最新クラウド戦略を年次イベントで発表
モダンプライベートクラウドが描く未来像
2025年10月29日、Broadcom VMware部門(VMware by Broadcom)は国内向け年次イベント「VMware Explore on Tour in Tokyo」を開催した。基調講演とプレス/アナリスト説明会では、同社が掲げる「モダン プライベートクラウド」のビジョンと、それを支える最新プラットフォーム「VMware Cloud Foundation 9.0」(VCF9.0)の詳細、さらにNECとの戦略的パートナーシップの強化などが発表された。
クラウドファーストからの転換点
クラウド最適化の新たな戦略軸

カントリーマネージャー
山内 光 氏
基調講演の冒頭、ヴイエムウェア カントリーマネージャーの山内 光氏は、エンタープライズITの潮流が大きく変化していることを強調した。かつて“クラウドファースト”が叫ばれた時代を経て、現在では多くの企業がオンプレミスへ回帰し、プライベートクラウドを再評価する動きが広がっているという。
「昨年、我々は事業戦略の再定義を行い、『エンタープライズITの未来はプライベートクラウドにある』と発表しました。日本を含めた世界1,800人のIT部門責任者を対象とした調査では、92%のお客さまがプライベートクラウドの重要性を、特にセキュリティやコンプライアンスの観点から高く評価しています。さらに、70%のお客さまが、パブリッククラウドからプライベートクラウドへの移行を計画、クラウド利用の最適化を検討されています」と山内氏は話す。
しかし、従来のプライベートクラウドには課題も残されている。コンピュート、ネットワーク、ストレージといったインフラが分断され、運用が複雑になりがちだ。こうした課題を解決し、パブリッククラウドのような俊敏性とオンプレミスの堅牢性を両立させるのが、最新プラットフォーム「VMware Cloud Foundation 9.0」(VCF9.0)である。「VCF9.0は、仮想化・抽象化技術によりコンピュート、ネットワーク、ストレージを束ね、サイロを解消します。そして、統合されたモダンプライベートクラウドを実現し、セキュリティ、コスト、管理性の三つの領域でパブリッククラウドを上回る価値を提供します」(山内氏)


VMware Cloud Foundation
ソリューションアーキテクチャ責任者
ポール・ダル 氏
続いて登壇したBroadcom VMware Cloud Foundation ソリューションアーキテクチャ責任者のポール・ダル氏は、VCF 9.0の技術的進化について解説した。VCF 9.0は従来の製品群を統合するだけでなく、運用を単一コンソールに集約し、インフラの展開、管理、トラブルシューティングを統合的に行えるよう設計されている。ダル氏は「VCF 9.0の導入により、お客さまはオペレーションを大幅に簡素化できます。例えば『VCF Import』機能を利用すれば、既存のvSphere環境やvSAN環境をダウンタイムなしでVCFの管理下に移行することが可能です。また、『Advanced Security』機能によって、サイバーリカバリーや運用の継続性を確保し、ランサムウェア対策を含む高度なセキュリティ機能をプラットフォームに組み込めます」と強調した。
NECとの戦略的パートナーシップ
長年の協業が結ぶ新たな展開

執行役 Corporate EVP 兼
デジタルプラットフォームサービスビジネスユニット長
木村哲彦 氏
本イベントのハイライトの一つが、NECとの戦略的パートナーシップ強化の発表である。両社は20年以上にわたり協業関係を築いてきたが、今回はNECが自社基幹システムにVCFを全面採用し、その運用知見をマネージドサービスとして顧客に提供するというより具体的な展開が示された。
プレス/アナリスト説明会では、NEC 執行役 Corporate EVP 兼 デジタルプラットフォームサービス ビジネスユニット長の木村哲彦氏が登壇し、「クライアントゼロ」という考え方を背景に、今回の提携の意義を熱く語った。
「NECは官公庁や社会インフラを担う多くのお客さまを支えています。昨今のランサムウェア問題や障害対応、さらにソブリン(主権)クラウドを背景に、データ主権を守る必要性が一段と高まっています。こうした状況を踏まえ、クラウド依存に伴うリスク管理や、日本国内におけるプライベートクラウドの重要性が改めて注目されています。こうした状況に対応するため、NEC自身が『クライアントゼロ』、つまり0番目の顧客としてVCFを導入し、基幹システムのモダナイゼーションを実践します。そして、そこで培った構築ノウハウや運用スキルを、価値創造モデル『BluStellar』に組み込み、お客さまへ提供していきます」
NECは2025年10月より、VCFを基盤とした新サービス「NEC Private Cloud Infrastructure powered by VMware」の提供を開始している。NECのデータセンター内に構築されたVCF環境を月額料金のマネージドサービスとして提供するものだ。顧客のプライベートクラウド構築に必要なリソースを供給することで、柔軟性の高いクラウド環境の実現を支援する。
生成AIが支える運用革新
ユーザーの業務負荷を軽減

VMware Cloud Foundation
Private AI グローバル責任者
クリス・ウォルフ 氏
モダンプライベートクラウド基盤の整備が進む中で、企業が直面する次なる課題は、爆発的に増大するAIワークロードをいかにセキュアに、かつ自社の統制下で運用していくかという点にある。この課題を解決する鍵となるのが「Private AI」だ。Broadcom VMware Cloud Foundation Private AI グローバル責任者 クリス・ウォルフ氏は、AI活用における“データのプライバシー”と“選択の自由”の重要性を説いた。
ウォルフ氏は「Private AIは、データをパブリックモデルに渡すのではなく、AIモデルをデータの存在するプライベート環境に展開するアプローチです。これにより、データプライバシーを確保しながらAIを活用できます。また、Broadcomはオープンエコシステムを重視し、インテル、NVIDIA、AMDといった多様なハードウェアアクセラレーターをサポートします。VCF上では基盤となるハードウェアが変わってもソフトウェア更新のみで対応可能であり、サイロ化を防止できます」と説明する。
本イベントでは「VCF Intelligent Assist」という生成AI機能も披露された。システムのログやメトリクスをAIが分析し、トラブルシューティングを対話形式で支援するものだ。例えば「データベースのレスポンスが悪い」と入力すると、AIが関連するGPUの負荷状況などを即座に特定し、「vMotionでワークロードを移動すべき」といった具体的な解決策を提示して実行までサポートしてくれる。

「モダン プライベートクラウド」への回帰は、単なる揺り戻しではない。クラウドの俊敏性とオンプレミスの主権・経済性を両立させ、さらにAIという新たな武器を自社の統制下で使いこなすための、企業の戦略的な選択と言えるだろう。VCF 9.0は、そうした戦略的なプライベートクラウド移行を支える技術的基盤となる。Broadcomでは、日本市場におけるハイブリッドクラウドの再定義を着実に進め、その未来像を具体化していく。

