【事例】富山市
今月号では、アドビツールを実際に活用し、クリエイティブなコンテンツを制作したり、業務の効率化を実現したりしている実践事例を紹介していく。今回紹介するのは、富山市の事例だ。富山市はアドビの生成AI「Adobe Firefly」(以下、Firefly)を活用し、同市のPRキャラクターの制作を行った。広告代理店やクリエイターと共に生み出されたそのPRキャラクターの誕生秘話をインタビューした。
親しみやすいPRキャラクターで
若い世代に富山市の魅力を発信

広報課
シティプロモーション
推進係長
浅野哲平 氏
富山市は、北に豊富な魚介類を育む富山湾、東に雄大な立山連峰を望む、自然にあふれた街だ。300年以上の歴史を持つ「越中富山の薬売り」がよく知られている「くすりのまち」であると同時に、その周辺産業としてガラスの薬瓶製造が行われたことから「ガラスの街」としても有名だ。2025年には、米ニューヨーク・タイムズ紙の「2025年に行くべき52か所」に選出されるなど、世界的にも注目されている。
富山市は富山県の県庁所在地として、また日本海側有数の中核都市として発展を続けてきたが、2010年をピークに人口は減少に転じ、今後もこうした人口減少の傾向は続くことが見込まれている。富山市はこうした人口減少に対して、公共交通を軸とした「歩いて暮らせる」都市構造を目指すコンパクトシティ政策や、このコンパクトシティ政策を土台にICTやデータを活用したスマートシティ政策に取り組むことで、課題解決を図っている。こうした人口減少と並行して、少子高齢化も大きな課題となっている。
富山市 広報課 シティプロモーション推進係長 浅野哲平氏は「多くの自治体と同様に、富山市でも少子高齢化が進んでいます。特に10代から20代の若い世代は、大学進学を契機に上京し、そのままそちらで就職するというケースが多くあります。そうした若い世代の方々が結婚や出産など、ライフステージが変わるタイミングで富山市に里帰りしてもらうために、地元に対して親しみを持ってもらうためのさまざまな取り組みを進めています。今回のPRキャラクター制作はその取り組みの一つです」と語る。
このPRキャラクター制作に当たって、活用されたのがアドビの生成AIであるFireflyだ。PRキャラクターの制作に生成AIを使うことを決めた理由について浅野氏は「一時期多くの自治体が、いわゆる『ゆるキャラ』を作って自治体のPRをすることがブームでした。このゆるキャラブームが落ち着いた今、自治体独自のキャラクターを作るのであれば、今のタイミングだからこそ、という妥当性が必要でした。PRキャラクター制作の検討を始めていたのは2024年夏ごろでしたので、当時話題となっていた生成AIを活用することで、沢山のキャラクターを網羅的に作ることができ、その中から取捨選択する形で、富山市にふさわしいPRキャラクターを作れるのではないか、と生成AIの活用を決めました」と振り返る。
一方で、生成AIを活用することに対する懸念もあった。例えば他の自治体では、著作権侵害リスクから、生成AIを活用したPRキャラクター制作を中止したケースもある。富山市ではこうしたリスクを避けるため、文化庁の生成AIと著作権のチェックリストなどを詳しく調べ、類似性と依拠性の観点から安全性の確保を図った。その安全性確保のための手段の一つが、Fireflyの活用だ。今回のPRキャラクター制作は、富山市単独で行ったのではなく、地域の広告代理店と二人三脚で取り組んだ。Fireflyはその広告代理店から総合評価落札方式※で提案されたツールであり、エンタープライズ版では訴訟リスクに対しての補償も提供される点も選定の後押しになったという。
※公共調達・官公庁入札で用いられる落札者決定方法の一つで、価格だけでなく、技術力や実績などの価格以外の要素も含めて総合的に評価する方式。

