一般社団法人 日本情報システム・ユーザー協会が2025年4月24日に公表した「企業IT動向調査報告書2025」の第9章 未来に向けたテクノロジー活用から、新規テクノロジーの導入が組織や個人の働き方をどのように変革していくのか読み解く。コロナ禍でテレワークが急速に普及し、働き方が大きく変化して社会やビジネスのデジタル化は加速したが、テレワークから出社へとかじを戻す企業が増えている。その中で、生成AIの活用が新たな働き方をもたらそうとしている。その現状と傾向から、未来に向けたワークスタイルの期待と課題について考察していく。

新規テクノロジーの導入状況から見える変化

「企業IT動向調査報告書2025」では、30項目にわたる新規テクノロジーやフレームワークなどの導入状況を調査している。そのトップ3は、パブリッククラウド、RPA、ビジネスチャットになる。パブリッククラウドに関しては、SaaSが1位で、IaaS&PaaSが4位に位置している。パブリッククラウドのSaaSが意図するものは、「Microsoft 365」や「Google Workspace」などのアプリに近いクラウド導入と考察できる。一方のIaaS&PaaSは、「Amazon Web Services」や「Google Cloud」などのインフラ系クラウドになるだろう。また、2位のRPAに関しては現在の結果よりも、この順位が生成AIによって置き換わっていくのかどうか興味深い。そして3位のビジネスチャットは、「Slack」や「Microsoft Teams」(以下、Teams)などと推察できるが、調査報告書では具体的なアプリまでは記載されていない。そのため、TeamsのようにSaaSに含まれて回答されているとしたら、もう少し順位は異なるのかもしれない。それでも、RPAを除けばクラウドシフトが加速している現状は理解できる。

 その流れを受けて、5位にMDMが入っている。コロナ禍を経てモバイルワークやテレワークが広がっている状況が推察できる。そして、IaaS&PaaSの拡大に合わせて、6位にノーコード・ローコードがランクインしている。現場主導のデジタルトランスフォーメーション(DX)推進を加速している企業が、業務のデジタル化にノーコード・ローコード開発を実践している様子が伺える。加えて、7位のモバイルアプリもDX推進を支えていると考えられる。

 注目したいのは、8位に入った言語系生成AIだ。その伸び幅は今回の調査でも1位となっている。2位のRPAに対して倍以上の差をつけているのだ。この点から来年には生成AIがRPAを逆転すると予測できる。実際に「Microsoft 365 Copilot」(以下、Copilot)などを活用すると、RPAは不要だと感じることも多い。特に、Microsoft 365の各アプリとCopilotを連携して活用すると、プログラミングの知識がなくてもPythonのコード記述などができるようになるので、企業のデジタル教育もRPAから生成AIへと移行するだろう。

 そのほかの順位に関して、働き方改革に関連した注目点は、16位に入ったゼロトラストセキュリティにある。検討中の新規テクノロジーでは1位になっているので、本格的なクラウド活用に向けて準備を進めている企業の多さを実感できる。

注目すべきはAIとゼロトラストセキュリティ

 30項目にわたる調査報告書だが、その多くは複雑に関連しているので、単純な順位だけで働き方に関連するテクノロジーの動向を見極めるのは難しい。その中で、今後の働き方や企業の未来を大きく左右する注目ポイントは、生成AIとゼロトラストセキュリティに集約すると考えられる。まず、AIは避けて通れないテクノロジーになる。意識的に使うか使わないかにかかわらず、あらゆる業務のDX推進において浸透していくだろう。生成AIが普及する以前から、AIを活用してきた事例も多い。検討中の新規テクノロジーで2位にあるマスターデータ管理や3位のビッグデータなども、AI活用に向けた準備だと言える。そうしたデータ基盤を整備した上で、各種生成AIの導入を推進しようとする動きは加速している。

 そしてクラウドサービスとAI活用において、従来の境界型防御によるセキュリティ対策は限界を迎えている。もはや、生成AI=クラウドサービスとなっているだけに、インターネットを介して安全にデバイスを利用するために、ゼロトラストセキュリティの導入は必須となってきた。それだけに、AIとゼロトラストセキュリティ環境を整備できない組織は、デジタルを活用したビジネス競争力を維持できない可能性すらあるのだ。

新規テクノロジー導入への期待と課題

 新規テクノロジーが働き方にどのような変革をもたらすのか。その具体的な姿は調査報告書には記載されていないが、アンケート調査によれば改善を図りたい課題として、働き方改革が1位にある。その数値は、前年の43.4%から50.9%へと伸びている。その背景には、有能な人材を獲得したい組織の思いがあると推察できる。その一方で、前年1位だった既存事業の商品・サービスの変革が、50.2%となっている。どちらも前年の値からは伸びてはいるものの、意識としては「人材」を優先する傾向が強い。

 この二つの項目が伸びた代わりに、前年42%だった次世代新規ビジネスの創出が40.4%へと後退した。多少の順位の変動はあるものの、多くの企業の新規テクノロジー導入における期待は、有能な人材の確保と、その人材による既存または新規事業の創出や改善にある。中でも生成AIに寄せる期待は大きいと思われる。理想的には、生成AIを活用できる人材が数多く育ち、既存のビジネスの課題を解決したり、新たなコア事業を創出したりする未来がある。

 その期待を裏付けるのが、言語系生成AI導入検討における利用目的や用途への回答にある。ダントツの1位が、90.1%の生産性向上(業務改善など)になる。2位が人材不足解消(38.6%)で、3位にやっとデータ分析力向上(34.3%)が入っている。この結果は、アンケートの質問項目にも課題があり、テクノロジー=生産性向上と考えている人たちが圧倒的に多いのだ。

 新規テクノロジーは、その習得が必須になるので一時的に生産性は低下する。その後に、活用する力を付けた人材がテクノロジーによって能力を倍化させていく。生成AIにおいても、要約や検索の延長に活用しているだけでは、未来の働き方へと進化しない。本来の理想は、生成AIの結果を上回る答えやビジョンを描ける人材の育成が鍵となる。そのためにも、まずは新規テクノロジーの導入が必須となる。そして、そのテクノロジーを使う側でも便利さの先にある未来を見据えた働き方を目指していく必要がある。調査結果から見えてくる次世代の働き方は、ゼロトラストセキュリティで守られた柔軟なワークスタイル環境で、生成AIを駆使した事業推進を担う姿といえるだろう。