個人デバイスや企業オンプレ・クラウドにまで
あらゆる領域にAIを浸透させるレノボのAI戦略

レノボ・ジャパンは2月17日に年次イベント「Lenovo Tech World Japan 2026」を開催した。同社は「Smarter AI for All」というビジョンを掲げ、AIの恩恵をあらゆる企業や組織、そして個人へ広く提供していくことをミッションとしている。本記事では、イベントに先駆けて行われたメディア向け説明会を基に、レノボ・ジャパンのAI戦略について解説する。

複数のデバイスにまたがって動作する
個人向けAIエージェント

 最初に登壇したレノボ アジア太平洋地域プレジデントのアマール・バブ氏は、「レノボグループでは180以上の市場で事業を展開し、約7万2,000人の従業員を有しています。さらに10カ国に30以上の製造拠点を設置しており、まもなく11カ国目としてサウジアラビアが追加される予定です」と述べ、レノボが世界規模で事業を展開する大企業であることを強調した。

レノボ
アジア太平洋地域プレジデント
アマール・バブ

 その中でも日本市場は、レノボにとってアジア太平洋地域で最大の市場であり、世界全体でも北米、中国に次ぐ第3位の規模を持つ極めて重要な市場であるという。それを示すように、同社のノートPC「ThinkPad」シリーズを設計/開発した横浜の「大和研究所」や、島根・群馬の製造・サービス拠点など、日本国内に強固な基盤を築き、継続的な投資を行っている。

 バブ氏は第3四半期の業績について「売上高は前年比18%増の220億ドル超、調整後純利益は前年比36%増の約6億ドルと、非常に成功した四半期でした。中でもAI関連事業の伸びは顕著で、AI関連売り上げは前年比72%増と急拡大し、グループ全体の約32%を占めるまでになっています」と説明する。

 こうした急拡大を遂げたAI関連事業はどのような戦略の下で行われているのか。レノボのAI戦略の中核を成すのが「ハイブリッドAI」だ。レノボでは現在のAIを、パブリックデータに基づくクラウド上の「パブリックAI」、企業独自のデータをオンプレミス上で活用する「エンタープライズAI」、個人のデバイス上でデータを扱う「パーソナルAI」の三つの形態に大別している。これらを組み合わせて活用するアプローチがハイブリッドAIだ。クラウド、企業内、個人デバイスの各領域に分散した環境で、セキュリティやプライバシーを確保しながらデータの分析を行うために、ハイブリッドAIのアプローチを採用している。

 本イベントではパーソナルAIの中核を担うAIエージェントとして、「Lenovo Qira」(以下、Qira)が紹介された。「Qiraは特定のデバイスに限定されるものではなく、PCやスマートフォン、スマートウォッチといった複数のデバイスにまたがって動作するAIエージェントです。複数のデバイスを横断して利用者の生活や働き方を学習し、ユーザーの代理として行動できるAIを目指しています」(バブ氏)

手のひらサイズのスパコンが
オンプレミスでのAI推論を支える

 続けて登壇したレノボ・ジャパン 代表取締役社長 檜山太郎氏は、日本市場におけるエンタープライズAIの動向について、IDCと共同で作成した「CIO Playbook 2026」の調査結果を基に解説した。「調査によると、日本の企業の68%がすでにAIを試験的に導入しているか、組織的な導入を進めています。また、日本企業の93%が2026年にAI投資を15%増やす予定であるなど、AIは検証段階からビジネスや収益の中心的な存在へと移行しつつあります」

レノボ・ジャパン
代表取締役社長
檜山太郎

 さらに檜山氏は、推論領域でのニーズが急速に拡大していることにも触れる。「これまではデータセンターやサーバーでの大規模学習が中心でしたが、今後は消費電力効率の向上やデータ転送量削減の要請を背景に、PCやタブレット、エッジサーバーといったオンプレミスやエッジ環境での推論が重要性を増していくでしょう。現在では学習への投資が大きいものの、2030年までには投資の75%が推論へとシフトすると見込まれます。『オンプレミスのAI推論』、それがビジネス競争を制する鍵となります」

