「DEX」というキーワードを耳にする機会が増えている。DEXとはDigital Employee Experienceの略称で、日本では「デジタル従業員エクスペリエンス」や「デジタル従業員体験」と訳される。DEXは業務において従業員がデジタル環境をストレスなく効率的に使えているかという「ユーザー体験」を意味し、それを管理・改善するのがDEX管理ツールだ。このDEX管理ツールには、法人向けPCビジネスの成長に寄与することも期待されている。DEX管理ツールのグローバルリーダーであるNexthink(ネクストシンク)の日本法人に、DEX管理ツールのビジネスの展望と法人向けPCビジネスへの寄与について話を伺った。

従来のIT管理とは異なり
ユーザー体験を重視する

Nexthink
Sales Director
梅園恭司

 最近、日本でもDEXおよびDEX管理ツールへの関心が高まっており、業界大手のベンダーが次々と市場に参入している。昨年6月末に日本HPが日本市場でのDEX管理ツールの提供を開始し、デル・テクノロジーズも今年4月28日よりDEXコンサルティングの提供を始めた。さらにDEX管理ツールの草分けであるNexthinkが、昨年6月末に日本法人を設立し、日本市場での本格的なビジネス展開を始めた。

 DEX管理ツールの主な機能は、ユーザーが使用しているPCなどのデバイスの起動時間やアプリケーションのレスポンス、ネットワークの遅延など、ユーザー体験に影響する要素をリアルタイムで監視する。ユーザー体験に問題が生じると原因を調査し、ユーザーあるいは管理者に報告するとともに自動的に修復するというものだ。

 従来のIT管理が「システムが動いているか」という可用性を重視するのに対して、DEX管理は「ユーザー(従業員)がストレスなく効率的にデジタル環境を利用して働けているか」というユーザー体験を重視している点が異なる。

 グローバルでDEX管理ツール市場をけん引しているNexthinkが提供しているDEX管理ツールが「Nexthink Infinity」(以下、Infinity)だ。InfinityはSaaSで提供される。Windows OS、macOS、VDI、モバイルデバイス(スマートフォンやタブレットなど)のデバイスに対応し、これらのデバイスからリアルタイムで1,300種類以上のデータを収集してクラウド上のデータプラットフォームに集積する。

 集積されたデータから全てのユーザー、デバイス、アプリケーション、ネットワーク、さらにクラウドに対して稼働状態をリアルタイムで可視化するとともに、ユーザー体験を診断する。診断の結果、ユーザーがストレスを感じる状態を検知すると、解決および改善を支援または自動修復する仕組みだ。

六つの活用領域で
多様な機能を提供

Nexthink
Technical Partner Manager
金 容鎮

 DEX管理ツールは単なるIT管理ツールではない。Infinityでは「サービスマネジメント」「戦略」「資産管理」「変革/トランスフォーメーション」「コンプライアンス」「サスティナビリティ」の六つの領域で活用できる。サービスマネジメントではIT部門のユーザーおよびデバイスの運用管理の業務を軽減する。さらにInfinityにオプション提供されるAIエージェント「Nexthink Spark」(以下、Spark)を使って、ユーザーがデジタル体験の不満を自然言語で相談することで問題や改善を自身で行える。

 Nexthinkの日本法人でTechnical Partner Managerを務める金 容鎮氏は「Sparkは単なるチャットボットではありません。Infinityが収集したデータをユーザーの問い合わせの内容に応じた切り口で分析して診断し、自然言語で対処方法をアドバイスするAIエージェントヘルプデスクです」と説明する。

 SparkはIT部門の業務負担軽減にとどまらず、従業員のデジタル体験の不満を即座に改善でき、生産性と従業員満足度の向上を図る「戦略」にも寄与する。同社でPrincipal Field Marketing Managerを務めるChristine Wu氏は「海外ではDEX管理ツールを導入している企業に対して従業員に配慮していることが評価され、人材の獲得や定着につながる効果も得られています」と説明する。

「資産管理」と「変革/トランスフォーメーション」では、例えば従業員ごとにPCのパフォーマンスの過不足やソフトウェアのライセンスの利用状況を把握することで、デジタル環境への投資計画を立てたり、投資を最適化したりできる。またITに関する無駄を省くことでカーボンフットプリント(CO2排出量)やエネルギーコストの削減(サステナビリティ)にもつながる。

AIの利用促進、投資効果把握にも
顧客の課題に応じた活用提案を

Nexthink
Principal Field Marketing Manager
Christine Wu

 InfinityはAIの利用実態の把握を通じて、利用促進やリスク対策に生かすこともできる。Infinityで提供されている「AI Drive」によって、Microsoft Copilotのような承認済みのAIアプリケーションからWebブラウザー上で利用されるシャドーAIツールに至るまで、あらゆるAIツールの利用状況を可視化できる。

 その結果、誰がAIツールを使っているのか、使っていないのかを把握し、AI活用によって削減された時間や防がれたミス、成果が得られた業務なども可視化でき、AI投資のROIを測定することが可能となる。

 また使用が禁止されているAIサービスにアクセスすると「AI使用ガイドライン」を表示してアクセスを遮断し、ガバナンスを徹底してシャドーAIの利用リスクを低減することも可能だ。

 AI PCとMicrosoft 365 CopilotにDEX管理ツールであるInfinityを組み合わせて提供することで、AI活用の実態把握を通じてAI利用の促進と効果向上を図る付加価値サービスを提供できる。また、その投資効果を示すことで継続的なビジネスを提供し続けるといった展開が可能となる。

 Infinityに限らずDEX管理ツールはIT運用やIT資産管理といったIT部門の業務を支援する機能に目が行きがちだ。同社でSales Directorを務める梅園恭司氏は「先に示した通りInfinityには六つの活用領域があり、できることが幅広く、たくさんあります。顧客の課題に応じてInfinityが提供する機能を切り出して解決策を提案することで、ビジネスの機会がぐっと広がります」とアドバイスする。

 その中でもAIの利用促進や投資効果の可視化、AI活用におけるガバナンス強化という文脈で、AI PCやMicrosoft 365 CopilotなどAIビジネスの成長に役立てることができるだろう。