GIGAスクール実践校現地リポート
1年間の1人1台端末活用で学びはどう変わった?

PC-Webzine 2021年8月号に導入初期編、2022年1月号に導入中期編が掲載された本企画も、最終回となる後期編となった。1年間の活用を振り返るため2022年3月に実施した取材からは、コロナ禍とともに急速に進んだ1人1台環境による学びの姿が見えてきた。


本連載の導入初期編で最初に振り返ったのが、新型コロナウイルスの感染拡大に伴うGIGAスクール構想の計画前倒しについてだった。新型コロナウイルスはさまざまな被害を出している一方で、この非常事態に対応するためあらゆる業種・業態でさまざまな工夫も見られる。その最たるものが、ICTの活用といえるだろう。

 2021年度の教育現場は、そのICTツールが一気に整備された段階にあった。1人1台の情報端末と高速大容量のネットワークを活用し、どう学んでいくかといった議論が、さまざまな教育委員会、学校現場で重ねられた。それを後押ししたのもまたコロナ禍だった。日常的な授業だけでなく、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い発生した臨時休業や学級閉鎖に対応するため、1人1台端末を活用したオンライン授業(学習)に取り組む学校も多く見られた。皮肉なことではあるが、コロナ禍だからこそ教育現場で多様なICT活用のシーンが生まれたともいえる。

オンライン授業への取り組みが加速

 本企画で取材をした三つの自治体の学校現場も、例外なくオンライン授業(学習)への準備や実践を進めていた。児童生徒の集中力の問題や、家庭の通信環境の課題から、全ての時間でWeb会議ツールを活用した双方向型の学びを実践した例はなかったが、オンライン型のドリル教材を活用した自学自習や、朝の会(ホームルーム)の時間は双方向型のやりとりを行うなど、さまざまな工夫の上で学びを止めないための取り組みが進められていた。

 一方で、その取り組みの中で課題も見えてきた。授業をオンラインで配信する場合、別途高性能なカメラやマイクが必要なケースがあるなど、円滑なオンラインでの学びを実践する上では追加の環境整備も必要なようだ。

 1年間の活用を通して、児童生徒はもちろんのこと、教員のICTスキルも飛躍的に向上していた。学習効果の高い場面で適切に端末を活用しつつ、1人1台端末があるからこそできる授業作りに取り組むなど、これまでの授業スキルを基に、個別最適化の学びや、より創造的な学びへと、新しい学習指導要領に準拠した授業へ自然と変化していた。またOSが異なることによる学習環境の差は特に見受けられず、どの端末を選択しても学校現場の指導により、同じ水準での学びが行えていた。

 学校現場からはICT支援員など、授業作りも含めたICT活用のサポートを必要とする声も見られた。文部科学省による2018~2022年度の5カ年計画では、ICT支援員を4校に1人配置することを目標としているが、1人1台の端末環境がすでに整備された今、ICT支援員が複数の学校を持ち回りで担当するのでは十分なサポートが行えない。1校に1人のICT支援員整備に向けた取り組みも、今後求められそうだ。

録画機能で客観的視点を養う学び

Choice:Chrome OS

草津町教育委員会
導入中期編において、生徒自身の考えをChromebookでまとめて発表するようなアウトプット型の授業が目立った草津町立草津中学校。後期編となる今回では、その様子がさらに習熟したものになっていた。

草津町立草津中学校
3月半ばの取材だったが、「この時期としては珍しい」という本降りの雪となった。草津中学校も深く雪が降り積もって真っ白だ。生徒たちはこうした雪の日でも動きやすいジャージ姿で授業を受けている。

2人1組になって机を向かい合わせ、レノボ・ジャパン製コンバーチブルChromebook「Lenovo 300e Chromebook 2nd Gen」を構えて片方を撮影する。そんな授業風景が草津中学校の国語の授業で見られた。その後、一人ひとりが教壇に立って、教室中央に置かれた教員のChromebookに向かって語りかけ、新1年生へのメッセージを収録した。

