁するなど、大都市でありながら緑と水辺に恵まれている。

 産業の国際競争力の強化や国際的な経済活動の拠点の形成を促進し、規制改革やそのほかの施策を総合的かつ集中的に推進するために国が指定した区域を「国家戦略特別区域」と呼ぶ。千葉市では、近未来技術を活用し、多様な分野における新産業の創出により国際競争力の強化に資する「未来都市実証特区」を掲げており、2016年1月に国家戦略特別区域に指定された。

 国家戦略特別区域への指定から約6年の間、市内全域にわたり民間企業と連携してさまざまな規制改革に力を注いできたという。無人自動走行ロボットの活用もその一つである。「先駆的な取り組みを推進する中で、経済産業省が設置した『自動走行ロボットを活用した配送の実現に向けた官民協議会』に参画し、無人自動走行ロボットの社会実装にも関心を寄せてきました。さらに新型コロナウイルス感染症が拡大し、それに伴う非対面・非接触によるサービスのニーズが増加したことを踏まえ、市内でのサービスロボットの実用化に向けた取り組みに着手することになりました」(千葉市役所 総合政策局 未来都市戦略部 国家戦略特区推進課 有村奈央氏)

 無人自動走行ロボットの取り組みは、京セラコミュニケーションシステム(以下、KCCS)と共同で行っている。そのきっかけについて、有村氏は次のように話す。「2021年2月に、幕張新都心における移動ニーズへの対応や移動と各種サービスの一体的・効率的な提供を目指し、モビリティに関わる多様な主体の積極的な参画および産官学の連携を促すため、『幕張新都心モビリティコンソーシアム』(2022年10月1日時点で58団体)を設立しました。KCCSさまには会員だけではなく、コンソーシアム内に設置したサービスロボットWGリーダー(2021年度時点)として、主導的な役割を担っていただいています。そうした中で、KCCSさまから無人自動走行ロボットを活用したサービスに関するプロジェクト提案を受け、コンソーシアムの取り組みの一環として千葉市も連携し、地域特性の把握や社会受容性の向上を目指すことになりました」

買い物で発生する負担を軽減

2022年3月に実施した商品配送サービスの実証実験の様子。

 千葉市での無人自動走行ロボットを活用した実証実験は、必要なものやサービスを必要とする人の元へ届けるという活用可能性調査と、技術検証を行うという目的のもと、

・ 2022年3月「商品配送サービス」の実証
・ 2022年7~8月「移動販売サービス」の実証

の2度にわたって実施された。2022年3月に実施した商品配送サービスの実証は、利用者が店舗で購入した商品をロッカーが搭載された無人自動走行ロボットに積み込み、あらかじめ設定された時間・ルートでエリア内にあるマンションの前まで配送するというもの。荷物を受け取る際にはロボットに搭載されたタッチパネルを操作し、ロッカーを開錠すれば簡単に荷物を受け取れる。重量物を持ち運ぶことなく、公園や近隣店舗に立ち寄りながら帰宅できるようになるなど利用者の負担軽減につながった。

 2022年7~8月に実施した移動販売サービスの実証は、飲料や菓子類を積み込んだ無人自動走行ロボットが走行コース上を巡回するというもの。ロボットは、あらかじめ設定した場所(近隣の公園、マンションやサービス付き高齢者向け住宅)に一定時間駐車し、商品を販売。利用者は、ロボットに搭載されたタッチパネルでの操作によって、非接触・非対面で商品を購入できる。

 実証実験で利用された無人自動走行ロボットは、ミニカー(幅1.3×長さ2.5×高さ2.0m以下)に準じた大きさで、最高速度は15km/h。無人での自動走行となるが、走行状況を常時遠隔監視し、自動回避が困難な場合は近接または遠隔操作に切り替えて走行することで、安全性を確保している。無人自動走行ロボットによる公道(車道)実証のための許可については、関東運輸局から車両の自動走行や近接・遠隔監視での運転操作が可能となるように保安基準緩和認定を受け、千葉県警察から無人自動走行ロボットの公道(車道)実証実験に関する「道路使用許可」を取得している。

無人自動走行ロボットの実用化に期待

 利用者から届いた声を通して、無人自動走行ロボットの有用性も実感できたという。「歩行者や自動車などが混在する都市部特有の環境下での技術検証を行うとともに、利用者や参加店舗へのアンケートを通じてサービス需要を確認しました。商品配送サービスの実証では、主な利用者は50代以上で、利用目的は重い荷物を運ぶために活用したという回答が多くありました。また、利用者のサービス満足度は、約80%が肯定的な回答でした。移動販売サービスの実証では、主な利用者は30~40代のファミリー層で、多くの人が集う休日を中心に利用されました」(有村氏)

 これらの実証実験で得た実績をもとに、千葉市では、さらに無人自動走行ロボットを活用した取り組みを進めていく方針だ。「さまざまなシーンにおいて、無人自動走行ロボットの活用が期待されていることから、引き続き市内の活用ニーズの把握や、地域課題解決に資するユースケースの創出に取り組みます。社会全体として人手不足の深刻化が懸念される中、無人自動走行ロボットの利用や実用化が進展することで、各業務の省力化・効率化が図られるとともに、人々の生活に新たな価値が生み出されるような街づくりにつながることを期待しています」(有村氏)