水冷技術で持続可能なAIデータセンターへ
レノボとニデックが描く水冷ソリューションの展望

2025年10月28日、レノボ・エンタープライズ・ソリューションズとニデックは「AIデータセンター向け水冷ソリューションの共同プロモーションに関する記者説明会」を開催した。急速に拡大するAI需要に伴い、データセンターの電力消費や冷却効率が大きな課題となる中、両社は環境負荷を抑えた持続可能な運用に向けた姿勢を示した。さらに、日本市場での展開や新規顧客開拓に向けた方針も語られ、次世代インフラの可能性が提示された。

AI需要拡大が示す課題
データセンターの新局面

レノボ・エンタープライズ・ソリューションズ
代表取締役社長
張 磊

 近年、AIの活用は急速に拡大し、企業の投資額は前年比で2.8倍に増加している。生成AIの導入率も2024年は11%だったが、2025年には42%へと急伸し、業務効率化への期待が高まっている。こうした背景のもと、AIを支えるデータセンターの高性能化と大規模化が進み、数千台規模のAIサーバーが設置されるケースも珍しくなくなった。

 一方で、AI演算に伴う電力消費は深刻な課題である。世界の電力使用量の最大3%をデータセンターが占め、そのうち冷却に要する電力は最大40%に達する。日本国内でもAI需要増加に伴い、2030年までに電力需要が3倍に増加すると予測されている。従来の空冷方式では、GPUが発する摂氏100度近い高熱に対応することが難しく、冷却効率と環境負荷の両立が求められている。

 こうした状況を踏まえ、レノボ・エンタープライズ・ソリューションズ 代表取締役社長の張 磊氏は「AI活用が急速に広がる中で、演算負荷の増大が電力消費と発熱を押し上げ、データセンターでは冷却効率の改善が喫緊の課題となっています。我々は水冷を核としたソリューションでこの課題に応え、環境負荷を抑えつつ、次世代のAI活用を支える持続可能なデータセンター基盤を提供します」と説明する。

温水冷却が切り拓く未来
Lenovo NeptuneとCDUの相乗効果

レノボ・エンタープライズ・ソリューションズ
プロフェッショナルサービス本部
本部長
野上友和

 レノボ・エンタープライズ・ソリューションズでは、長年にわたり液体冷却技術「Lenovo Neptune」を開発してきた。Lenovo NeptuneはCPUやGPUなどの主要コンポーネントを最大45度の温水で冷却が可能な温水方式を採用している。これにより、最大100%の熱除去率を達成し、データセンター全体のエネルギー使用を最大40%削減できる。この温水冷却方式により、空冷方式では常時稼働させる必要があったサーバーファンを不要とし、10〜15%の電力削減を実現することが可能だ。サーバールーム内に放出される熱も削減できるため、冷房システムにかかる電力を減らし、データセンター全体の省エネにもつなげられる。

「Lenovo Neptuneは冷却媒体として純水を採用しています。一般的に使われているグリコール系冷却液は粘性が高く、循環に大きな電力を必要としますが、純水を使うことでポンプ効率を高め、より少ない電力で冷却を実現できます。こうした純水による冷却は、データセンター全体の電力使用効率(PUE:Power Usage Effectiveness)改善に非常に有効であり、日本市場における電力コストや環境負荷の課題を解決する重要な手段になると考えています」とレノボ・エンタープライズ・ソリューションズ プロフェッショナルサービス本部 本部長の野上友和氏はアピールする。

Lenovo Neptune冷却技術を搭載した「ThinkSystem 直接水冷サーバー」。
ニデック
執行役員
小型モータ事業本部
副本部長
田中裕司

 一方、ニデックは精密モーター事業で培った高度な制御技術と精密加工技術を応用し、冷却液分配装置(CDU:Coolant Distribution Unit)の分野で世界トップクラスの実績を持つ。ニデックのCDUは液漏れ防止技術や冗長設計を備えており、これらの信頼性を基盤に、ラックに直接組み込むIn Rack型をはじめ、設置環境や規模に応じて対応可能な多様なラインアップを展開している。2024年には7,000台以上のCDUを出荷し、国内外の大規模データセンターで採用されるなど、信頼性と堅牢性を確立してきた。こうした豊富な実績に裏付けられ、安定した冷却性能と長期運用に耐える信頼性を提供するとともに、Lenovo Neptuneの温水冷却技術との組み合わせにおいても高い親和性を発揮する。

 ニデック 執行役員 小型モータ事業本部 副本部長の田中裕司氏は次のように話す。「当社はモーター事業で培った技術基盤を応用し、冷却ソリューションの開発においても精度と安全性を追求しています。CDUの分野でも、さまざまな設置環境で安心してご利用いただける信頼性を確立しています」

 今回の協業では、In Rack型のCDUを第1弾として提供する。4Uサイズのラックに収まるコンパクト設計ながら、高出力の冷却能力を備えている。

ニデックが提供するIn Rack型のCDU。

水冷普及の加速を目指す
次世代インフラへの挑戦

 こうした両社の技術的な強みは、単独で完結するものではなく、組み合わせることでさらに大きな価値を生み出す。張氏は両社の技術融合について「Lenovo Neptuneの温水冷却技術とニデックさまのCDUの堅牢な分配設計を組み合わせることで、日本のデータセンターに“長期安定稼働”と“導入容易性”という新しい価値を提供します。これにより、電力消費の削減だけでなく、設置スペースの最適化や運用コストの低減にも直結します。さらに、AIやHPC(High Performance Computing)といった高負荷ワークロードに対応できる拡張性を備え、持続可能な社会の実現に貢献します。両社の協業は、国内市場における水冷エコシステムの普及を加速させ、次世代インフラの標準を形づくる大きな一歩になると確信しています」と強調する。

 説明会では、両社が共同で推進するプロモーションの具体的な内容も発表された。 まず、日本市場での認知度向上と需要喚起を目的とした「Neptune集中キャンペーン」を展開し、両社の技術的優位性を訴求することで、高い冷却効率と電力効率を顧客に提示する。そして、新規顧客の開拓を通じて水冷ソリューションの普及を加速させるという。

 最後に、AI時代のデータセンターにおける水冷ソリューションの普及に向けた期待を込めて、「急速に拡大するAI需要を背景に、電力効率と環境への配慮はこれまで以上に重要です。AI時代のデータセンターに不可欠な高効率かつ高信頼の冷却ソリューションを通じて、ニデックさまと共に、持続可能な社会の実現に貢献していきます」と張氏は意気込みを語った。