生成されたキャラクターに
クリエイターが命を吹き込む
PRキャラクター制作に当たっては、広告代理店が推薦したクリエイターと共に、よりキャラクターとして魅力的になるよう工夫を重ねた。そのプロセスとして、まず富山市の魅力を表すキーワードをピックアップした。富山市では2024年度に、同市の魅力発信のため、市民や大学生も参加して富山の良さを考えるワークショップを実施しており、そこで出てきた約900のキーワードに加えて、観光関連で検索されていた約300のキーワードを追加し、全部で約1,200のキーワードを使用した。またこのキーワードに合わせた画像も約50点準備した。これらのキーワードと画像をFireflyに読み込ませ、約2,500点のキャラクター案を生成したという。
「これらのキャラクター案を基に、クリエイターの方が富山市を代表するキーワードを整理し、それらを用いて画像の生成を繰り返しました。『立山』『路面電車』『薬』『ガラス』という四つのキーワードに絞り込み、最終的に立山と路面電車というキーワードから生成されたキャラクターと、ガラスと薬というキーワードから生成されたキャラクターの原案ができあがりました。これらのキャラクター原案を基に、クリエイターの方が色や性格を決定し、最終調整を行ったイラストとして生み出されたのが、現在の富山市のPRキャラクター『やまやま』と『くすくす』です」と浅野氏は語る。

立山と路面電車をイメージしてつくられたやまやまは、立山にかかる雲を相棒として身にまとい、路面電車をモチーフにしたトラム型スケボー「ローメン」で富山市民の元に駆けつけるキャラクターだ。世話焼きながらおおらかでとぼけたイメージの性格をしている。
ガラスと薬をイメージして作られたくすくすは、“真面目で良いやつ”だけど“素直になれない”というキャラクター付けがされている。感情が高ぶるとコルクのふたがとれ「くすくす〜」と笑うのが特徴的だ。キャラクターの位置付けとしてはやまやまが「ボケ」で、くすくすが「ツッコミ」と言える。やまやまとくすくすのキャラクターデザインの最終調整を手がけたクリエイターは人気アニメも手がけており、こうしたキャラクター付けのノウハウを持っていた。また、やまやまとくすくすが活躍するショート動画も制作されており、これら二人のキャラクターが織りなすコミカルな会話や、耳に残るオリジナルソングなどを楽しみながら、富山市の魅力を知れる。

生成AI活用のメリットは
アイデアの網羅性にあり
PRキャラクター制作に生成AIを活用したメリットについて浅野氏は「網羅性が高いというのが一番大きなメリットです。今回のPRキャラクター制作に携わっていただいたクリエイターの方は、富山市に住んでいる方ではありませんでしたが、富山市を深く知らない人に対してでも、網羅的なキーワードを読み込ませたFireflyによって、多様な材料提供が可能になりました。また、キャラクターの検討過程が視覚化できたことで、上長などから『別の案はないのか?』と確認された場合でも、検討済みのイラストを見せられることも利点です。一方で、クリエイターの方にこれらのイラストの最終調整をいただいたことで、ただイラストを作るのではなく、キャラクターとしての性格付けや関係性の構築などができました。こういった“命”を吹き込む作業は、クリエイターの方ならではの手腕だったと思います」と振り返る。また、生成されたキャラクターに類似性が見られないことなどを広告代理店側が網羅的に確認し、著作権の観点からクリアな状態でPRキャラクターとして発表した。
現在、やまやま・くすくすのPRキャラクターは、前述したショートアニメで活躍するほか、富山市の広報誌にも掲載されている。今後はSNSでの展開なども検討しており、将来的には市民参加型のプロジェクトや企業との連携も検討している。
「やまやま」と「くすくす」のアニメーションが公開中!
Must Check!
やまやま、くすくすが活躍するショート動画がYouTubeで公開中。コミカルな会話と記憶に残るオリジナルソングで富山市の魅力が楽しく分かる。ぜひ視聴してほしい。

