NEXT GIGAに向けた端末や教材が多数出展

 2025年8月7〜8日、第10回関西教育ICT展がインテックス大阪の2号館で開催された。保育園・幼稚園・認定こども園向けの専門展「チャイルドケア2025」も同時開催され、多くの教育関係者が訪れた。

 関西教育ICT展では、最先端のICT機器やソリューションの展示に加え、教育の情報科の最新動向から、現在教育現場で実践されているICT教育の取り組み事例などのセミナーが実施された。8日は隣の1号館で日経STEAM 2025シンポジウムも開催されるなど、教育関連のイベントでにぎわった。
さまざまな出展社が集結した2号館では「eラーニング・トレンド・コーナー」「設備コーナー」「デジタル教科書コーナー」といったコーナーのほか、NEXT GIGAに向けた学習者用、校務用の端末展示や、STEAM教育やプログラミング教材などが並び、訪れた教育関係者が熱心に話に聞き入っていた。

 特に目立っていたのがプログラミング教材だ。高等学校の情報科向けのロボットをプログラミングする教材や、小学校向けのロボット教材など実に幅広い。またSTEAM教育に注目が集まる中、「ものづくり」を実践できるデバイスとして、昇華転写プリンターやUVインク搭載プリンターなどにも注目が集まっていた。本記事では本イベントに出展された多様な製品やメーカーなどからいくつかピックアップして紹介していく。

第10回 関西教育ICT展

日本教育情報化振興会(JAPET&CEC)、大阪国際経済振興センター(インテックス大阪)、テレビ大阪、テレビ大阪エクスプロが主催する西日本最大級の教育ICT展示会。授業がない夏休みの時期に開催されるため、来場者の6割が教育関係者だという。2日合計で6,368名が来場し、デジタルトランスフォーメーション(DX)に向けて未来の教育を実現するサービスや製品に注目が集まった。

Pickup Products

ぷらっとホーム「EasyBlocksシリーズ」

ネットワークの困りごとを解決!

 校内ネットワークやICT環境整備の担当者向けにぷらっとホームが訴求していたのが、手間いらずで構築・運用できるネットワークアプライアンスサーバーのEasyBlocksシリーズ。障害時の問題切り分けや各種管理を行える「教育機関向けDHCPサーバー」と、専用のシスログサーバーでトラブルを早期に発見する「教育機関向けSyslogサーバー」を出展していた。いずれも5年間の無償サポートサービスが付随する。

エプソン販売「昇華転写プリンター」

子供たちのイラストからオリジナルグッズを作れる!
STEAM教育のものづくりにプリンターを活用

 さまざまなプリンターを提供しているエプソン販売は、STEAM教育向けの教材の一つとして昇華転写プリンター「SC-F150」を出展した。昇華転写とは、あらかじめ専用の紙にデザインをプリントし、インクで熱を気化させることで、転写したい素材に染み込ませるプリント方法だ。ポリエステル素材のTシャツやハンカチにもプリントができるため、子供たちの想像力をカタチにするSTEAMの学びに活用可能だ。


サカワ「かけるくん StarBoard」

搭載されたAIアシスタントが授業をサポート
ホワイトボードマーカーで書いた筆跡を画像データで保存可能

 黒板メーカーであり、電子黒板などの教育ICT事業も展開しているサカワ。同社が出展していたのがホワイトボードマーカーで直接書ける電子黒板「かけるくん」StarBoardだ。本製品はその名の通り、ディスプレイにホワイトボードマーカーで直接書いて、奇麗に消すことができる。ホワイトボードモードで書いた筆跡は画像データとして残すことも可能だ。また本製品はAIアシスタントを搭載しており、スタイラスペンで手書きした図形や数式をAIアシスタントに認識させ、解法などを解説してもらうことも可能だという。


