アドビが提供する「Adobe Acrobat Sign」(以下、Acrobat Sign)は、法的に有効な2種類の署名方法を提供するクラウド型電子サイン・電子署名ソリューションだ。多様な署名シナリオに対応するだけでなく業務プロセス全体のデジタル化にも寄与できるというAcrobat Signの活用メリットを聞いた。
一切の改ざんを認めない
「証明用署名」を提供

デジタルメディア事業統括本部
営業戦略本部
ドキュメントクラウド戦略部
ビジネスデベロップメントマネージャー
岩松健史 氏
電子契約の市場は、コロナ禍を契機に急速に拡大したと振り返るのは、アドビ デジタルメディア事業統括本部 営業戦略本部 ドキュメントクラウド戦略部 ビジネスデベロップメントマネージャーを務める岩松健史氏。「当時はテレワークの普及に伴って、紙の契約書から電子契約にすぐに移行したいというニーズが爆発的に増え、導入が大きく進みました。しかし、現在はこのような単発的な導入ではなく、業務システム全体の電子化を実現する際に、電子契約を組み込むような動きが増えているようです」と語る。
その電子契約において用いられるのが、電子サインや電子署名だ。アドビではこれらの署名機能を、「スタンプ」機能「クラウド型電子サイン」「デジタル署名(電子署名)」機能の三つに区分している。
スタンプ機能は紙の書類に対する印鑑や直筆署名に当たるものだ。PDF作成・編集が行える「Adobe Acrobat」(以下、Acrobat)で使える機能であり、電子契約の法的有効性はないものの、書類を確認したことを示すゴム印のような用途で日常的に活用できる。クラウド型電子サインは日常的な営業契約や注文・請求書処理などの広範囲な文書に利用可能だ。「Acrobat Signには一つ特長があります。日本の電子サインソリューションの多くは『立会人型』という事業者署名型の電子サインの機能を提供しています。これは電子サインのサービス提供事業者(第三者)がPDFに電子署名を付与する仕組みです。PDFに付与される署名証明書の方式は、ISOの国際標準規格で2種類定められています。一つ目は承認証署名(普通署名)で、一般的な立会人署名がこれに当たります。Acrobat Signは、メールアドレスとパスワード、電話番号などの二要素認証により本人性を担保する“証跡保管型”として、この電子サイン機能を提供しています。二つ目は証明用署名(MDP署名)であり、文書の完全性を保証するための署名です。これはPDFに対して一つしか付けられず、署名後は一切の変更ができません。将来的な技術進化で改ざんが試みられても改ざん検知が可能で、信頼性が高い署名方法です。Acrobat Signでは認証局発行の署名者名義の電子証明書によって本人性を担保する電子署名機能を提供しており、高い法的有効性をもつ文書への電子契約に証明用署名を利用できます。この方式を採用している国内の電子契約サービスは当社以外ではあまり見られません」と岩松氏は語る。
電子帳簿保存法に対応した
ワークフロー効率化に寄与
Acrobat Signによる署名の流れは以下の通り。まず、署名依頼者がAcrobat Signのクラウド上にアップロードを行う。Acrobat Signに契約をする必要があるのは、この依頼者側のみであり、署名者は不要だ。署名者に対して署名依頼メールが送付されると、署名者はクラウド上にある文書にアクセスし、確認、署名が行える。Webブラウザー経由で使えるため、場所やデバイスを選ばず署名対応が可能だ。もちろんクラウド上のデータはAES-256暗号化によって保護されている。
Acrobatの標準機能でも電子サインや電子署名は行えるが、Acrobat Signとの機能の違いは何だろうか。岩松氏は「AcrobatはPDFの作成や編集、電子署名機能を提供しますが、外部連携などの高度な機能はありません。一方、Acrobat Signは、業務システムとの連携が可能です。セキュリティ設定、共有機能なども備えていますので、企業の業務プロセス全体の効率化を支援できます。例えば、奈良県庁の給付金電子申請システムにAcrobat Signが導入されていますが、これは申請の受領、審査、デジタル署名による通知書の発行といった一連のワークフローを電子化し、より効率的で迅速なサービス提供の実現を狙ったものです。このようなワークフロー全体を電子化する上でのキーパーツの一つとして、Acrobat Signが有効です」と語る。
実際、直近でAcrobat Signを導入する企業の多くは、ワークフローの効率化を目的としているケースが多い。アドビはAcrobat Signに「Microsoft Power Automate」を組み込んでおり、標準機能として文書管理との連携などのフロー実装が可能。本機能を活用することで電子帳簿保存法への対応も容易になる。

公正証書のデジタル化にも
Acrobat Signが活用される
Acrobat Signは、日本の「政府情報システムのためのセキュリティ評価制度」(ISMAP)に登録されている。政府のセキュリティ要件を満たしているため、ユーザー側は安心して利用が可能だ。前述した奈良県庁などの地方自治体をはじめ、デジタル庁の協力覚書取り交わしにもAcrobat Signが採用されており、その信頼性の高さがうかがえる。
「2025年10月に、公正証書の作成手続きの電子化が開始されました。これまでは当事者が公証役場に足を運ぶ必要がありましたが、外出困難者や高齢者にとってはハードルが高いという課題がありました。今回の改正公正証書の施行によって、Web会議やPDF、電子署名を用いることで、公正証書の作成を行うことが可能になりました。この公正証書に対する電子署名に、Acrobat Signが採用されています。日本公証人連合では当社のAcrobat SignとAcrobatを全国の公証役場に導入し、本格運用をスタートしています。公正証書は法的な強制力を持つ文書であり、改ざん防止や長期保存が求められます。Acrobat SignとAcrobatの組み合わせによって、高度な電子署名や本人確認機能、監査証跡、国際基準を満たすセキュリティなどを提供することで、公的文書に不可欠な信頼性を提供すると同時に、オンラインでの署名プロセスを円滑に統合でき、公正証書の電子化をサポートします」と岩松氏。
また、アドビは「eシール」への対応も進めている。欧州では、企業や組織が電子文書に付与する電子印章としてeシールの運用が広がっており、日本国内でも総務省が制度設計や認定基準の策定を進めている。Acrobat Signには、このeシールを自動で付与する機能を提供しているという。岩松氏は「eシールの導入により、企業間の契約プロセスがさらに効率化できることが期待されています」と語る。
今後の電子契約の普及に向けて、Acrobat SignでのAI機能の強化も検討している。AIを活用して契約書を管理することで、契約書のリスクや契約更新が必要なものに関しての洗い出しを行うような活用を想定している。電子契約のみならずワークフロー全体の効率化を実現するAcrobat Signの進化に、今後も注目したい。


