川上泰明さん/樋口紗月さん
株式会社Geolonia事業開発部エンジニア。大学ではコミュニケーションテクノロジーを専攻。シビックテック活動を通じて「地図が社会課題解決に役立つ」と実感し、地図分野に携わる。Georepublic Japanに入社し、エンジニアとして勤務。同社のGeoloniaへの事業譲渡に伴い、2025年7月にGeoloniaに入社。現在、自治体対応を担当。
樋口紗月さん(写真左)
株式会社Geolonia事業開発部エンジニア。コンサルティング会社でWebサイトの運用などを経験後、2023年10月にGeolonia入社。自治体向けのアプリケーションの開発を担当後、現在は子ども向けの「地図ぼうけんラボ」の開発を担当。
https://www.geolonia.com/

オープンなデジタル地図を市民が自由に活用
──最初に、株式会社Geoloniaがどんな会社か、概要を教えてください。
川上 Geoloniaは「地図をインフラに」をミッションとして掲げ、デジタル地図の配信や、それをどう見せるか、どのような情報を載せるかといった技術開発を進めている企業です。最大の特徴は、オープンな地図データを使って、高速な表示やカスタマイズ機能を備えた独自の地図サービス、ジオロニアマップ(Geolonia Maps)を提供していることです。
自由に編集できる地図はこれまでもありましたが、従来の地図を利用するにはある程度の技術が必要でした。そこをジオロニアマップでは、「これ、地図で見られたら嬉しいな」と思った時に、誰でも簡単に、素早く地図上に表示できるようにしています。例えば、地図のどのような要素を強調したいかなど、地図のコンセプトもお客様がカスタマイズできるようになっています。
こうしたオープンな地図をご利用いただくことで、シビックテック(Civic Tech)というか、市民がデジタル技術を活用して、地域の抱えるさまざまな社会的な課題の解決を目指すような動きが起こるといいなと思っています。
樋口 近所で子どもが遊べる場所と、災害が起きた時にどこに逃げるかを地図上に同時に表示したいというような場合、避難所とか洪水になりやすい場所も同時に表示することもできます。そういう要望がお客様ごとに変わってくるので、そういうことも含めて自由にカスタマイズできる方法を我々が提供するという感じです。
──Geoloniaの地図データには他社とは違う特長はありますか。
川上 Geoloniaの地図は表示速度が速いことが特長です 。「タイル化」という技術を利用しており、地図全体を読み込むのではなく、表示する部分のデータだけを軽量化して読み込むことで、高速表示を実現しています。
──地図データを誰でも使えるようにオープンに提供されているということですが、収益はどのようにしてあげているのですか。
川上 公開している地図データは基本的には無料で使っていただけますが、大量アクセスや特定の用途で負荷がかかる場合には課金させていただいています。また、自治体や企業から提供されたExcelなどのデータを地図に変換する支援業務なども行っており、そうした業務で費用をいただいています。Geoloniaの顧客は地方自治体が中心ですが、国の省庁や民間企業にもご利用いただいています。
ちなみに、ジオロニアマップにもライセンスがありまして、表示したときに必ずクレジット表記を入れるのがルールになっています。

自治体の地図を標準化する「地理空間データ連携基盤」
──今回、Geoloniaが内閣府の「地理空間データ連携基盤」第2版の執筆を担当されたとのことですが、「地理空間データ連携基盤」とはどのようなものですか?
川上 「地理空間データ連携基盤」は、異なるシステムや組織に分散する地理空間データ(位置情報を持つデータ)を、標準化された形で集約・変換し、APIで配信することで、誰もが簡単にデータの連携・活用・アプリケーションやサービスの開発をできるようにするシステムです。自治体では、防災、福祉、都市政策などの分野で個別の地図が利用されており、そのフォーマットもPDFやExcelなどバラバラの形式で公開され、利用者には分かりにくい状況でした。
それらを整理し、地理空間データのフォーマットを統一し、課や分野などをまたいだデータ連携を行うことで、社会課題の発見や解決に向けた合意形成を促進することを目的としています。
デジタル地図の活用基盤の似たようなものとして、国土交通省の「Project PLATEAU(プロジェクト・プラトー)」というものがありますが、大きな違いは「Project PLATEAU」が建物などの構造物を含めた3Dの都市モデルを扱うのに対して、内閣府の「地理空間データ連携基盤」は、国土交通省国土地理院の「電子国土基本図」をベースとした2Dの地図データであることです。「地理空間データ連携基盤」は、各自治体が持つ既存のデータの標準化を図り、それをつなぎ合わせるようなイメージです。
各自治体は、さまざまな部門で非常に多くの地図データを持っているのですが、公開の仕方が分からなかったり、専門の企業に頼むとけっこうな費用が発生したりということがあります。そこで担当者の方が業務で作成したものを連携し、そのデータを活用できるようにするために使うのが「地理空間データ連携基盤」です。
樋口 具体的には、高松市で地図を使った業務を担当されている方と打ち合わせさせていただいた中で、あらゆる地図データを一つのプラットフォームに集約する仕組みである「地理空間データ連携基盤」を作りました。


