企業のAI活用をけん引する
AIとデータ基盤に関する新ソリューション

SAPジャパンは、AIを業務アプリケーションのレイヤーで信頼性の高い形で提供するため、アプリケーション・AI・データの三層で戦略を推進している。同社はこうした戦略の一環として、2025年12月4日にプレスセミナーを開催した。本セミナーでは、AIおよびデータ基盤に関する複数の新ソリューションが発表された。記事では、企業のAI活用をけん引するこれら新ソリューションの概要を紹介する。

リレーショナルデータを基に
将来を予測する独自AIの提供を開始

SAPジャパン
APACカスタマーアドバイザリー統括本部
Business AI Japan Lead
本名 進

 まずはAIに関する新ソリューションから見ていこう。SAPでは、企業がカスタムAIソリューションを大規模に構築・実行・統合するためのAIオペレーティングシステム「AI Foundation」という基盤を展開している。AI Foundationでは、SAPがパートナーシップを結んでいるベンダーの40以上のAIモデルが組み込まれている。その中でSAPが独自開発したAIモデル「SAP-RPT-1」の提供を開始した。

 SAP-RPT-1の特長について、SAPジャパン APACカスタマーアドバイザリー統括本部 Business AI Japan Lead 本名 進氏はこう語る。「SAP-RPT-1はリレーショナルデータを基に将来を予測する業務アプリケーション特化型のAIモデルです。機械学習が急速に普及し始めた10年ほど前、配送の遅延予測やERPにおける品目グループの需要予測など、個別の業務シナリオごとに専用の予測モデルを構築する必要がありました。データサイエンティストがアルゴリズムを設計し、学習用データを収集・トレーニングするという手間のかかるプロセスが不可欠だったのです。シナリオが10種類あれば10個のモデル、さらに会社ごとにデータが異なれば、その分モデルも追加で必要になるため、現実的な運用は困難な状況にありました。しかし近年、生成AIの登場によって汎用モデルで多様なタスクを処理できるようになっています。SAP-RPT-1はこの流れを踏まえ、単一のモデルで幅広い業務予測を可能にしました。追加学習を行う必要はなく、そのまま利用できる点も大きな特長です。企業は複雑なモデル構築の負担を軽減し、迅速に予測機能を業務に取り込めます」

 また、SAPシステムを構成するプログラミング言語「Advanced Business Application Programming」(ABAP)開発を効率化する生成AIモデル「SAP-ABAP-1」をリリース予定だ。SAP-ABAP-1は、開発者向けツール「SAP Joule for developers」で利用されていた機能をAPIとして汎用的に利用できるようにするものだ。既存の古いABAPコードから最新のコードまで幅広く対応し、新しいコードを自動生成することで開発の生産性を大きく向上させる。

 さらに、SAP Joule for developersには新機能「カスタムコードマイグレーション」機能が追加される。従来、「SAP ERP」から「SAP S/4HANA Private Cloud Edition」への移行に際して、修正が必要なカスタムコードの特定はできたが、具体的な修正方法については開発者が時間をかけて調整する必要があった。カスタムコードマイグレーション機能では、AIが修正すべき箇所に対してどのように直せばよいかを提案するため、移行作業の効率が向上する。

自社の業務に合わせたAIエージェントを
ローコード/ノーコードで作成できる

 AIに関する新ソリューションとして、AIエージェントに関するアップデートも発表された。カスタムAIエージェントを開発できる「Joule Studio」をリリースする。Joule Studioでは、新規にカスタムAIエージェントを開発するだけでなく、標準のAIエージェントを拡張することも可能だ。開発はローコード/ノーコードで行えるため、専門的なプログラミング知識がなくても、自社業務に合わせたAIエージェントを構築できる。

本プレスセミナーではJoule Studioのデモも実施された。対話型のコパイロット「Joule」と会話しながらAIエージェントを開発できるという。

 さらに外部システムとの連携も容易に行える。「当社のAIエージェントのみでは、お客さまの全ての業務プロセスを網羅することは困難です。そのため2025年春ごろにGoogle Cloudさまが主導して発表したベンダー間のエージェント連携規格『Agent2Agent プロトコル』(A2Aプロトコル)の立ち上げに、当社も主要メンバーの一社として参画しました。このA2AプロトコルをJoule Studioでも提供します。さらに外部のMCPサーバーへのアクセスが可能となり、2026年上半期にはSAPアプリケーション自体にMCPサーバーとしてアクセスできる機能を追加する予定です。こうした機能により、標準AIのエージェントやカスタムAIエージェントが他社のAIエージェントと連携可能になります」(本名氏)

 AIエージェントのスケールアウトが見込まれる中、SAPではガバナンスを確保するための管理機能をリリースするという。IT資産管理ツール「SAP LeanIX」に、企業内のAIエージェントを一括管理する機能「AI Agent Hub」を追加する。AI Agent Hubを利用することで、どの業務領域でどのAIエージェントが稼働しているのか、実際に利用されているのか、さらにそのAIエージェントがどのベンダーのものなのかを把握できる。

 加えて、AIエージェントが業務を実行した際に、人によるオペレーションなのか、AIエージェントによるものなのかをプロセス単位で可視化することも重要だ。この課題に対応するため、プロセスマイニングツール「SAP Signavio」に新機能「エージェントマイニング」機能を追加する。この機能により、AIエージェントが業務プロセスにどのように関与しているかを自動的に記録・分析でき、企業はプロセスの透明性を高めながらAI活用を進められるのだ。

SAPとSnowflakeが提携し
双方向のデータ連携を実現

SAPジャパン
Business Data Cloud
ソリューションアドバイザー
エキスパート
椛田后一

 続いてデータ基盤に関する機能拡張を見ていこう。SAPは2025年11月4日、Snowflakeとパートナーシップを締結した。この提携による機能強化ポイントは二つある。

 一つ目は、フルマネージドSaaSソリューション「SAP Business Data Cloud」のコンポーネントとして「SAP Snowflake」を提供する点だ。SAP Snowflakeでは、Snowflakeが提供するクラウド型データプラットフォーム「Snowflake」のフルマネージドデータおよびAI機能を利用できる。ライセンスはSAPから提供され、問題発生時のサポートもSAPが一括して対応するため、企業は安心して導入可能だ。提供開始は2026年第1四半期(1~3月)を予定している。

 二つ目は、SAPデータと外部クラウドをつなぐコネクター「SAP Business Data Cloud Connect」の機能拡張による、Snowflakeとのゼロコピー連携だ。これにより、SAP Business Data CloudとSnowflake間で、物理的なデータコピーやETLツールを必要せず、双方向のデータ連携を実現する。既存のSnowflakeユーザーはSAP Business Data Cloudを導入することでSAPデータをSnowflake上で容易に利用でき、またSAP Business Data Cloud上でもSnowflakeのデータを活用可能だ。提供開始は2026年上半期(1~6月)を予定している。

 SAPジャパン Business Data Cloud ソリューションアドバイザー エキスパート 椛田后一氏は、ゼロコピー連携によるメリットをこう語る。「データマネジメントのトレンドとして、従来は異なるシステムのデータを物理的に1カ所に集める『中央集権型データ管理』が主流でした。しかし、現在はデータ品質とガバナンスを担保することを目的に、『分散型データ管理』へとシフトしています。分散型データ管理は、各システムや組織がそれぞれのデータを管理したまま、必要な時に直接参照する仕組みです。ゼロコピー連携を活用すれば、データを正しい品質で管理している場所に置いたまま利用できるため、組織全体で常に最新かつ正確なデータを、AIや分析ツールで利用可能になります」