 授業を担当した草津中学校 国語科教員の加藤義忠氏は「手軽に録画ができるようになったことで、客観的にその様子を確認できるようになりました。授業の中でもChromebookを使うことで資料を提示しやすくなり、多くの情報を生徒に対して共有できるようになりましたね」と語る。一方で、授業の中では紙とChromebookを併用しているため、授業の中でラグが生じてしまっている部分もあると話した。

 草津中学校では、新型コロナウイルス感染拡大に伴う休校はなかったものの、生徒の一部に濃厚接触者が出たことで、その生徒に対する授業のオンライン配信を行った。一方で、このオンライン配信によりChromebook単体だけでは授業の配信は難しいという課題も浮き彫りになった。黒板や教員の発話が、Chromebookに搭載されたカメラやマイクではきちんと生徒側に届かないのだ。草津中学校 教頭の木村雅士氏は「双方向型のオンライン授業をするためには、カメラマンやマイクで音声を収録するスタッフなど、普段より人員も機材も必要になります」と実施したからこそ見えた課題を語る。

「今後のオンライン授業実施の可能性を見据え、必要な整備や授業の仕方の工夫ポイントなどの洗い出しを進めていく予定です。また、3月からはLTE対応のUSBドングルの貸出もスタートしており、Wi-Fi環境がない一部の家庭でも授業のオンライン配信が視聴できるように環境の整備をスタートしています」と木村氏は語った。

 コロナ禍だからこその取り組みも実施した。文化祭と卒業式のオンライン配信だ。YouTubeの限定配信機能を利用し、保護者だけがアクセスできるライブ配信と、アーカイブ配信も実施した。非常事態が多い今だからこそ、ICTの活用が多様な方向で進んでいるといえる。

新入生に贈る言葉を動画で撮影し合い、客観的な視点から自身の話し方を見て修正を重ねていた。
3月からWi-Fi環境のない家庭には、LTE回線に対応したUSBドングルを貸与している。

工夫を重ねたオンライン学習・集会を実施

Choice:iPad OS

大牟田市教育委員会
導入中期段階でプログラミング学習や動画の編集作業など、非常に先進的な端末活用が見られた大牟田市立銀水小学校。しかし、そんな同校だがオンライン授業には懐疑的な姿勢を示す。その理由を聞いた。

大牟田市立銀水小学校
2019年度からプログラミング教育・ICT活用の研究を進めてきた銀水小学校では、校舎のさまざまな場所にプログラミング的思考を養うための掲示がある。取材日には校舎外にタブレットを持ち出し、春の様子を撮影する姿も見られた。

児童数が多い銀水小学校では、オミクロン株の拡大を受け、各教室の大型モニターとZoomを利用したリモート集会を実施した。一方で、こうしたリモートでの集会に銀水小学校 校長を務める城崎清彦氏は苦言も呈する。「全校集会には生徒指導の側面があり、Zoomによるリモート集会ではそれができないという課題があります。本校では全校を低学年と高学年に分け、2回に分けて全校集会を行うなどの工夫を講じていましたが、緊急事態宣言やまん延防止等重点措置によりリモート集会に切り替えました」

 こうしたオンライン化により抜け落ちてしまう要素は、オンライン授業に対してもいえる。「まず45分フルの授業時間をオンラインで行うのは集中力の問題で難しく、教室の黒板に書いた内容をオンラインで配信するにもiPadだけでは不十分です」と城崎氏は指摘する。学級閉鎖に伴いiPad(第7世代)を持ち帰り、家庭と学校をつなぐ学びは行ったものの、銀水小学校ではその学びをオンライン授業とは呼称せず“オンライン学習”と表現した。あくまで双方向的なやりとりをするのは10~15分間行う朝の会と帰りの会のみで、その後は伝えたスケジュールに合わせてAppleの教育アプリケーション「スクールワーク」を使って課題を配布し、児童はそれに取り組んで提出するスタイルのため、誤解を招かないようにしたいと考えたからだ。

