2025年4月23〜25日にかけて、東京ビッグサイト 南展示棟で第16回EDIX(教育総合展)東京(以下、EDIX)が開催された。3日間の合計来場者数は2万3,858名。多くの教育関係者や関係企業が訪れ、最新の教育ICTソリューションやデバイスの紹介に耳を傾けていた。本記事では今年のEDIXの様子について、メーカーごとに紹介すると同時に、注目カテゴリー製品もピックアップして紹介していく。

来場者層も多様化した
2025年のEDIXの様子

 EDIXの会場を歩くと、例年と比べて学校教員や教育委員会の職員のみならず、学生や生徒の来場者の姿も多く見られた。それらの生徒の一部は、出展企業のブースセミナーにおける事例発表の場に立ち、生徒自身の視点から教育に関する取り組みの実体験を語っていたり、コンテストの発表内容を多くの聴衆の前で堂々とプレゼンテーションしたりしていた。実際に生徒たちの視点から語られるセミナーは、来場者の教育関係者にとっても興味関心の強いトピックスであり、多くの人々が足を止め、その内容に聞き入っていた。もちろん、学校や企業担当者によるプレゼンテーションも人気で、最先端の取り組みや製品の情報をキャッチするべく、セミナーコーナーの前で足を止める人々が多くいた。

 出展企業の製品の傾向を見ていくと、やはり生成AIをはじめとしたAIを活用した教材、校務支援のサービスが多く見られた。教科書準拠の生成AIは個別最適な学びに役立ちそうだ。

 また、GIGAスクール構想第2期(以下、GIGA第2期)に向けて、各PCメーカーからはWindows PCやChromebookなどの学習者用端末が出展されていた。堅牢性の高さやバッテリー交換のしやすさなど、GIGAスクール構想第1期(以下、GIGA第1期)を踏まえた改修が数多く加えられている端末が目立った。

 児童生徒の教育環境だけでなく、教員の校務にもDXの波が訪れている。文部科学省は教員の働きやすさと教育活動の一層の高度化を目指し、校務DXに関する目標を「教育DXに係る当面のKPI」として設定している。EDIXではそれらの校務DXを支援する校務支援システムのほか、生成AIを活用した校務効率化提案なども行われていた。

Google

グーグルでは、AIを活用した最新ツールをはじめ、Google for EducationやChromebookなどを出展した。どのコーナーにも多くの来場者が訪れていたが、中でも全国の教育委員会や学校関係者が登壇して事例発表を行うプレゼンシアターや、同社の生成AIである「Gemini」「NotebookLM」の注目度が高かった。特にNotebookLMは、学校内の情報や学級新聞を読み込ませて、専用のチャットボットを作ったり、Podcastのように音声でその内容を説明してくれる音声概要を利用できたりするため、多くの教育関係者の関心を引いていた。グーグルではこうした生成AIを初めて活用する教育関係者向けに「Geminiアカデミー」というトレーニングプログラムも用意しており、教育現場でAIを適切に活用するための支援にも取り組んでいるという。

教育関係者による事例発表を実施
生成AIツールに注目が集まる
教員向けに「Chromebook Plus」も提案

Microsoft

日本マイクロソフトは「AI in Education みんなで創る GIGA の未来」をテーマに掲げ、同社の「Microsoft 365 Copilot」や「Copilot+ PC」「Learning Accerelators」といった生成AIソリューションの最新情報を教育現場に届けていた。例えばMicrosoft 365 Copilotのコーナーでは、特定のニーズに合わせて構築された「エージェント」を用いて、通知表への所見コメントを作成するサポートをしてもらうような活用方法を提案するなど、AIを活用することで実現する教員の働き方改革を紹介していた。また、マイクロソフトは今年設立50周年を迎えている。EDIXの同社のブースではマイクロソフトのこれまでの歩みと、教育分野への取り組みや、ユーザーから寄せられたコメントなども展示されていたほか、フォトスポットも用意され、来場者でにぎわっていた。

Minecraft カップ最優秀賞がプレゼン!
Copilotを組み合わせた業務効率化を提案
PowerPointとCopilotの組み合わせ
セキュリティ対策や校務DXも支援

