人材派遣・紹介からHRテック、BPOなどを展開している総合人材サービスグループのキャムコムグループ。その特例子会社として、障害のある人の就労支援や企業の障害者雇用コンサルティングを行っているのが、綜合キャリアトラストだ。同社は2025年4月1日に、新たに池袋に事業所を開所し、AIアプリ開発エンジニアの育成に取り組んでいる。その取り組みの目的を取材した。
障害者雇用従業員をエンジニアへ

伊藤 努 氏
綜合キャリアトラストでは、主に四つの事業に取り組んでいる。一つ目が障害者を雇用し、それぞれの得意分野に合わせた業務に取り組むCVT(Create Value Team)事業だ。キャムコムグループの障害者雇用を一手に担っている。二つ目がSAKURA事業だ。就労移行支援事業を行っており、働きたいと考える障害者に対して、職業訓練を行い、就職へのサポートや定着支援などを行っている。
三つ目がオフイク事業だ。小規模認可保育園を運営することで、「育児」と「働く」を支えている。四つ目がトラスト事業だ。これはCVT事業やSAKURA事業で得た障害者雇用のノウハウを活用し、企業に対して障害者雇用のサービスやサポートを提供するものだ。
これらの事業の一つ、CVT事業において、綜合キャリアトラストはAIアプリ開発エンジニアの育成に取り組んでいる。その背景について、綜合キャリアトラストの代表取締役の伊藤 努氏は「キャムコムグループの中で人材派遣やBPO事業を担う綜合キャリアオプションにおいて、未経験からAI・DX領域で活躍できるエンジニアを育成する就労型プログラム『キャリアファンド』を2024年からスタートしていました。その際、綜合キャリアオプションの部門の責任者から『障害者雇用でもこのような取り組みができないか』といった話があったことがきっかけです。綜合キャリアトラストは、『福祉から脱却し、戦力へ』をコンセプトに掲げており、戦力化を実現する一つの手段として、AIアプリ開発エンジニアの育成に取り組むことを決めました」と語る。
kintoneやCopilotを活用
綜合キャリアトラストでは日常の業務の中で、ノーコード・ローコードでアプリが作れる「kintone」や、生成AIツールのCopilotを使っており、業務効率化に役立てていた。
また、今回の取り組みとは関連しないものの、VRを活用した就労移行支援の訓練プログラムなども提供している。こうしたテクノロジーを活用する社内の土壌と、前述したキャリアファンドのようなエンジニア育成の取り組みが、障害者雇用の従業員の戦力化につながると考えたことも、AIアプリ開発エンジニアの育成を決めた背景としてある。
AIアプリ開発エンジニアの募集は2025年5月からスタートしている。育成研修では綜合キャリアオプションが構築したアプリケーションエンジニア養成プログラムであるキャリアファンドをベースにしながら、綜合キャリアトラストの支援員による個別のサポートを行っている。
伊藤氏は「研修においてはキャリアファンドから必要なコンテンツを適宜抜粋し、障害のある人向けにカスタマイズを行いました。最初はAIの概念やAIを使用する際のガイドライン、プロンプトテクニックから始め、その後アプリ開発の研修に進みます。現在では本研修に参加したメンバーの意見を基に、障害者向けに動画を作り直したり、新しい研修資料や動画を作成してもらったりしています。これらの資料ではイラストを多用し、内容を分解して明確化するなどの工夫を講じています」と語る。

将来的には社外のアプリ開発も
池袋事業所では本研修を経て、すでに実務に携わっている従業員もいるという。例えばkintoneを活用したアプリ開発だ。kintoneで開発したアプリは、主にグループ企業内で利用されているが、将来的には社外に向けたアプリ開発にも取り組んでいきたいという。
またAIを活用することで、営業資料やマニュアル、動画作成などにも携わっている。現在、同社で使っている生成AIはCopilotに限定されているが、将来的にはAIエージェントプラットフォームの「Genspark」を活用した資料作成にも取り組む考えだ。
AIアプリ開発エンジニアの育成や雇用は、2025年4月1日に開所した綜合キャリアトラストの池袋事業所で行っており、精神障害(発達障害を含む)のある人を雇用している。現在池袋事業所では15名を雇用しており、すでにその内の約半数が実務に携わっている。実務に携わりながら研修を行っている人、実務メインの人など、働き方はさまざまだ。将来的にはこの従業員規模を30名まで拡大したい考えだ。
このようなAIアプリ開発エンジニアの育成に取り組む中で、課題などはなかったのだろうか。
伊藤氏は「仕事を取りに行く上での意識を変える必要がありました。従来、障害のある従業員に業務を任せる際は、配慮の観点から業務を簡易作業に細分化して依頼するケースが一般的でした。しかし、今回育成しているAIアプリ開発エンジニアは、AIやアプリを活用して業務の難所を“やりやすい形に再設計”し、全体の効率化につなげることを狙いとしています。そうした割り振る業務に対する理解を、お客さまや当社のグループ企業に深めてもらう必要があると感じました」と振り返る。
伊藤氏は今後の展望として、同社のこうした障害者のエンジニアチームを展開するノウハウを他社にも拡大していきたい考えを示した。
「経営者の中には、障害者雇用をコストと捉えている人もいます。しかし、当社の今回の取り組みにより、障害のある従業員の戦力化を実現できれば、その仕組みを外部の企業に展開することで、障害のある従業員を戦力として育成することが可能になります。そのためにはまず池袋のエンジニアチームをさらに拡大し、戦力化を実現していきます。将来的には『困ったらここに相談すれば安心』といった組織にしていきたいですね。キャムコムグループは『いい仕事を作る』というパーパスを掲げています。グループ外にAIアプリエンジニアが働ける職場をたくさん作ることによって、良い仕事がたくさん生まれるよう、これからも取り組みを進めていきます」と伊藤氏は将来像を語った。
