【第37回】「Canvas」と「Gem共有」がもたらす新たなワークスタイル

本連載でおなじみの「 Gemini アプリ 」が、また一歩進化しました。単なるチャットインターフェースであった初期の姿から、私たちの仕事や学習のあらゆる側面に深く溶け込み、頼れるワークパートナーへと変貌を遂げています。そして今、その進化をさらに広げる二つのアップデートが加わりました。それが「 Canvas 」のプレゼンテーション作成機能と、「 Gem共有 」機能です。今号では、この二つの大きな進化について詳しく解説します。

　まずは、個人の創造性を飛躍させる「 Canvas 」機能の強化について見ていきましょう。

　以前より「 Geminiアプリ 」に搭載されていた Canvas は、テキストプロンプトだけではなく、画像、Webリンクなどを自由に配置できるまさに無限のキャンバスでした。ブレインストーミングで散らかったアイデアを視覚的に整理したり、複雑な指示をAIに与えたりするのに最適な機能です。しかし、これまでの課題は「整理したアイデアを、どのようにして具体的なアウトプットに落とし込むか」でした。

　今回のアップデートで、 Gemini はこの課題を解決しました。Canvas 上に配置されたテキストや画像といった要素の関連性をAIが理解し、それらを論理的な流れを持つ「Google スライド」などのプレゼンテーション資料の構成案として自動で生成できるようになったのです。ユーザーは、Canvas 上で自由にアイデアを拡散させた後、「この内容でプレゼン資料を作成して」と指示するだけで、Gemini が各スライドのタイトル、箇条書き、さらには関連する画像の提案まで行います。

　これは、0から1を生み出す「発想」のフェーズと、1を10に磨き上げる「構築」のフェーズが、シームレスにつながったことを意味します。これまでアイデア出しと資料作成にかかっていた膨大な時間を、AIが劇的に短縮してくれるのです。

　Canvas が個人の創造性を形にする機能だとしたら、次に紹介する「 Gem共有 」機能は、その知見をチームの力に変える役割を担います。

　「 Gem 」とは、特定のタスクや役割に合わせて Gemini の振る舞いをカスタマイズし、保存しておける機能です。「あなたはプロのマーケティングコピーライターです。五つのキャッチコピー案を提案してください」や「あなたは熟練のプログラマーです。Pythonコードをレビューし、効率的な代替案を提案してください」といった詳細な指示を Gem として保存できます。これまで、この Gem は非常に便利な半面、あくまで“個人用”のツールでした。そのため自分が丹精込めて作り上げた優秀な Gem を、ほかの人と共有することはできませんでした。しかし、今回のアップデートによって、作成した Gem をほかのユーザーと共有できる機能がついに搭載されました。

　生成された共有リンクを送るだけで、チームのメンバーや友人が、あなたと同じようにカスタマイズされた Gemini を利用できるようになったのです。以下は、Gem の共有の利用シーンの一例です。

・業務の標準化：「企業のブランドガイドラインに沿ったプレスリリースを作成する Gem 」を広報担当者が作成し、チーム全員で共有できます。これにより、アウトプットの品質が標準化され、レビューの手間が大幅に減らせます。
・ノウハウの継承：営業部門のエースが「効果的な提案書のアシスタント Gem 」を作成・共有すれば、新人メンバーでもトップセールスマンの思考プロセスの一部を活用しながら資料を作成できます。
・コミュニティーの活性化：優れた Gem がコミュニティーで共有されるようになれば、「こんな便利な使い方があるのか」といった発見が連鎖し、全体の生産性向上につながります。

　前述した通り、 Geminiアプリ は、ここ数カ月で二つの劇的な進化を遂げました。

1．Canvas が、アイデア出しからプレゼン作成までをシームレスにつなぐ「AI アシスタント」に進化したこと。
2．Gem共有機能が、個人の知見をチームの資産に変え、業務を標準化・効率化する「コラボレーション・ツール」へと進化したこと。

　Gemini は、私たち一人ひとりの能力を拡張し、さらにチーム全体の創造性と生産性を高める“統合ワークパートナー”と呼ぶべき存在へと、その姿を変えつつあります。この進化の先で、私たちの働くという概念がどう変わっていくのか。 Gemini の次の一手から、ますます目が離せません。

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