ソフトウェアの品質保証やテスト事業を中核とするSHIFTは、人材を事業の成長基盤と捉える人的資本経営を早くから実践しており、一人ひとりのキャリアに向き合うことを通じて、多様な人材が活躍できる環境を整えている。そうした人的資本経営で整えられた基盤は、同社の障害者雇用の取り組みの中でも有効に活用されている。先進的な人的資本経営に取り組むSHIFTの視点から、日本企業の障害者雇用が抱える構造的な課題と、同社が開発したノープロンプト生成AIツール「天才くん」を活用した業務効率化の取り組みを見ていこう。
法改正で変わる障害者雇用
2024年から2026年にかけて「障害者雇用促進法」(正式名称:障害者の雇用の促進等に関する法律)の段階的な改正が施行されている。その大きなポイントは「法定雇用率の段階的な引き上げ」と「対象企業の拡大」だ。2026年7月からは法定雇用率が、これまでの2.5%から2.7%に引き上げられる。また同時期に、雇用義務の対象となる企業規模も従業員数40人以上から37.5人以上に引き下げられ、これまでよりも多くの企業が障害者雇用義務の対象となる。
こうした法改正の影響について、SHIFT ビジネスサポート部 ビジネスサポート2グループ 篠原貴博氏は「法定雇用率の引き上げと、対象企業の拡大によって、2026年7月からの改正で初めて障害者雇用の義務対象となる企業が増加するでしょう。中小企業にとってはこれまで検討してこなかった障害者雇用というテーマに本格的に向き合う形になります」と語る。
日本の障害者雇用の現状を見ると、その雇用人数は過去15年で倍増している。一方、2025年の法定雇用率を達成している企業の割合は46%だ。産業別の法定雇用率達成企業の割合を見ると情報通信業が最も低く、3割を下回っている。
なぜ他の業種と比較して、情報通信産業の達成割合が低いのだろうか。篠原氏は「情報通信産業は客先常駐の働き方が多く、雇用した企業によって障害のある従業員をきめ細かくフォローすることが難しい場合があります。また、業務上のコミュニケーションも多いため、障害のある方が働く、あるいは企業が雇用する場面においてはハードルが高い業種であるといえるでしょう」と指摘する。
障害者雇用を進める上で、企業には四つのハードルがある。それは「障害者雇用の理解・意識付け」「障害者雇用の計画」「雇用時の配慮」「雇用後の戦力・定着」だ。篠原氏は「従来の日本の障害者雇用では、定型業務を切り出して任せる形が中心でした。しかしそれだけでは、雇用の拡大や戦力化が難しくなります。多くの企業が雇用率の達成をゴールにしていますが、『できる仕事の設定』や『障害状況、個々の状況に応じた指導』を通じた個々人の戦力化を行うことで、職場全体への波及効果も増大していくでしょう」と語る。

戦力としての障害者雇用へ
こうしたハードルを乗り越えるため、企業が見直すべき二つのポイントがある。一つ目は業務の再設計だ。属人化されている業務を判断と作業に分解し、AIツールなども組み込みながら、日常業務に落とし込むことが必要だ。二つ目に、戦力化を前提としたキャリア設計だ。法定雇用率の数合わせのために障害者を雇用するのではなく、採用した従業員の成長や役割の拡張をしっかりと捉えたキャリア設計を行う必要がある。今後の障害者雇用においては、法定雇用率遵守を超えた“戦力としての障害者雇用”への転換が求められているのだ。
SHIFTは、以前から“戦力としての障害者雇用”に取り組んでいる。2025年8月時点においてビジネスサポート部単体で181名の障害者を雇用しており、職場定着率は84.9%。在籍メンバーの障害種別を見ると、精神障害が89.1%、身体障害が7.8%、知的障害が3.1%だ。新卒や中途採用グループの採用アシスタント、営業事務のような社内各部署の業務を代行する社内BPO機能も担っており、計22のチームに分かれている。