HENNGE「HENNGE One for Education」

教育現場にもゼロトラスト対策を

 SaaSの活用を支えるクラウドセキュリティ製品として高いシェアを誇るHENNGE One。その教育機関向けのサービスがHENNGE One for Educationだ。文部科学省は2025年3月に「教育情報セキュリティポリシーに関するガイドライン」を改訂しており、その中で1人1台端末の利活用を進める上で、これまでの境界防御型セキュリティから、多要素認証などを活用した強固なアクセス制御による対策への転換が求められている。HENNGEでは多要素認証を実現する「HENNGE IdP for Education」と、情報漏えい対策を実現する「HENNGE DLP for Education」をラインアップしており、安全性と利便性を両立させた教育環境の構築を実現する。

Pickup Maker

Dynabook

NEXT GIGAに向けた端末を提案

 Dynabookは、NEXT GIGAに向けて、学習者用端末から校務用端末まで幅広いデバイスを提案するとともに、ARグラスを活用した教員への授業支援など、これからの教育の未来が垣間見えるソリューションも提案していた。

 学習者用端末としては、2in1デタッチャブルPCとして、Windows 11 OSを搭載した「dynabook K70」と、ChromeOSを搭載した「Dynabook Chromebook C70」を出展。実際の小学校で使われている机や黒板で教室を模したスペースで展示を行うことで、そのコンパクトさや机での滑りにくさなどをアピールしていた。またこれらの端末には、オプションでハンドル付きの純正ハードケースが用意されているほか、サードパーティー製のケースも豊富に用意されており、校外学習などで屋外に持ち運ぶ場合も安心して使える。

 今回の展示ではXRグラスの「dynaEdge XR1」とデジタル教材を組み合わせる活用シーンを紹介。机間巡視をしながら使えるその利便性の高さを訴求していた。

教室を再現したコーナーで学習者用端末の使用イメージをアピール
2in1デタッチャブルPCのDynabook Chromebook C70(左)とdynabook K70(右)。いずれもコンパクトで学校の学習机に置きやすい
XRグラスdynaEdge XR1も出展。教員が使うことで、より生徒への学習支援を円滑に行えるようにする

Artec

生成AI×プログラミングの新教材

 学校教材や教育玩具の製造・販売を行うアーテックは、プログラミング教材を多数提供している。今回の展示でひときわ目を引いたのが、来年発売予定の生成AIを活用したプログラミング支援システム「アーテックインテリジェンス」だ。これはユーザーが自然言語で指示を行うと、それに対応したPythonコードが自動生成され、マイコンボードを制御できるようになるものだ。例えば「打ち上げ花火のアニメ 下から打ち上げ」という指示文を書くと、マイコンボードのLEDで打ち上げ花火を再現するPythonのコードが生成される。生成AIにコード生成を任せることで、短い授業時間の中でプログラミングを実践することが可能になる。

 またDXハイスクール予算に対応した高校情報科向けのプログラミング教材も展示されており、IoTシステムからAIまで、技術科の教科書に沿った学習が行える。教員向けの指導の手引きなども用意されており、授業実践が行いやすい教材といえるだろう。

ChatGPTとプログラミングを組み合わせた「アーテックインテリジェンス」(開発中)。ユーザーのプロンプトに応じてPythonコードを生成し、マイコンボードを制御する本製品は、生成AI時代の論理的思考能力を育てるのに適した教材だ
アーテックが提供するプログラミング教材には指導の手引きなども用意されており、授業で活用しやすい

Pickup Seminar

大阪市教育委員会が取り組む
生成AI利活用で拓く児童生徒の情報活用能力

 大阪市教育委員会は昨年度、市内の小中学校の授業において、児童生徒のAI利活用実証事業を展開した。本セミナーでは、その実証事業の成果と今後の展開についてパネルディスカッション形式で紹介された。

 最初にコーディネーターを務める園田学園大学 こども学部 教授 堀田博史氏が、文部科学省が公表している「初等中等教育段階における生成 AI の利活用に関するガイドライン(Ver.2.0)」について触れ「近い将来、生成AIを使いこなすための力を、各教科の中で意識的に育てていくことが求められています。大阪市はこうした生成AIの活用を独自に取り組んでおり、その成果について今回お話ししていただこうと思います」と語った。