スマートシティ実現のベースになる地図データ
──「スマートシティ」や「都市OS」と、「地理空間データ連携基盤」はどのような関係にあるのですか。
川上 「スマートシティ」は簡単にいうと、「ICTを活用して社会のさまざまな問題を解決して、生活の質を向上させた持続可能な都市」ということになると思います。
こうした取り組みのデータ連携基盤が「都市OS(Operating System)」で、さまざまなデータを管理・運用する仕組みのことです。「地理空間データ連携基盤」は、この都市OSの重要な中核機能と位置づけられています。
川上 都市OSの候補として今注目されているものとして、欧州発の「FIWARE」があります。FIWAREは、防災、交通、観光など多様な分野のデータを収集・蓄積・分析し、分野を超えたデータ連携やサービス連携を可能にする、オープンソースのソフトウェア群(プラットフォーム)の総称です。EUの官民連携プログラムで開発されたもので、IoTや都市のリアルタイムデータを共通のインターフェースで扱うための基盤として機能するというものです。
FIWAREを使うと、例えば大きな川に設置したセンサーが大幅な水位上昇を感知したら、それをどの部署の誰に連絡するかということがあらかじめセットされていて、自動的に行ってくれます。日本でもいくつかの自治体で導入されています。
──「地理空間データ連携基盤」が整備されたことで、これから各自治体から様々な地図データが公開されることが期待されますが、地図データを公開するメリットとデメリットは、どんなことがありますか。
川上 メリットは誰でも地図を活用でき、それが新しいサービスやアプリの創出につながることです。
一方、デメリットとしては、地盤の弱さや災害リスクなどを地図上に示して公開することによってそこの住民や不動産価格に影響を与える可能性があります。従って、地図を公開するにあたっては、プライバシーやセキュリティへの配慮も欠かせません。市民の安全や公共性を最優先にしながら、活用の幅を広げていくことが大切だと思います。

樋口 具体的な事例として、Geoloniaが香川県高松市や静岡県焼津市に提供させていただいている「高松市スマートマップ」「焼津市スマートマップ」があります。
「高松市スマートマップ」では、施設情報をデジタル地図、および都市情報APIとして公開‧配信しているほか、行政が保有するGIS(地理情報システム)データや防災用のセンサーデータ、香川県が公開しているハザードマップデータ、オープンデータなどを統合した防災アプリとして公開しています。
デジタル地図が持つさまざまな可能性
──これからのデジタル地図活用の可能性についてどのようにお考えですか。
樋口 デジタル地図のデータは、防災や都市計画はもちろん、観光、自動車の自動運転、さらには教育やゲームにも応用できます。自治体からの要望で一番多いのはやはり防災です。
日本は災害が多い国なので、防災分野での地図活用は最も重要だと思います。避難所の稼働状況やセンサーデータをリアルタイムに地図に反映させることで、どの避難所に行くのがいいのかなど、リアルタイムで命を守る情報を分かりやすく届けることが可能だと思います。
──地図データの活用事例として、Geoloniaが提供している「地図ぼうけんラボ」について教えていただけますか。
樋口 「地図ぼうけんラボ」は、小学生から高校生までを対象とした、デジタル地図とプログラミングを組み合わせた教育アプリです。ブロックを組み立てるだけでプログラミングができるというソフトウェアをベースに、地図の知識を入れて、自分でハザードマップや地図を使ったゲームなどが作れるような仕様になっています。
「地図ぼうけんラボ」は子どもたちが楽しみながらプログラミング的思考力や地理的視点を養い、地域への理解を深めることを目的としたアプリなので、子どもたちの自由な発想で、地域や社会が抱える課題に関わるきっかけになったらいいなと思っています。


──最後に、これからの展望について教えてください。
川上 地図には人々に行動を起こさせる力があると思います。地図に表示されたことによって、地域社会が抱える課題が見える化されたり、さまざまな活動への市民参加を促したりすることができます。
ですから、スマートマップによって、市民や行政が簡単に情報を共有できる仕組みづくりができたらいいなと。市民参加型のオープンデータ活用が全国に普及していくことで、最終的には「地図を誰もがアクセスでき、使いこなせる公共インフラとして確立していくこと」が私たちの目標です。