SHIFT ビジネスサポート部 ビジネスサポート1グループの内田啓介氏は「社内外のソフトウェアテスト案件を実施する『テスト』チーム、映像編集などを行う『映像』チーム、バナー制作やコンテンツのコーディングを行う『Web』チーム、アート作品の制作やアートプロジェクトを行う『アーティスト』チームなどさまざまです。当社の障害者雇用は『日本一、才能と能力を生かせる会社へ』をテーマに掲げており、採用面接時に本人の経験や学歴を踏まえ、即時の検定などで素養を測定し、就労移行支援事業所での訓練結果や障害特性に必要な配慮を基に、22チームの中から適切な配属先を決定しています。入社後は独自開発のタレントマネジメントシステムも活用し、本人の状況や才能、能力を可視化し、それらに応じた業務の割り振りを行っています」と語る。
得意領域に応じたチームで働く環境を整えるためには、社内業務を丁寧に分解することが不可欠だ。例えば採用業務におけるスカウトメール送信一つをとっても、部門とのすり合わせ、ペルソナの選定、メールテンプレートの作成など複数の工程に分かれている。これらの工程を「判断が求められる業務」と「定型的な作業」に分解することで、業務の属人性を解消し、最適な人材へと業務を割り振ることが可能になる。

(左から)SHIFT 内田啓介 氏、篠原貴博 氏
「AI社員」と共に働く
SHIFTでは、こうした業務分解や業務遂行に自社で開発したノープロンプト生成AIツール「天才くん」を活用している。天才くんは業務ごとに特化した“AI社員”として設計されており、詳細なプロンプトを打ち込まなくても実務を支援できる点が特長だ。
例えば前述のような業務分解において、「業務分析&AI自動化さん」という天才くん(AI社員)が活用できる。人事担当者は天才くんを活用することで採用業務を分解し、その内容を基に障害者雇用推進担当者が、実行可能な工程やAI代替が可能な業務を整理し、業務を割り振れるのだ。業務を割り振られた障害のある従業員は、分解されたタスクに沿って実務を進めるとともに、必要に応じて天才くんを使うことで、自身が理解しやすい形に手順書をまとめたり、工数を削減したりできるようになる。
天才くんには「クライアントメールくん」や「議事録要約作成くん」といった業務をサポートするものや、部下へのフィードバックをオブラートに包んだ表現にする「オブラートに包むさん」といったコミュニケーションをサポートするものまで多様なAI社員が登録されており、SHIFTの全社員が活用することで誰もがスムーズに業務に取り組めるような工夫がなされている。
内田氏は「生成AIは、全ての働く人にとって“希望のテクノロジー”であると考えています。一方で、望み通りの生成結果を引き出すためのプロンプトを正しく入力できる人ばかりではありません。そのため誰でも使いやすく、業務効率化に直結できる天才くんを活用することは大きな効果があります。また、AI活用を得意とする従業員には、徐々にステップアップをしてもらうべく、『GAI-Chat』などを活用してもらい、自律的な業務遂行力の向上を目指しています。GAI-ChatはChatGPTのAPIを活用した社内専用の生成AIで、チャット形式でより自由度が高く利用できます。当社で雇用している精神障害のある従業員のうち、約半数は発達障害のあるメンバーです。こうしたメンバーは高い集中力を発揮し、関心のある分野の継続的に取り組める特性があり、生成AIの活用とも相性が良いと感じています。月例会で成功事例を発表し、ライブ形式でフィードバックを受ける機会があったことで、一人ひとりが成功実感を得られたことも生成AI活用が広がった大きな要因でした」と語る。
SHIFTでは障害者雇用におけるAI活用の結果、障害のある従業員の81%が「働きやすくなった」、78%が「生産性が向上した」と回答しているほか、2026年上期だけを見ても5,600時間の工数が削減できている。「今後も、日本一、才能と能力を活かせる会社の実現を目指し、人的資本経営に注力した組織づくりへの取り組みを進めていきます」と篠原氏は意気込む。