Dynabook

Dynabookは、学習者用端末のWindowsOS搭載「dynabook K70」およびChromeOS搭載「Dynabook Chromebook C70」を出展。小学校の教室をイメージした空間の中で、これらの端末のコンパクトさ、使いやすさを来場者に訴求した。今回新たに出展したDynabook Chromebook C70は、Chromebook端末の中でも特徴的な2in1デタッチャブル型だ。通常デタッチャブル型の端末はモニター部にスタンドが付いており、その分設置スペースが必要となることが多いが、同社の学習者用端末はいずれもクラムシェルノートPCのように自立する。dynabook K70にはアクセシビリティ向上ソフトウェア「せっていのとびら」が搭載され、色の違いが認識しづらかったり、小さな文字が見えにくかったりする子供でも画面が見やすくなるよう、簡単に設定が行える。

教科書やノートと一緒に使えるサイズ感
せっていのとびらでアクセシビリティを向上!
左がdynabook K70、右がDynabook Chromebook C70

SHARP

Dynabookと共同出展したシャープは、「独自アプリケーションを通じた学びの質の向上」、「最新機器による充実した学校生活」、「STEAM教育の具体事例を含めた先端教育の創出」の三つのテーマで展示を行った。その中でも多くの人々が足を止めていたのが三つ目のSTEAM教育関連展示だ。軽量で眼鏡のようにかけて使えるヘッドマウントディスプレイ(HMD)や、メタバースプラットフォーム(いずれも参考出品)、サードウェーブの高性能PC「raytrek」、ChatGPTに対応したロボット型スマートフォン「ロボホン」、Bambu Labの3Dプリンター「P1S」シリーズなどが展示されていた。シャープは北海道奥尻町でこうしたSTEAM教育環境を用いた教育課題解決に取り組んでおり(デジタル田園都市交付金事業)、今後このパッケージ環境を他の自治体に横展開していきたい考えだ。ブースでは札幌国際大学 スポーツ人間学部 スポーツビジネス学科 教授の竹元賢治氏によるSTEAM教育に関連したセミナーも実施された。

STEAM教育で使える製品が集合!
竹元氏のセミナーがオンラインで実施
ロボットやHMDなどを展示。
実際に体験もできる

HP

最新の教育向けデバイスとソリューションを多数展示した日本HP。GIGA第2期向けの学習者用端末として「HP Fortis Flip G1i 11 No tebook PC」「HP Fortis Flip G1i 11 Chromebook」を出展。応用パッケージではau回線を利用した法人・教育機関向けMVNOサービス「HP eSIM Connect」対応の端末を提案しており、場所を選ばずに学習端末が利用できるメリットを教育関係者に訴求していた。実際、HP eSIM Connect対応の「HP Fortis x360 G5 Chromebook」は沖縄県伊平屋島の中学校で試験導入され、子供たちの自主性が育っているようだ。教員が利用する校務用端末もHP eSIM Connect対応モデルを出展しており、通信コストを削減しながら柔軟な働き方を実現できる端末として、来場者から高い関心があった。

HP eSIM Connect対応の校務向けノートPC
会場は大盛況だった

THIRDWAVE

ローカル生成AI基盤として使えるraytrek

DXハイスクール(高等学校DX加速化推進事業)やSTEAM教育に向く高性能PC「raytrek 4C」シリーズや、eスポーツ部などで活用が進むゲーミングPC「GALLERIA」を出展したサードウェーブ。惺山高等学校では実際にDXハイスクールで整備された環境を生かし、eスポーツ大会やイベントをeスポーツ部の生徒が企画したという。サードウェーブのセミナーコーナーではこの経験を生かした惺山高等学校の高校生起業家が、その取り組みを講演した。またサードウェーブのブースでは開隆堂出版のローカル生成AI「kAIryuくん」も出展されていた。KAIryuくんはテスト問題や多読教材、リスニングの音声を手軽に作れるAIツールだが、SaaS型の生成AIと異なり開隆堂の教科書に準拠していることや、サードウェーブの「raytrek Workstation X6630」上で動作することから、セキュアで教育現場利用に適しているという。