 こうした端末の持ち帰りを、将来的には夏休みの家庭学習などにも活用させたい考えだ。家庭に持ち帰れるようになることで、絵日記をiPadで書くといった文房具的な活用が、さらに深まることが期待できる。

 1年間の端末活用を振り返って城崎氏は「コロナ禍だからこそチャレンジできた取り組みが多いですね。これまではプログラミング教育を中心に取り組んできましたが、来年度からはプログラミング的な思考を生かし、基礎学力の向上に取り組んでいきます。またiPadはあくまで教員の教え方を補完する道具ですので、教え方の本質を見失わないように、指導力の向上にも力を入れていきたいですね」と語った。

タブレットでワークシートに取り組む様子。タイマーをiPad上に表示することで問題を解く時間なども把握できる。
自習の時間にも手元のiPadで都道府県についての調べ学習を行い、それをスライドにまとめる姿があった。
リモート全校集会では、城崎氏が所有する一眼レフカメラや新たに導入した映像ミキサーを活用して、クオリティの高い映像を子供たちに届けた。

Teamsでのコミュニケーションが活性化

Choice:Windows

柏原市教育委員会
導入中期編での取材の際、柏原市ではすでに端末を家庭に持ち帰る環境を整えていた。オミクロン株が流行した第6波では、その環境をフル活用し、授業のライブ配信などにも取り組んだという。

日本HP製コンバーチブルPC「HP ProBook x360 11 G5 EE」を導入した柏原市教育委員会では、新型コロナウイルスのデルタ株流行時から学級閉鎖などに備えて、端末の持ち帰りを試験的に実施していた。それをさらに加速させたのが、オミクロン株の流行による休校や学級閉鎖による対応だ。

「オミクロン株の流行で、柏原市においても2022年1月以降臨時休業となる学校が多数発生しました。すでに端末を持ち帰る環境を整えていたため、多くの学校でオンライン型ドリル教材『ラインズeライブラリアドバンス』を活用して問題を解いたり、Microsoft Teams(以下、Teams)を活用して朝の学活で健康チェックを行ったりと、学びを止めないための取り組みが実施されました。以前と比較してTeamsの活用は大きく増えましたね」と柏原市教育委員会教育部 指導課 指導主事の菰池孝彰氏。

 また、授業風景をオンラインで配信するハイブリッド型の授業の取り組みも出てきている。授業配信は整備されているコンバーチブルPCを使い、黒板や授業を行う教員などを撮影して実施しているケースが多いようだ。菰池氏は「現場で実際に実験しましたが、コンバーチブルPC単体で教員の声を聞き取りながら黒板を見ることは十分可能でした。学校によっては独自にマイクやカメラを用意しているケースもあるかもしれません」と話す。

 端末を家庭に持ち帰って運用するノウハウは、今後夏休みなどの長期休暇に端末を持ち帰って学習をする取り組みに生かしていくことも検討している。

 これまであらゆる場面で端末の活用を進めてきた柏原市。2022年になってからはその段階を終え、ICTを活用する場面と、手書きなど紙ベースでの取り組みが良い場面をどう使い分けることが効果的かといった仕分けにも取り組んでいる。

「ICTを使うことが目的になってはいけません。意見の共有にICTは最適ですが、手書きで書くことは特に低学年の学びに必要です。端末の使い方を考えることは、子供たちに何を考えさせるかといった、授業の考え方を見直すことにつながります。これからも必要な場面でICTを使い、柏原市の子供全体の学力を伸ばしていきたいですね」と柏原市教育委員会 教育部 指導課 指導主事の川口裕之氏は展望を語った。

教員の研究協議にもタブレットを活用している。
付箋での意見共有にもデジタルツールを活用するなど、教員の日常的なICT活用が進む。
子供たちは互いに考えたことをタブレットで共有し、それをもとに交流も行う。