 そのバトンを引き継いだ大阪市総合教育センター 教育振興担当 ICT推進グループ指導主事 児玉 紘氏からは、大阪市が生成AIに取り組んだ経緯と概要について語られた。大阪市は文部科学省の2023年度事業「リーディングDXスクール事業」に生成AIパイロット校として参画し、市内4校を対象に実証に取り組んだ。学習と校務の両側面から活用が進められていたが、生成AIを直接利用するのは教職員のみに限っていたようだ。児玉氏は「2023年度の取り組みの総括をした際に『教育利用については児童生徒が実際に生成AIを使うことが重要なのではないか』という意見がパイロット校から出ました。その総括に基づき、2024年度は大阪市独自の取り組みとして、コニカミノルタさまと連携協定を締結し、同社の学校教育向けソリューション『tomoLinks』に搭載された対話型生成AI機能を活用した学びに取り組みました」と語る。

コーディネーター
園田学園大学
こども学部 教授
堀田博史
パネリスト
大阪市総合教育センター
教育振興担当
ICT推進グループ指導主事
児玉 紘
パネリスト
大阪市立住吉小学校 教頭
田原健之介

生成AI活用で学力向上効果も

 その学びの様子について、実証校の一つに指定された大阪市立住吉小学校の教頭を務める田原健之介氏が登壇し、実際の活用状況について報告した。「tomoLinksは教育現場向けに開発されているため、子供が不適切なプロンプトを入力すると注意してくれますし、教員があらかじめ入力したプロンプトに合わせて子供たちの施行を深めてくれるため、授業から逸脱したやりとりをしてしまうことも防げます」と語る。

 実際の授業での活用例も国語や英語、家庭科と幅広く紹介された。1年生の図画工作の授業では「Microsoft Copilot」を教員がプロンプトを打つ形で活用し、自分が作りたい画像を生成するにはどういった指示をすればよいのか、工夫する姿が見られたようだ。「かっこいい画像が生成されたからこれを使おう、ではなく、子供たちは自分たちが最初に考えた下絵により近づけるために、修正を重ねていく姿が見られました」と田原氏は授業を振り返る。

 学力面でも生成AI活用の効果が見られたようだ。田原氏は「住吉小学校は大阪市全体で見ると学力は低い方です。しかし2024年度の全国学力・学習状況調査では、国語の資料活用能力が全国平均よりも高い結果となりました。また同年の大阪市小学校学力経年調査では、キーボード入力やインターネットでの調査能力といった項目が、大阪市の平均よりも高い結果となっており、学びの道具として生成AIは非常に有効であると感じました。一方でAIを活用しなかった場合の思考が分からないという点や、授業の準備や検証が負担になるなど、課題も見えてきました」と語った。

 パネルディスカッションではこの活用実践の内容を踏まえ、今年度の夏休み中の活用や、今後の中学校での活用予定などについて話し合われた。児玉氏は「9月からは中学生もChatGPTやCopilot、Geminiなどの生成AIを利用できるよう設定変更を行う予定です。校務利用については文部科学省の生成AIパイロット校事業に参加し、教育利用については引き続き本市独自の取り組みとして継続していきます」と締めくくった。

コニカミノルタ
「tomoLinks」

 大阪市が教育現場で活用しているtomoLinksも出展されていた。tomoLinksが提供する生成AI機能の最大の特長は児童生徒が安心して使える設計にある。例えば児童が使う学習用生成AIは、教員側が生成AIの利用時間を制限したり、会話ログを後から確認したりできる。「英語でのインタビューの練習相手になって」などAIの振る舞いも事前に設定可能だ。また校務用生成AIには、各種業務のテンプレートを用意しており、校務効率の向上を実現できる。このテンプレートは授業用のものも用意されており、学年や教科で絞り込みを行って、授業に応じた振る舞いをAIに指示することが可能だという。