AIX時代を支える次世代AIインフラ
ソブリンAIと水冷が切り拓くデータセンターの進化
デル・テクノロジーズは4月23日、「エンタープライズAIのための次世代インフラ&水冷ソリューションセミナー」を実施した。生成AIの本格活用が進む今、エンタープライズAIを支えるサーバーやデータセンターにはどのような変化が訪れているのだろうか。「ソブリンAI」と「冷却システム」の二つのキーワードから、次世代基盤に求められる技術を読み解いていこう。
AIX時代に問われるAI基盤の在り方
ソブリンAIとインフラ戦略の重要性

AI Solution Sales | AI BDM
東 政孝 氏
エンタープライズAIのための次世代インフラ&水冷ソリューションセミナーは2部構成で実施された。第1部は「ソブリンAI時代のエンタープライズAI基盤と活用シナリオ」だ。
このソブリンAIに関する講演で登壇したデル・テクノロジーズ AI Solution Sales | AI BDM 東 政孝氏は「日本におけるソブリンAIと今年から始まるAIX(AI×Transformation)」と題し、日本企業のAIXの現状と、ソブリンAIの重要性を語った。
東氏は「日本でAIに投資している企業は約80%を超える」と示しつつ、一方で「期待した結果が出ている企業は57%にとどまります」と指摘した。これは裏を返すと、40%以上の企業が期待した成果を得られていないことを意味する。東氏はこの数字を踏まえ、AIXの重要性を訴える。
東氏は、AIXを単なるIT施策ではなく経営変革の取り組みと位置付ける。「AI導入は効率化やコスト削減にとどまるものではありません。事業モデルや組織、働き方そのものを変革する取り組みです。そのため、IT部門の施策として捉えてしまうと、なかなか成果が出ません。またAIが導入して効率化が実現できても、組織改革に結びつけることが難しいという構造的な問題もあります。そうした構造的な問題に対して、当社を始めとしたパートナー企業とともに連携しながら、AIXを進めていくことが望ましいでしょう」と語る。
続けて東氏はAI技術の進化の歴史を振り返り、昨今注目されている「ソブリンAI」という概念について語った。東氏はソブリンAIを「国家や企業が独自の管理下でAIを安全に運用する仕組み」と定義する。「欧州や中東では国家レベルでソブリンAIが推進されており、経済安全保障と国家競争力に直結する重要な取り組みとして位置づけられています。日本政府も数年前からデジタル主権というキーワードを掲げています。外国資本のクラウドサービスへの支払いが原油輸入額を超える可能性も出てきており、国家レベルの競争力が重要になります」と語る。
一方で、企業レベルの観点でもAIを活用することで競争力の強化に取り組む必要がある。東氏はAIXを活用した製造業における工場横断的な生産最適化の事例を紹介すると同時に、セキュリティとガバナンスの概念の違いについて次のように説明する。「セキュリティが『データをどう守るか』という技術領域であるのに対し、ガバナンスは『誰がどのルールでデータを扱うか』という経営領域を指します」ソブリンAIの導入においては、このガバナンスを技術部門だけでなく経営直下でコントロールする必要があると強調し、デル・テクノロジーズがサポートするAIXとソブリンAIを組み合わせた実践ロードマップを示した。
東氏は「多くの企業がPoCまでは実施しているものの、その後の利益や売上向上まで至っていません。AIXとソブリンAIの実装に向けて、進化が激しいAIにキャッチアップできるインフラを整備することが重要です」と締めくくった。

