主要な顧客である公共機関に向けて
AIエージェント活用のユースケースを提示

優秀賞
「災害時の避難所案内エージェント」
ティーケーネットサービス

本コーナーではAIエージェントの開発促進とビジネスの活性化に向けて昨年8月19日に開催された技術コンテスト「Microsoft Copilot DIS Agent Cup 2025 夏」を3回にわたってレポートしてきた。最終回となる今回は優秀賞を受賞したエーティーエルシステムズが発表した「災害時の避難所案内エージェント」を紹介する。同社の既存のビジネスの成長に寄与するアイデアが評価されたほか、開発したメンバー全員がソフトウェア開発の経験がなく、今回初めてCopilot Studioを利用してAIエージェントを開発した点も興味深い。

主な顧客は自治体・教育機関
データ利活用にAIを実装

 山梨県甲府市に本社を置くエーティーエルシステムズは、官公庁・自治体・教育機関を中心にコンサルティングサービスからネットワーク構築、システム開発、データ活用まで、ICTサービスをトータルワンストップで提供しており、全国にビジネスを展開している。

 エーティーエルシステムズは1991年に創業し、2008年に公共と民需で会社を分割した際に、現在のエーティーエルシステムズが公共向け事業を引き継いだ経緯がある。そのため官公庁・自治体・教育機関向けのビジネスに長い歴史があり、その実績が山梨県内をはじめ山梨県外にも評価されて全国展開につながっている。

 最近はデータ利活用事業を強化しており、LGWAN上で動作する行政情報分析プラットフォームサービス「まちSHiRU」や、教育情報分析プラットフォームサービス「まなBI」などを提供している。

 まちSHiRUはJ-LIS(地方公共団体情報システム機構)が運営・提供するBCL(自治体基盤クラウド)に蓄積された標準データを分析・可視化し、政策判断および政策立案を支援する。また生成AI機能を追加して自然言語でデータ検索や要約、レポート生成ができる機能も提供する。

 まなBIは学校・学年・クラス単位でアプリや端末の利用状況および児童・生徒の学習状況が把握でき、的確な指導と安心・安全なICT利用を支援する。こちらにもAIを組み込んだ新たなサービスを提供している。

 同社はデータ分析に関して高い技術力を誇り、例えば文教領域では「Microsoft OEA認定パートナー」にアジア地域で初めて認定された。Microsoft OEA(Open Education Analytics)とはマイクロソフトが提供する教育機関向けデータ分析プログラムで、教育機関がデータとAIを活用して、学習効果の向上、学生のエンゲージメント分析、リソース配分の最適化といった高度な分析を複雑なインフラ構築や高コストをかけずに行えるように設計されたプラットフォームだ。その導入を支援する専門的な技術を持つ企業や組織がパートナーとして認められる。

エーティーエルシステムズ
(左から)
イノベーションデザイン室 室長 ITエンジニアリング部 副部長 古澤祐一
イノベーションデザイン室 AIイノベーションユニット 半田万尋
イノベーションデザイン室 AIイノベーションユニット リーダー 植松大貴
プロダクトデザイン部 第一ユニット 進邦和馬

AI活用はアイデアが重要
非エンジニアで開発に挑む

 エーティーエルシステムズではAIビジネスへの取り組みを本格化するに当たり、同社の技術戦略部門である「イノベーションユニットデザイン室」に「AIイノベーションユニット」を新設し、生成AIおよびAIエージェントを活用したプロダクト開発を推進している。

 前述したまちSHiRUのAI機能の実装もAIイノベーションユニットによるものだ。また自社内での生成AIおよびAIエージェントの活用も推進している。

 AIイノベーションユニットがAIビジネスを推進していく上で、市場にどのような需要があるのか、他社はどのような取り組みを進めているのか、といった情報を収集しているさなか、「Microsoft Copilot DIS Agent Cup 2025 夏」(以下、Agent Cup)への参加の話が主催者であるダイワボウ情報システム(DIS)から寄せられた。

 AIイノベーションユニット 室長 兼 ITエンジニアリング部 副部長 古澤祐一氏は「情報収集ができることと、我々のスキルがどのくらいのレベルなのかを把握する良い機会だと考えて参加しました」と振り返る。

 Agent Cupには古澤氏のほかにAIイノベーションユニット リーダー 植松大貴氏、AIイノベーションユニット 半田万尋氏、そしてプロダクトデザイン部 第一ユニット 進邦和馬氏らが加わってチームを結成した。

 Agent Cupは、Copilot Studioを使って開発したAIエージェントのアイデアやビジネスの可能性などを競う技術コンテストである。しかしAgent Cup参加チームのメンバーの全員がソフトウェア開発未経験者だった。チーム編成について古澤氏は「生成AIやAIエージェントのビジネスでは、お客さまのどのような課題を解決するのに役立てるのかというアイデアの方が重要だと考えています。Copilot Studioはローコード・ノーコードで専門知識がなくてもCopilotと連携した独自のAIエージェントが開発できるので、参加メンバーにソフトウェア開発のスキルは問いませんでした」と説明する。

新卒社員のアイデアを採用
被災者に寄り添う対応に工夫

 AIビジネスではアイデアが重要と考える同社のメンバーはAgent Cupで「災害時の避難所案内エージェント」を発表することを決めた。その経緯について災害時の避難所案内エージェントの開発を担当した半田氏は「以前からCopilot Studioを使って社内業務に関する問い合わせ対応に回答するAIエージェントを作成して活用していました。Agent Cupで発表するに当たって、社内向けの平凡なエージェントではなく、もっとインパクトのあるものが必要だと感じました」と説明する。

 そこでメンバーの進邦氏が災害時の避難所案内エージェントを提案した。進邦氏は今年度の新卒社員で、ソフトウェア開発の経験はない。そんな中でこのエージェントを提案した理由について「当社は自治体のお客さまが多く、また日頃から災害対策の重要性を考えていたため、社会に役立ち、お客さまの需要も期待できる災害時の避難所案内エージェントを提案しました」と説明する。

 エーティーエルシステムズの災害時の避難所案内エージェントは、災害時に自分がいる場所に近い避難所を教えてくれるAIエージェントだ。避難所の場所を教えるだけではなく、避難所に持っていく物や避難所での過ごし方などのアドバイスもしてくれる。また多言語にも対応する。植松氏は「災害時は誰もが不安ですから、人間味のある温かい言葉で対応するように工夫しました」と説明する。

 災害時の避難所案内エージェントは同社の主な顧客である自治体の需要と全国展開ができること、災害という社会課題に対応していることなどが評価され、Agent Cupで優秀賞を受賞した。

 今後のビジネス展開について古澤氏は「現時点では自治体のお客さまのネットワーク環境がAIエージェントを導入しづらいという課題があってすぐにビジネス化はできませんが、すぐに解消される見通しですので、それまでにブラッシュアップして実ビジネスに備えます」と意気込みを語る。