惺山高等学校の生徒がセミナーに登壇

Lenovo

学習者用端末の堅牢性と、その端末を利活用するための教育アプリケーションや運用サポートを含めたトータルパッケージ「Lenovo GIGA School Edition」を訴求していたのがレノボ・ジャパンだ。特に注目を集めていたのがコンバーチブル型の11.6インチChromebook「Lenovo 500e Chromebook Gen 3」(以下、500e)で、同社が現在販売しているGIGA第2期向け学習者用端末約120万台の内、100万台がこの500eだというから驚きだ。鉛筆をスタイラスペンの代わりにして画面に描画できる機能や、ユーザー側でバッテリーを交換できる利便性の高さが魅力のようだ。同社の学習者用端末にはポプラ社の電子図書館「Yomokka! Lenovo GIGA School Edition」をはじめとした端末利活用を推進するコンテンツがセットになっており、ハードとソフトの両面から子供たちの学びを支援していく。

読みに困難がある子供たちをサポートする「よむサポ」
Lenovo 500e Chromebook Gen 3が大人気!

NEC PC

未来の学びに導くICTソリューションを展示したNECパーソナルコンピュータは、GIGA第2期学習者用端末として「NEC Chromebook Y4」を出展。筐体の耐久性の高さやバッテリーのセパレート化など、GIGA第1期の活用状況を踏まえた強化ポイントを訴求した。また、Z世代のためのノートPC「LAVIE SOL」も出展。人気YouTube番組のスピンオフから誕生した製品で、タッチ対応でシンプルなアルミ筐体、長時間稼働バッテリーなど、Z世代の視点から企画されたノートPCだという。実際、大学生協で同社の他のノートPCと並べて販売すると、圧倒的にLAVIE SOLの人気が高いという。そのほか、NECのインタラクティブホワイトボード「Brain Board」も展示し、教育現場での使いやすさを訴求した。

Z世代の視点で開発!
図形も簡単に書ける!
本ページでは今回のEDIXで見つけた注目の教材や製品をピックアップして紹介する。まず数多くの企業が出展していたのがAIを活用した教材だ。子供たちの個別最適な学びを実現するツールとして、生成AIを含むAI教材は非常に効果的といえるだろう。次にVRやWeb会議ツールなどを活用した防災教育を提供する企業や団体が見られた。命を守る教育にテクノロジーを役立てているのだ。また、年々暑さが増していく夏に向けて、暑さ対策をテクノロジーで実現しようとする動きもあった。センサーデバイスやカメラを活用することで、子供たちの健康を守りながら安全な学校生活を送るための整備が、今後求められていきそうだ。

AI教材

東京書籍が提供する「教科書AI ワカル」は教科書と連動した生成AIが子供たちの学びをサポートする。生成AIのワカル先生の話し方もユーザー側で設定できるようで、学習者に合わせたサポートを行ってくれる。
河合塾グループは学習塾向けAI教材「河合塾One」と、撮影した問題を解説してくれる生成AIアプリ「Manabie AIチューター」を組み合わせた活用を提案。
ベネッセグループが提供する「ミライシード」にもAIを用いたドリル教材が搭載されている。

防災教育

東京カートグラフィックは地図を使ったデジタルサイネージ防災ゲーム「守れ!サイガイ防衛隊」を展示。ショッピングモールなどに設置しての防災教育に役立てるほか、学校向けには「地図防災特別授業」として災害リスクを可視化したゲームイベントなどの展開も行っている。
WARKはVR地震体験、VR床上浸水体験、AR火事シュミレーターなど、六つの災害体験アプリがセットになったサービスを提案。XR技術を用いて防災教育を行う。
南三陸町観光協会は、町の震災伝承施設「南三陸311メモリアル」での防災教育を紹介。オンラインでの事前学習や講話なども行っているという。

暑さ対策

シャープが出展した「アイススラリー冷蔵庫」は市販のペットボトル飲料から簡単にフローズン状の飲料(アイススラリー)を生成できる冷蔵庫だ。学校の暑熱対策用途需要に向けて、レンタルサービスでの展開を行う。
ポーラメディカルはカメラに顔をかざすことで、AIが顔色や表情、発汗などの状態と外的気温や温度などの情報を統合し、リスクを知らせる暑熱対策AIカメラ「カオカラ」を出展。
ニフコは学校の校庭や体育館などの暑さ指数をセンサーで測定し、その測定結果をもとに熱中症リスクを可視化するサービス「PLUSchool Wellness」を出展。先行導入希望のモニター校を募った。