AI時代に再定義されるデータセンター
電力と発熱に挑む冷却技術の最前線

執行役員
インフラストラクチャー・ソリューションズ営業統括本部
製品本部 本部長
上原 宏 氏
第2部となる「DLC Servers & Datacenter Summit 2026」(以下、DSDS26)では、AIデータセンターの普及を背景に、冷却技術を中心とした講演が行われた。まず初めにDSDS26の開会宣言のため登壇したデル・テクノロジーズ 執行役員 インフラストラクチャー・ソリューションズ営業統括本部 製品本部 本部長 上原 宏氏は「今年2月の日本経済新聞に掲載されていた米国調査会社のIDCの調査によれば、サーバーの世界出荷額が5,700億ドルに達し、スマートフォンの市場と同水準の規模となったそうです。世界的に見てもスマートフォンは高い普及率で日常に浸透していますが、AI活用の進展によりサーバー市場も同規模まで拡大したといえるでしょう」と語る。一方で上原氏は、このサーバー市場拡大における技術的な課題として、電力問題を指摘する。「特に最新のテクノロジーを活用すると消費電力が高くなりがちです。このような環境では大規模な電力消費と発熱を伴うため、既存のファシリティでは対応が困難な状態にありました。AIサーバーの普及においては、冷却制御が効かなければ収益性も上がりません」と上原氏。
こうしたAIサーバーの抱える課題に対して、上原氏は物理学の観点からニュートンの冷却則を説明し、冷却効率は「温度差」と「熱伝達効率」によって決まるという基本原理が示された。GPUなどの半導体発熱に対して、従来とは異なる温度差と効率的な熱駆動システムの重要性が説明された。同時に、こうした冷却システムをデータセンターに実装していくためには新しい協業体制が不可欠であると語り、従来のサーバー機器提供側とシステムインテグレータに加えて、空調・設備・電気関連の専門家、建築関係者、サブコントラクター、データセンター関係者との連携した「新しい生態系」を構築していく必要性を訴えた。

“発熱”が変えるサーバー設計の常識
水冷時代へ進むAIインフラ

インフラストラクチャー・ソリューションズ営業統括本部
製品本部 システム周辺機器部
シニアプロダクトマネージャー
水口浩之 氏
「最新AIインフラストラクチャと次世代冷却ソリューション」と題し、デル・テクノロジーズの製品群について紹介したのはデル・テクノロジーズ インフラストラクチャー・ソリューションズ営業統括本部 製品本部 システム周辺機器部 シニアプロダクトマネージャー 水口浩之氏。水口氏はAI技術の急速な発展について説明した後、国内AIサーバー市場の動向について次のように語る。「国内サーバー市場において、AIサーバーは台数ベースでは数%に過ぎませんが、売上高では半分に迫る勢いで成長しています。データセンター向け半導体サーバーの成長は2030年まで継続する見込みで、サーバーメーカーとして製造しても需給のひっ迫が続く可能性が予測されています」
こうしたAI需要の高まりの中、水冷サーバーはなぜ求められるのだろうか。水口氏は続けて「ASIC(特定用途向けチップ)の普及でより高性能チップとASIC、クラウドGPUを組み合わせる構成に収れんして行く可能性が高まっています。この高性能な少数のチップは非常に消費電力が高く、こうした高発熱環境に対応する手段として、水冷システムの重要性が高まっています。水冷システムにより、パフォーマンスあたりの消費電力を改善できます」と語る。LLM(大規模言語モデル)の規模が拡大することで、処理熱量も急増しており、そうした用途においても水冷サーバーの需要の拡大が進んでいる。
このような市場の需要に対して、デル・テクノロジーズの最新世代GPUサーバーは水冷前提で設計を行っているという。「水冷時代においてはサーバーラックの形状も変わります。当社ではラックソリューション『Integrated Rack Scalable Systems (IRSS)』を提供していますが、『Dell Integrated Rack 5000シリーズ(IR5000)』は19インチラックであるのに比べ、『Dell Integrated Rack 7000シリーズ(IR7000)』は21インチラックです。これらはいずれもDLC技術を採用していますが、IR7000シリーズではパワーシェル電源モジュールとマニホールドを統合しているなど高い冷却・電源効率を実現する仕組みを採用しています」と水口氏。
デル・テクノロジーズではAI用途以外の一般CPUサーバーでも水冷対応製品を幅広くラインナップしている。「世界規模でのメモリーやストレージ供給不足によりコスト上昇とリードタイム長期化が続いていますが、当社では1日当たり17万9,000件を超える受注処理能力と毎日ジェット機2機分相当の製品出荷する実績により、強固なサプライチェーンを維持しています」と水口氏は同社のサプライチェーン網の信頼性をアピールした。
AIインフラの高度化に伴い、水冷技術は選択肢ではなく前提条件になりつつある中で、安定した製品供給が行えるデル・テクノロジーズのサーバーソリューションは有力な選択肢と言えるだろう。