 オンプレミスにおけるAI推論ソリューションとしてレノボが提供するのが「GaiXer ThinkStation」だ。GaiXer ThinkStationは、レノボが提供するAIスーパーコンピューター「ThinkStation PGX」と、FIXERのエンタープライズ向け生成AIサービス「GaiXer」を組み合わせたソリューションとなる。最大1000TOPSの処理能力を備え、高負荷なAIモデルの推論や必要に応じた軽度の学習もスムーズに実行できる。さらに128GB統合メモリを標準搭載しており、単一筐体で最大2,000億パラメーター規模の大規模言語モデルも取り扱える。こうした高い性能を幅約150×高さ150×奥行き50.5mmの手のひらサイズの筐体に備えている。

GaiXer ThinkStationは高度な処理性能を備える、製造・医療・法務・クリエイター向けのスパコンだ。

 GaiXer ThinkStationを活用した先進事例として、愛知県豊明市に位置する藤田医科大学病院の取り組みが紹介された。同病院は大規模な病床数を誇り、日々膨大な診療データが発生している。一方で、患者の退院時に作成する退院証明書や保険申請書類といった事務作業は、医師や看護師にとって大きな負担となっていた。これらの書類作成には、医師の診断結果、電子カルテ、看護師による手書きの記録、処方薬情報など、院内に散在する多様な形式のデータを参照する必要がある。手作業で情報を突き合わせるには多大な時間を要し、現場の生産性向上の妨げとなっていた。

 そこで同院ではGaiXer ThinkStationに院内データを読み込ませ、退院サマリーや保険申請書類の下書きを自動生成する仕組みを構築した。電子カルテだけでなく、これまで負担となっていた手書き文書の読み取りにも対応し、必要情報を統合した形で出力できる環境を整備した。この取り組み開始から3カ月で、医師・看護師の事務作業時間を合計1,000時間削減する成果を上げた。また、機密性の高い医療データを外部クラウドに出す必要がなく、院内で安全に処理を完結できる点も評価されているという。

増大するデータセンターの電力消費量に
独自開発の液体冷却技術で対応

レノボ・エンタープライズ・ソリューションズ
代表取締役社長
張 磊

 AIの普及が進む中、企業にとって新たなボトルネックとして浮上しているのが、電力の課題だ。「現在、世界の電力使用の最大3%をデータセンターが占めており、今後もデータセンターの新設・拡大が進めば、日本の電力需要が3倍になると予測されます。特に深刻なのが冷却に伴うエネルギーの消費です。データセンターのエネルギー消費のうち、コンピューティングそのものではなく、冷却に最大40%もの電力が費やされていることが大きな課題となっています」と、レノボ・エンタープライズ・ソリューションズ 代表取締役社長 張 磊氏は警鐘を鳴らす。

 こうした課題を解決するためにレノボが提供しているのが、独自開発の液体冷却技術「Lenovo Neptune」だ。Lenovo Neptuneでは、冷却に必要な消費電力を最大40%削減し、性能を最大化できるという。

本イベントではLenovo Neptuneをはじめとした、レノボの技術を一堂に集めた展示会も行っていた。
レノボ
バイスプレジデント兼ソリューション&サービスグループ(SSG)
最高マーケティング責任者(CMO)
デビッド・ラビン

 最後に登壇したレノボ バイスプレジデント兼ソリューション&サービスグループ(SSG) 最高マーケティング責任者(CMO) デビッド・ラビン氏は、北米で開催される「FIFAワールドカップ2026」におけるレノボの取り組みを紹介した。

 審判が確認する映像のジッターをリアルタイムで約60%低減して画質を向上させ、より正確な判断を可能にする「レフリービューAIスタビライザー」や、3Dリアルタイム再構成と生成AIを活用して全選手のデジタルアバターを作成し、ビデオ判定(VAR)の精度と速度を大幅に向上させる「VARデジタルアバター」、さらに払い戻しや座席変更などのリクエストに自動対応するAIコンシェルジュといった、具体的なAIソリューションを提示した。

 ラビン氏は、「FIFAワールドカップは48チームが参加し、数十億人のファンが注目する、世界最大かつ最もインクルーシブなスポーツイベントです。レノボは、この巨大なイベントの運営を支えるため、ポケットからクラウドまで網羅する広範なポートフォリオを提供しています。ミッションクリティカルな環境下でも当社のテクノロジーが安定して稼働することを示し、確かな価値を提供できることを証明します」と意気込みを語った。

レフリービューAIスタビライザーやVARデジタルアバターだけでなく、レノボはFIFAワールドカップにさまざまなソリューションを提供している。