アドバンスト・メディアが提供する医療現場向け記録作成支援サービス「AmiVoice iNote Lite」は、iOSデバイスに対応した音声認識アプリだ。インターネットを使わずに、スタンドアローンの音声認識による声の記録をテキストとして保存し、Bluetooth経由で診療端末などへ転送できる。記録業務の省力化と時間短縮を実現し、医療や介護の現場におけるワークスタイルの変革に貢献する。
PHSからスマホへの移行が導入の追い風
医療現場では、電磁波の影響が少ないという理由から長い間Personal Handy-phone System(PHS)が利用されてきた。PHSの利用は音声によるコミュニケーションが中心だったが、2021年1月にサービスが終了すると、医療機関でも院内でスマートフォンの導入が進んだ。しかしPHS時代の風習からかスマートフォンが導入されても、通話としての利用が中心で、スマートデバイスとしての活用は進んでいない。そうした背景からアドバンスト・メディアは、iOSデバイスに対応した音声認識アプリの「AmiVoice iNote Lite」を開発した。
AmiVoice iNote Liteには医療分野に特化した辞書が搭載されているため、通常の音声認識では変換できない専門用語もテキストにできる。例えば「じょくそうじょうたいはかいぜんほうこうにむかっています」という音声を、スマートフォンの標準的な音声認識機能を使ってテキストにすると「熟送状態は改善の方向に・・」と認識されてしまう。「褥瘡」という漢字は変換できても、音声辞書に登録されていなければ医療現場で求められるテキストには認識されない。そのほかにも「おうだこんがあり」という音声は、医療関連の辞書が搭載されていなければ「大田コンがあり」と誤変換されてしまう。
一般的な会話やビジネス用語であれば、スマートフォンの標準的な音声認識機能でも問題はないが、医療現場に限っては領域特化型の辞書の有無が音声認識の精度を大きく左右する。そのため、単にPHSからスマートフォンへ端末を更新するだけでは、医療現場に特化した音声認識によるメモの記録は難しかった。そこでAmiVoice iNote Liteは、医療現場で働く看護師や理学療法士などの記録業務に焦点を当て、省力化や時間短縮に貢献するさまざまな機能を提供している。
医療現場や介護施設での導入が加速
AmiVoice iNote Liteを導入した医療法人の事例によれば、約70%の業務時間を削減したという。具体的には、患者への一回の介入に当たる記録に要する時間が約2分短縮された。またリハビリ専門職では、約18分も短縮されている。医療の現場では、看護師やリハビリ専門職が患者に対応した後で、PCからキーボードで記録を入力している。リハビリ専門職では、キーボード入力に約25分かかるケースが多かったが、AmiVoice iNote Liteの導入により、変換されたテキストをPCに転送する作業を含め約7分で処理できるようになった。記録にかかる時間を短縮することで、多くの患者のリハビリ対応が可能になり、結果として医療機関の収益増にもつながるという。
実際にAmiVoice iNote Liteを利用した看護師やリハビリ専門職へのアンケートでも、約7割が「速くて簡単」と回答している。中でも大きな効果は、音声で入力できるので移動中や処置の直後に記録を保存可能な点にある。時間が経過してからPCの前で思い出しながら入力することがなくなり、時間の短縮と記録の正確性も増す。またAmiVoice iNote Liteでは、音声入力によるテキストのほかにスマートフォンで撮影した写真もPCに転送できるので、記録の内容も充実する。
AmiVoice iNote Liteの導入により効果が期待できる医療機関は、ある程度の看護師やセラピストが従事している規模になる。目安としては、200床以上の経営規模が想定されている。その一方で、小規模でも導入が進んでいるのが訪問介護や介護施設などだ。介護の現場では、介護師が要介護者に対応している時間が長いので、記録を残すために音声の利用が効果的になる。訪問介護では移動中に記録できるし、介護施設ではPCの部屋まで戻らなくても記録可能だ。そうした利便性と医療分野に特化している辞書による音声変換の精度を提案すれば、小規模な介護事業所でも導入の効果が期待できる。
さらに、AmiVoice iNote Liteの上位版である「AmiVoice iNote」であれば、院内Wi-Fiが整備されている環境で利用可能で、Apple Watchとも連携できる。Apple Watchから音声入力やスタンプの送信が可能だ。Apple Watchとの連携は、スマートフォンを持ちながら作業できない看護の現場で役立つだけではなく、ガジェット好きな医師からも好評だという。
医師の働き方改革にも貢献していく
AmiVoice iNote LiteはiOS 15以降に対応し、iPhone 8以降で利用できる。PCへの転送にはBluetoothを利用するので、Wi-Fiなどの接続は不要だ。オフライン環境でも記録が行える。Bluetoothで転送されたテキストや画像データは、WordやExcelなどのアプリに貼り付けられる。
シンプルで使いやすいAmiVoice iNote Liteによる医療や介護現場での記録の効率化は、医師の働き方改革にも貢献できる。厚生労働省の「医師の働き方改革に関する検討会」の報告書によれば、労働時間を短縮するための具体的な方策として「タスク・シフティング/シェアリング」が提案されている。タスク・シフティング/シェアリングとは、医療現場で医師の業務をほかの医療従事者に移管したり、共同化したりする取り組みだ。タスク・シフティングは、医師の業務の一部を看護師や薬剤師などの医療従事者に移管し、医師の負担を軽減する。タスク・シェアリングは、特定の医師に集中している業務をほかの医師と負担し合い、業務の偏りをなくすものだ。
こうした取り組みを推進するためには、医師だけではなく看護師や薬剤師などの医療従事者の業務負担を軽減する取り組みも並行して行う必要がある。AmiVoice iNote Liteによる記録の効率化と省力化は、そうした働き方改革に大きく貢献できる。